(4)魔術について、少し考察してみた
これから先、この世界で生き残っていくために、俺たち4人はパーティを組む事にした。すでに知古の間柄であり、それぞれの趣味嗜好も筒抜けの4人である。あのゲームで鍛えてきたそれぞれの持つスキルを鑑みてもとてもバランスがいい戦闘パーティが組めるしね。ついでに言えば、この4人で協力すれば、生活面でも安泰である。
そして俺たちは、お互いの事を名前で呼び合う事にした。理由は、ここが異世界だから。
いろいろあって今いるここが、地球ではなくどこかの異世界だと断定しており、そうなると苗字(家名)で名乗りあうと、いろいろと問題を引き起こしかねないためだ。
特に貴族関係でのゴタゴタは、必要最小限に避けたいものだ。そういう世界を、地球において多少なりとも齧っていた、マコトやマナミちゃんの意見に賛同した形である。
表側しか知らない俺とケンジからすれば、とても華やかで豪勢な世界だが、裏側まで知り尽くしている2人にとってみれば、覚悟もなくあの世界に足を踏み入れるべきではないとの事だ。
なお、生活面はマコトとマナミちゃんに丸投げである。その方がいろいろと考えなくてもいいそうだ。なんせ俺とケンジは、家事関連は全然だからな。一応食事は作れるのだが、おおざっぱな所謂男飯というヤツである。
本人たちもそれでいいよと言っているので、すべてお任せの丸投げである。
その代わり、力仕事以外はすべて俺たちに丸投げされた。まあ、魔術を利用した方が早く片付く場合は、その限りではないが・・・・。
また現状は、雨風が凌げる場所がないため着のみ着のままだが、現在先ほどマコトが倒した空飛ぶトカゲの皮と骨を利用して、俺とケンジがテントを製作中である。マコトとマナミちゃんは、空飛ぶトカゲの解体した肉や体液を使って、何やら創作料理にチャレンジ中である。
即席ででっち上げた巨大な鍋(マコトが魔術ででっち上げた)の中には、空飛ぶトカゲの体液を主原料としたスープがグツグツと音をたてて煮込まれている。先ほど味見をしたが、すごく濃厚で、最高級素材を厳選して作った(ヒカリちゃんにご相伴して食べた事があるので言えるが)あのコンソメスープを超える味である。
なお、大きな町に到着してから知った事だが、この空飛ぶトカゲの体液を主原料としたスープは、この世界では最高級料理の1つであり、王族や高位貴族たちでもめったに食べる事ができないとの事。なんせ、マコトみたいな倒し方をしないと、その極上の味にならないらしい。
頑張って作業をした結果、その日の内に寝床となるテントが完成した。
テントの骨組みにはワイバーンの骨を、外膜にはワイバーンの翼に当たる被膜を利用した逸品である。翼の被膜自体巨大であり、2枚使用すると4人用のテントの外膜くらい簡単に造れたのだ。床材としては、昨日創った巨大魚の毛皮はそのまま敷かれている。
今日のところはこれで終了だが、明日からは崖の下にある森を彷徨う予定なので、いろいろな素材がゲットできるよう邸になっている。
マコトやマナミちゃんの話曰く、このワイバーンの素材自体が結界の役割を果たしているらしく、これよりも弱い生物は、魔力が抜けてしまう3~5日間ほどは近づいてこないという話だ。そういえば、これを解体している時から、周囲数百メートルの範囲には、小蟲1匹近づいてこなかった気がする。
「それじゃあ、今朝行っていた通り、ボクは【アイテムボックス】を創り出す魔術、【空間創作時空収納空間】とこれから行うから。」
夕方から夜にかけての予定をすべて終え、これから就寝だという頃に、マコトが請う話を切り出す。
「確かその魔術を使うと、発動させるのに術者の持っている魔力を使い切る事で魔力が枯渇、その場で気を失ってしまうんだったな。」
「そう。たぶんボクは、魔術を使った影響で、明日の朝まで起きないから。あとの事はよろしくね。とは言うものの、ワイバーンのおかげで、2~3日は不寝番を立てないで済むから、今晩はみんなぐっすりと眠れると思うよ。」
「そういえばマコト君?」
「何?マナミちゃん?」
「その・・・・・あれなんだけどね・・・・・・。
【アイテムボックス】って、私達も使う事できるのかなって?
マコト君は、全属性使えるからね。ヒカリちゃんもそうだけど・・・・・。これって確か、全属性持ちじゃないと使えない魔術だよね?」
「うん。ヒカリちゃんからの説明でも、そうなっているよ。だからあのゲームの中でも、【アイテムボックス】持ちって、限られた者しか持っていなかったんじゃないかな?それこそ、『大賢者』とか『賢者』とか、称号で持っていた人たちじゃない限り・・・・・。」
確か、ヒカリちゃんからそんな説明を受けた事がある。あのゲームは、リアリティを追及していたから、個人が持っていたメニュー欄にはそういった機能はなく、ゲーム内で売られている『マジックバッグ』というアイテムを購入しないといけなかったほどだ。
「あとは・・・・そうだね。とあるスキルを使う事により、対象物・・・・この場合は人物になるんだけど。対象となった人物に、直接【空間創作時空収納空間】という魔術を書き込む方法だね。でもこの場合は、書き込んだ人物の魔力量に左右されて、中の大きさが変わるからね。」
その後のマコトの言葉に、俺たち3人は齧りついた。・・・・・つまりあれだ。
「マコト、その方法を使えば、全属性持っていない俺たちにも、【アイテムボックス】が使えるようになるのかな?」
あまりの直球に、マコトは少し引き気味である。しかし俺たちはそんなマコトを無視して、一筋の光明が見えたとばかりに誠に斬り込んで聞く。
「・・・・・・この方法を使えば、全属性を持っていなくても、問題なく【アイテムボックス】を使う事ができるようになるよ。要は、【空間創作時空収納空間】が書かれた魔導書を、直接対象者の体内に書き込むんだからね。」
何か怖そうな方法みたいだが、聞けばただの付与術の中にある1つだと判明する。実はこの方法、魔導具を創り出す正式な方法であり、この方法で作られた魔導具は原初魔導具とも呼ばれている、「劣化する事無き最強の魔術道具」とあとで知ったほどだ。
まあ、それはいいとして。
「その方法で俺たち4人にも、【アイテムボックス】を持つ事は可能なんだな?マコト?」
「・・・・・まあ、可能だけどね。でもヒカリちゃんと約束した事が、・・・・・守れなくなるよ?この方法は、クエスト受けた先にあるご褒美みたいなものだから。」
「ああ、そういやあったな、そんな事。しかし、考えてみてみ?マコト?
そのクエストとやらが、ゲーム内ではどんなモノだったか俺は知らんが、現状この世界において、魔術付与ができる人材がどれだけいると思う?」
ケンジの問いかけに、マコトが少し考え込む。
「ゲームの設定を流用すると、魔法属性は、光・闇・風・水・地・火・無の7属性が基本となり、これに派生属性と呼ばれる2つ以上の属性を掛け合わせた属性が加わる。通常はこの基本7属性から、無属性(無属性は基本誰でも持っている)を除き0~6属性が本人の適正に合わせてで付与される。なお、派生属性に関しては、構成する基本属性を持っていれば、自動的に付与される仕組みになっている。
つまり、この設定を用いれば、この世界にも属性という概念があり、光・闇・風・水・地・火・無の7属性が基本となっている事となる。現にマナミちゃんは、派生属性である聖属性を持っている。この聖属性を持つための基本属性である光・水・無の3属性を持っているから、この事はこの世界でも通用する事実だと断定できる。
どういうわけか、あのゲームの概念がこの世界にも通用している事を鑑みるに、魔法属性もこれに倣うとなるわけだから、持っている属性の設定もこれに倣うと考えられる。
でだ。
その魔法属性御設定なんだけど・・・・・。
1つ。持っている魔法属性は、全体の約8割は1~3属性で、残りの約2割の内5割弱が4属性持ち、約4割が5属性持ちとなり、約1割が6属性・・・つまり全属性を持つ事になる。
1つ。持っている魔法属性は、陽属性(光・風・水)と陰属性(闇・地・火)のどちらか一方に偏っている事が多く、これは、人の体質が陰陽どちらかである事が大きく関わっているため。
1つ。陰陽併せ持った者たちのみが、4属性以上を持つ事になり、所謂特異体質持ちの仲間入りをする。
1つ。例外として、基本誰でも持っている無属性を持っていない者が、数百人に1人の割合で存在する。なお、無属性を持っていないと、派生属性を使う事ができない。
この世界の人口を、地球と同程度の50億人(ボクたちの時代では、いろいろあって50億人まで人口が減少している)と仮定するならば、全体の約8割・・・・つまり40億人くらいは1~3属性。残りの10億人の内、5割弱にあたる約5億人弱が4属性持ち。約4割に当たる4億人前後が5属性持ちとなり、約1割にあたる1億人前後が6属性となる計算になるね。
この1億人という数字が、多いのか少ないのかは解らないけれど、大小合わせて200カ国前後国が存在すると仮定すれば、1国あたり50万人前後の者たちが全属性持ちという計算になるね。」
マコトが、いろいろと思い出しながら、ゲームの設定を流用して、いろいろな仮定を交えながら人数を割り出していく。そのマコトが出した人数に、今度はマナミちゃんが新たな概念を基に、さらに人数を絞り込む事を考える。
「あと、そこに付け加えるのなら、保有している魔力量的に、魔術が十全に使用できるかどうかも付け加えないと。
え~~~~~と。
確か、すべての生命体は、体内の魔力を持っている。ただし、体内で精製される魔力量には個人差があり、この個人差によって、
(1)魔術を全く使えない
(2)生活魔術程度ならば、1時間に一度使用する事が可能
(3)生活魔術程度ならば、1日数種類使用する事ができる
(4)ちょっとした攻撃魔術なら、1日数種類使用する事ができる
(5)魔力の残量を気にすれば、半日程度の戦闘に参加できる
(6)魔力の残量を気にすれば、1~2日程度休まずに攻撃魔術を使用する事ができる
(7)魔力の残量を気にする事無く、どんな魔術でも使用する事ができる
この7種類に分類できて、所謂魔術師と呼ばれるには、(5)(6)(7)でないといけなかったんだよね。この数字には、持っている属性の数は関係ないんだったよね?」
マナミちゃんに続いて、俺が補足を加えていく。しかしこの説明自体、ヒカリちゃんからの受け売りでもある。だって、俺はゲーム内では魔術関連を捨てていた剣士だったし、そもそも、どう頑張っても魔術を全く使えなかったからな。まあ、何とか頑張って、この世界に来る直前くらいの段階では、生活魔術程度ならば、1時間に一度使用する事が可能な状態まで持っていけれたが・・・・・・。
「そうそう。そして、それぞれを比率と、先ほどの50億人という仮定を使うならば、(1)の魔力量が約6割だから、30億人で圧倒的に多い。
で、残りの20億人のうち、5割前後の10億人が(2)と(3)の状態だって言っていたからね。そのうち(2)の魔力量が約6割で6億人前後、(3)の魔力量が約4割で4億人前後。
残りの10億人のうち、(4)の魔力量が約5割で5億人前後。
さらに、残りの5億人のうちの約7割が、(5)の魔力量だったので3.5億人前後。
さらに、残りの1.5億人のうち、2/3に当たる約1億人が(6)の魔力量となり、残りの5000万人が(7)の魔力量となる。」
で、最後に、ケンジが属性の人数を鑑みて、最終的な人数計算をしていく。
「ってことはだ。全属性持ちの1億人のうち、6000万人前後は全く魔術が使えない宝の持ち腐れであり、2000万人前後は生活魔術がかろうじて使える程度にか、魔力量を持っていないと。
で残り2000万の内、魔術師と呼ばれている者は半分の約1000万人で、この1000万人がとりあえず【アイテムボックス】を創り出す魔術、【空間創作時空収納空間】を使用可能だという結果になるな。【アイテムボックス】内の容量が保有魔力に比例するのなら、大きな空間容量が各子できる魔術師の数は、約1割しかいないんだから100万人前後という計算が成り立つ。大小合わせて200カ国前後国が存在すると仮定すれば、1国あたり5000人前後の者たちが大きな容量の【アイテムボックス】を持つ事が可能なわけだが・・・・・。」
「・・・・・まあ、ここに出てきた5000万人のうち、【空間創作時空収納空間】という魔術を知っているのは、果たして何人いるのかというのを考えるとね。
この魔術、たぶんこの世界内でも遺失魔術に入ると思うんだ。それとも、何処かの禁書庫もしくは図書館に、この魔術が書かれている魔術書が眠っているんだけど、魔術文字が解読できないから使える人がいないんだとか?
さらに考えるなら、例え解読できても、そこに付与術というスキル持っていないと、他人に付与できないからね。このスキルがないと、魔術書作れないから。
さらに持っていたとしても、まさか魔術書の付与先が、生命体も含まれている事を知っている人はどれだけいる事やら。」
「ああ、確かに。ゲーム内でも魔術文字って、どう頑張っても解読不能だったからな。」
「そうそう、コウタの言う通り。魔術師名乗るんだったら、最低限言語解読と文字解読はカンストしてないと。他人の作った魔術書から、その魔術が発動できないし、作る事もできなかったからね。」
そう最後に締めくくりながらマコトは、【空間創作時空収納空間】という魔術の発動準備を始める。