(5)俺たちの明日は・・・・・・・どっちだ?
【空間創作時空収納空間】という魔術の発動準備を始めるマコトに、そういえば脱線していたなと苦笑しながら話を戻す俺。
「大きく脱線してしまったが、話を戻すぞ、マコト。」
「うん?なんの話だっけ?・・・・・ああ、最初はみんなに、【アイテムボックス】を付与できるかどうかだったね。」
「そうそう。その話だ。で、できるのか?さっきの話じゃないが、これができる魔術師なんて、本当に1国に1人いればいい方じゃないのか?」
「まあ、そうだね。特にこの世界の住民で、【空間創作時空収納空間】を使える人なんて、ほとんどいないんじゃないかな?そして、他人に付与できる人なんて、現状ではボクとヒカリちゃんくらいだと思うし、ヒカリちゃんはたぶん、一緒にいるコトリちゃんに【アイテムボックス】を付与しちゃうだろうからね。
だからボクも、知り合いになら別にいいかなって思っている。」
どうもマコトは、ヒカリちゃんの動向を気にしていたらしい。
その上で、ヒカリちゃんと一緒に行動しているだろうコトリちゃんには、たぶん【アイテムボックス】を付与するだろうと思い返し、それならばマコトと親しくしている人になら、付与してしまっても構わないと結論付けたみたいだ。
「でもね、さっきも話したと思うけど、この中で広大な容量を確保できそうなのは、マナミちゃんくらいだよ?コウタとケンジは、微妙なラインだと思うけど、・・・・・それでもいいの?」
「微妙って、どのくらいだ?予測される容量を教えてくれ。」
「ん~~~~~~。あくまで予測だけど、ゲームの中での話で、半年くらい前にボクがこの魔術を使って【アイテムボックス】を創った時は、地球サイズの容量があったね。ゲームの中の魔力量がそのまま今の魔力量だとすれば、今から創る【アイテムボックス】は、地球が10個くらいはいる広さはあるだろうね。ここから鑑みるに、ボクの次に魔力が多いマナミちゃんが、たぶん地球サイズくらいはありそう。生産関連で魔力をたくさん使っていて、結構魔力を多く持っているケンジで、だいたい月くらいはあると思うよ?そして、一番魔力が少ないコウタでも・・・・・・・、そうだね。太平洋の体積くらいは、余裕で入る大きさの空間ができそうだね。」
「それだけあれば、『中の大きさは気にしなくても大丈夫』って言わないか?」
「今言った数値は、あくまで予測される最大値でだよ?まあ、最も少なく見積もっても、今は離した数値の割前後だとは思うけどね。まあ、どちらにしても、コウタの言うとおり、『中の大きさは気にしなくても大丈夫』なんだけどね。」
一番魔力が少ない俺でも、最大値で太平洋の体積の1つ分、最小値で太平洋の体積の1割前後らしい。確かに気にしたら負けのような広さである。そこで、とある疑問が浮かんでくる。
「マコト、1つ確認だが。例えば、一番魔力を持っていない人に【アイテムボックス】を付与した場合、どのくらいの広さの空間ができるんだ?」
俺のこの質問は、ケンジもマナミちゃんの期になっていたらしく、しきりに頷いて聞く体制になっていた。
「・・・・そうだね。最大値で、そこにある湖の体積くらいある空間ができるんじゃない?もっとも、空間を維持するために、最大保有量の1割くらいの魔力を常時使っていくから、【アイテムボックス】を付与した場合は、それ以外の魔術は一切使えなくなる思うけどね。
ああ、コウタは大丈夫だよ。最大値で太平洋の体積の1つ分、最小値で太平洋の体積の1割なら、十分他の魔術も使用できるようになるしね。それに、常時魔力の1割を使ってくれるという事は、それだけ保有する魔力量も増えていくって事だからね。」
「・・・・・ああ、そういやそんなせってもあったな。『通常は就寝時に使用した魔力量の5%増しで回復していく』だったけか?」
「そうそう。そんな感じ。僕やマナミちゃんなんかが持っている『魔力増大』っていうスキルがあれば、スキルレベルに応じて回復量が上がっていくね。確か・・・・・・、半分くらいで2倍程度の回復量で、カンストしていると10倍だったけか?
まあ、この話はここまでにしておいて。
【アイテムボックス】の付与は明日以降にしてね。」
「なぜだ?」
「まずこんばんは、ボクが【空間創作時空収納空間】を使って、ボク自身に【アイテムボックス】を創るんだけど、その時確実に気を失うんだよね。」
「そうだったな。全魔力を一気に使うから、喜恵雄失うんだっけか?」
「そう。そして、他人に付与する場合も同じで、術者と対象者双方が気を失うんだよ。さらに言えば、一気に数人纏めてなんてことは出来ない。これは、魔術書が数冊纏めて作れないのと同じ事で、体内に直接魔術書を焼き付ける行為だからね。原理は同じってこと。」
「そうなると、今日を入れると、あと4日かかるというわけか。」
「そういう事だね。というわけで、最低限、ここで4日間過ごす事になるよ。」
「・・・・・まあいいか。【アイテムボックス】のためなら、4日位出発が遅れてもな。それに、食い物には事欠かないからな、・・・・・ここは。あと雨露も凌げるから、雨が降っても大丈夫だし。」
というわけで、【アイテムボックス】のためだけに、ここで4日間をすぐすことにした俺たち4人。結果、それぞれの【アイテムボックス】の容量は、予測されていた最大値の半分程度に収まった。半分って言っても、一番魔力の少ない俺でも、太平洋の容積の半分だからな。
閑話休題。
あの湖を出て5日ばかり、俺たち4人は森の中を順調に走破している。
・・・・・・どちらかといえば、遭難しているといった方が正しいとは思うが、全員そんな事は気にした様子がないので、これはピクニックだと思っている。
「せやっ!」
何度目か解らなくなるほどの魔物を殺した後、俺は一息つくようにその場に座り込んだ。椅子代わりになっているのは、先ほど殺したイノシシみたいな魔物(地球でいえば、瓜坊と呼ばれるイノシシの子供だが)だ。
もっぱら、瓜坊といっても、軽トラくらいの大きさがあるが・・・・・。
ちなみに、母親らしき魔物は、少し離れた場所で、ケンジによって解体されている最中だったりする。ちなみに母親のサイズは、2トントラックほどある。
まあ、ピクニックにしては、ちょっとばかりスリリングな体験が混じってはいるが・・・・・。
「【身体清浄】」
俺は、椅子代わりの瓜坊に腰かけながら、生活魔術の1つである【身体清浄】を使って血糊などを洗い流す。俺の体が淡く光り、体中や制服についていた魔物の血や脂が、一瞬のうちにきれいになくなる。
やっぱり魔術はすげえや。こびり付いた汚れが、一瞬のうちになかった事になるんだから。
ちなみにこの魔術は体の汚れだけではなく、身に着けている服などの汚れもきれいにしてくれる。そのため、戦闘後はこの魔術のお世話になるのがいつもの日課になりつつある今日この頃。
そのためこの魔術は、冒険者や旅商人をしている者たちにとっては、必須の魔術だといえる。・・・・とは、マコト談である。少なくとも、ゲームの中ではそうだったらしいが、この世界ではわからないんだよな・・・・。まだ1人も現地人?と出会っていないから・・・・・。
まあ、それはいいとして。
この魔術があるおかげで、着の身着のままでも何とか清潔に保っていられるので、こんな生活でもなんとかなっているんだと思っている。
その時、森の中をありえない軌道を描いて紫電がひた走っていく。・・・・・・幾条にも。
たぶん何かがいたんだろうと思うが、俺が視認するよりも先に、あちこちで断末魔のような悲鳴が鳴り響いてくる。この悲惨な光景を創り出した俺の最愛のマコト嬢は、たぶん倒した魔物たちの回収に向かっていると思われる。
・・・・・モノの数分もあれば、ここに帰ってくるだろうが。
「ただいま~~~~~。」
そんな事を思っている矢先に、俺に抱き着くように転移してきたマコト。すでにマコトの容姿は、俺の理想通りの女の子になっている。なお、現在着用しているセーラー服は、胸のあたりはピチピチで窮屈そうだが、身長が縮んだせいで船体的にはだぶだぶの状態である。
「お帰り、マコト。それで、何が何匹くらいいたんだ?」
「ん?え~~~~~っとね。狼みたいなやつが10匹かな?どいつもこいつも大きさは軽トラくらいあったけど・・・・・。」
なお、俺とマコトが、こうしていちゃついている時、向こうの方でイノシシの解体をしているケンジの隣では、マナミちゃんが寄り添って、俺たちと同様にいちゃついている。
ついさっきまでなられていた殺伐とした空気が、一瞬で砂糖を吐きだしそうな甘々な空気に変化する。
・・・・・・・まあ、いつもの俺たち4人の、普段通りの光景であるので、気にしたら負けだ。
ケンジの解体が済んだところで、再び森の中を歩きだす俺たち。
途中で見つけた獣道のような空間を歩いていくと、幅が3mほどの土を押し固めただけの空間を発見する。平衡に続く2本の轍のような跡と、少し草の生えかかっているむき出しの大地・・・・・・。
「これって、どう考えても道だよね?」
マコトが、考える事もなくそんな結論に達する。
「ああ、馬車の車輪のような轍が続いているからな。それに、馬糞らしき物体も転がっている。街道で間違いないとは思うが、あまり使われていないようだな。」
ケンジが、地面の様子を観察しながらそう断言する。
「となるとだ。どっちに向かうのが正解か?という考えになるな。」
俺が、どっちに向かえば、より大きな町ないし、集落ないしに出るのかを考える。俺の言葉に、皆が少し考え込む。集落の大小の違いもあるが、どっちに進めば、より早く集落に到着できるのかの問題もある。
「でもこの馬糞?結構新しいよ。この乾燥具合だと、まだここに転がってから2~3日ってところじゃないかな?こないだ雨が降ったのが、20日くらい前で、それから今日まで降っていないからね。」
マナミちゃんは、天候と道の落ちていた馬糞の乾燥具合で、つい最近この道が使われていたと推測する。
そういえば、マコトが最後、・・・・・俺に【アイテムボックス】を付与した日の朝から10日間ほど雨が降っていたな。結構激しい雷雨だったし、マナミちゃんが生理になってしまったから、大事をとって生理が終わるまでは動かなかったんだよな。
「そういえば、マコトの生理・・・・、というか、初経はいつ来るんだろうな?」
「なぜ、そんなこと聞くの?男なら関係のない事でしょ?」
俺の呟きに、マナミちゃんが食って掛かってくる。が、今の俺たちは、男だろうが女だろうが、体調不良を起こしやすい身体的イベントは、全員が把握しておかないと大変な事になる。
「いやな、ほら。マナミちゃんの生理が結構重たかっただろう?」
「そうだね。私の生理って、前半3日ばかりが重たいけど、後半は逆に軽くなるからね。」
「でだ、それを前提条件としてマナミちゃんに聞くけど、生理中の魔術ってどんな感じだった?ほら、よく小説なんかでは言われているじゃん?
月の運行と魔力には相互関係があるだとか、生理中は魔術が使用できなくなるとか。
敢えて確認はしなかったけど、マナミちゃんはどうなんだろうって、今さらながら思う出したんですよね。そうなると、つい先日男の娘から女の子になったマコトはどうなんだろうって。俺たちのパーティの要はマコトだからね。体調不良となりやすい、身体的イベントの周期くらいは覚えておいた方がいいんじゃないか、と思ったわけですよ。」
「そういわれると、そこら辺の確認はしてなかったよね~~~~。」
俺の意見に、怒りの矛先を治めたマナミちゃんが、少し考え込む。そこに、ケンジがこう言ってくる。
「確かに前回のマナミの生理の時は、そのあたりの事の確認はしてなかったな。マナミもまたマコトと同じで、パーティ内の要だしな。マナミ、次の生理の時は、そのあたりの事も確認しておいてくれるか?場合によっては、生理期間中は大事をとって休息期間としたい。」
「・・・・・そうだね。そういわれると私も、そのあたりの事を確認しておかないといけないと感じたよ。で、マコトちゃんは、何時頃来そうだと思っている?」
「そうだね~~~~~。ボクが、男の娘から女の子になったのが20日くらい前。ボクみたいに、現実世界で魔術によって性転換した例はないからね。なんとも言えないけど、あと10日くらい先が初経の始まる危険日だと踏んでいるよ。」
「だとすると、私と周期的には重なりそうだよね。」
「そうだね。そうなっていた方が、ボクたちにとっては、いろいろと都合がいいよね。」
「・・・・・まあ、話を振っておいてなんだが、そのあたりは要観察だな。マコトは生理になったら、皆に伝えてくれるとありがたい。仮に魔術と整理に何らかの関係があった場合は、その期間は動かない事もあり得るからな。マコトが初経を迎えた場合、その対応をマナミちゃんにすべて丸投げしてしまうが、お願いできるかい?」
「いいよ。男ではそのあたりは対応不能だろうしね。」
またもや大きく脱線してしまったが、脱線した内容が内容だけに、この問題は真剣に考えておかないといけないだろう。
「脱線してしまった話を戻すぞ。この街道、どっちに進もうか?」
「こういった山の中にある集落の場合、基本的に谷筋に沿って発展している場合が多い。軍事上、わざと高台に集落を構える場合もあるが、水の確保と農地の確保、あとは街道の整備の問題で谷筋が圧倒的に多い。
これを踏まえて現状を考えると、谷筋に向かっているだろう方向に進むのが正解だろうな。」
「となると、街道が下っている方向・・・・・、この場合だと左手に進む方がいいのか。」
という事で、ケンジの意見を採用し、街道が下って行っている方向に足を向けるのであった。