【02-09】人里まであと1歩・・・・・・だけど、問題が起こりました
冒険者パーティ『鮮血の雷』に保護された翌日、月経歴4月11日、この世界に来てから117日目の朝が来た。
ちなみに、この世界においての正式な暦で行くと、今日は『NMDC23667年7月25日』となる。ちなみに曜日も存在するらしいのだが、現在それは何処の国家・種族も使っていないらしい。唯一使っているのが暦を正確に測定している機関である国立天文台くらいなもので、普段の生活では誰に聞いても曜日までは正確に応える事ができないそうだ。
ならば私たちも、そんな無駄な知識を蓄える事はせずに、他の人たちと同じように生活して行こうという話になった。
なお、正確な暦が分かったので、今まで使用していた仮の暦は今日で終了となる。しかし、この世界の暦を使用すると、今後生理の期間が10日ずつ擦ずれこんでいくため、月経歴もこのままつけていくのもありかもしれない。
となると暦の付け方は、『NMDC23667年7月25日(月経歴4月11日)』となるのかな?まあ、私の頭の中だけの話だけどね。
なお、ここテラフォーリアは、1年400日、1ヶ月が40日、(めったに使わないが)1週間7日で、数年間の観測結果により閏年はなし。1日の長さは24時間で、1時間60分、1分60秒。1日の始まりは、地球と同様に「正子(午前0時)」となっている。
なお、地球における1秒と、この世界における1秒では、当然その長さは異なっており、この世界の1秒の方が地球における1秒よりも、5割ほど長くなっている事を後で知った。そのため、実際の1日の長さも、地球よりも長い事になる。
なお、ここまで正確な時間軸を使用して、日常生活を送っているのは、暦を管理している公的機関の天文観測所にいる者たちのみ。それ以外の者たちは、たとえ王族でも1時間ごとに鳴らされる時報で生活を送っている。もちろん、1時間ごとの時報が聞けるのは、ある程度の人口が住んでいる町(おおむね1万人以上)のみであり、それ以外は、日の出・正午・日没が基本的な時間の単位となる。
この暦が始まったNMDC元年1月1日は、今の文明において、(歴史の資料で確認できる中で)一番古い国家の建国日とされている。余談だが、この暦の開始年を定めるために使用された国家は、現在もその国家名・国家の規模を変えて脈々と存続している。
ちなみに、コロラド王国(ヒカリたちのいる国)では、北部や西部の山岳地帯を除き、基本的には冬という季節はなく、雨季(1~3月・9~10月)と乾季(4月~8月)に別れており年間を通して常夏の季節が続く。なお、北部や西部の山岳地帯では、雨期の期間における10月と、1月・2月の3ヶ月間に雪が降り、場所によっては積雪が30mを超える場所もある。ちなみにサクラピアスではこの期間の平均積雪は5~10mで、領都・カエデテラスでは2~5mほどである。
閑話休題。
「・・・・・というわけで、あと1カ月ちょっとで乾季が終わるからな。山岳地帯であるここムハマルド辺境伯領だと、雪が降り始めたら基本的に身動きが取れなくなると思っておいた方がいい。そんなこんなで、君たちの保護期間は、来年の雪解けの頃だな。それまでたっぷり時間があるから、ゆっくりとこの世界について学んでいけばいいよ。」
「という事は、雪が積もっている期間中は、基本的には町からは出ないという事でいいのですか?」
ガイストさんの言葉に、マキさんが質問をする。確かにそこまで雪が積もっていると、街中はともかく、町の外に出るには勇気がいるよね。
「一般人はな。俺たち冒険者だと、それぞれの町や村との流通は確保しないといけないから、街道くらいは普通に通行できるようにしないといけない。そのため、ランクの上下に拘わらず、冬場の仕事は雪かきが7割で護衛が2割、その他1割と覚えておいても差し支えないぞ。魔物たちも冬場は冬眠するみたいだから、討伐依頼が限りなくゼロになるんだ。
それにほら、この景色が雄大だろ?ここって結構な観光地なんだよ・・・・・実際。ここいら一体の冬場の収入源だから、街道整備には殊更力を入れているんだよな。」
歩きながら、この世界の暦と、コロラド王国の基本的な天候や地形などについて学んでいく私たち。
現在私たちが今通っている街道は、コロラド王国と山脈を挟んで存在している国同士を結ぶ重要な街道で、『ヒルガノス縦貫道』という名称がつけられている。起点は王都にある大噴水広場で、終点はこの先にあるオークド村にある、パンゲニア大陸の東西に横たわるピタゴラ=スガハド山脈を越える街道と、南北に縦断するジャポニ=アススペイ山脈を越える街道との分岐路である。それぞれの街道は、山脈を超えた先の国の王都まで続いているため、この街道はそれなりに重要な街道でもある。
ちなみに私たちの服装は、全員この世界の標準的な平民の若い男女の服装である。昨日の内に、異世界である地球の服装では目立ちすぎるという事で、売り物である荷物の中からもらう事ができ、その場で着替えたのが今の服装である。それと同時に、ハルナさんたち5人がずぶ濡れだったから。ある程度はすでに乾いていたが、濡れたままの服装では風邪をひく事になり、町の外で病気に罹るとどうする事もできないので、相談した結果、服を無償で貰える事になったのだ。
商人の資格がある彼らだからこそ可能な事であり、そうでない場合は買取したり、物々交換したりする。
ちなみに、男性陣2人の服装は、丈夫な生地で作られた長袖Tシャツに、ジーパンみたいな生地でできた長ズボンと袖なしの革のベスト。ハイソックスサイズの革の靴を履いている。
私達女性陣の服装は、伸縮性のない生地で仕立てられた長袖のワンピース(膝丈よりも10㎝ほど長い)に袖なしの革ベスト、膝丈まである革製の靴を履いている。
なお、伸縮性のない生地でできたワンピースは、体のラインが出る感じのデザインなので、腰の部分がキュッと萎められている。私たちが貰ったのは、脱着を容易にするために背中側にファスナーが縫い付けられており、ファスナーの上げ下げで脱着するようにできている。
なお当然既製品なので、ある程度のサイズは統一されている。そのため、腰部分には幅広のリボンが取り付けてあって、そのリボンで腰を締め上げている感じである。
なお、ファスナー以外に編み上げ式のリボンやボタンタイプのモノも存在しているが、ファスナータイプが一番購入価格の安いデザインである。
理由は、仕立てが複雑になるほど、値段も上がっていくから。
ファスナータイプのワンピースは、背中の中心線にファスナーを宛がって縫い付けていくだけだし、合わせの部分の布地も少なくするので、この世界では安く仕上げる事ができるのである。また、ファスナー自体も大量生産可能(縫製関連のスキルの中に、そういったモノがあったような気がする)であり、スキルの影響もあってか縫製具術に関しては結構地球よりも上だったりする。
そして、既製品のほぼすべてが背中側が開くタイプとなっており、前開きタイプもあるにはあるのだがすべてオーダーメイドらしい。これは、貴族たちが夜会などで着用するドレスに関しても同じ傾向となっている。一応ブラウスとスタートといった組み合わせも存在しているが、製作工程の多いブラウスやボタン止めのシャツは、使用する布地は少ない割にワンピースよりも値段が1割程度高くなる。
そのため庶民はもっぱら背中ファスナーのワンピースが多いのだ。
下着については男女とも、地球にあったモノとほぼ同じ(違っているのは使用されている生地のみ)だったには安心した。中世みたいにドロワーズや褌ではなかったのが、よかったような、少し残念だったような・・・・・。
この世界に、ファスナーが既に存在しているのは驚いたが、きっとショーツとブラ同様に先達の異世界人さんたちが頑張ったんだろう。
なお靴の形状は男女とも、長さはともかく靴底もしっかりとした踵の低い編み込みのブーツが基本の形状らしく、旅人や冒険者などは、基本的にこのブーツを愛用するみたいだ。脱いだり履いたりする面倒さはあれど、とにかく少々激しい運動でも脱げずに、足首全体を保護できるこのタイプが旅装束の基本である。
この靴に使用されている革は通気性もよく、長時間履いていても足が蒸れにくい。また防水性もよく速乾性であるため、多少の水溜りでも平気で足を突っ込む事ができる。
逆に街中で履くタイプは、踵くらいの長さの革製もしくは布製の靴か、踵のついたサンダル状の靴となる。
男性の靴も、基本的な形状は似たり寄ったりだ。
この上に男女とも、日よけや雨具変わりのフード付き外嚢を羽織っている。
またこの外嚢は、丈夫な布地で作られており、保温効果もあり速乾性があるので、野営時の布団代わりや、休憩時の敷物代わりとしても利用されている。そして野営時には、何があるのかもわからないので、靴は履いたまま寝るのが基本らしい。町の宿屋で泊まる際は、宿の部屋に入った時点で、町履き用の靴に還るみたいだ。
そんなこんなで、会話でもできるこの世界の基本的な事を教わりながら、のんびりと街道を歩く私たち。なお、馬車の中は荷物でいっぱいなので、乗車するスペースなど皆無であるため、全員が馬車を囲んで徒歩で移動している。ただし重たい武装はすぐに取り出せる位置に積まれている。基本的な配置は、それぞれの使用する武器が積まれている位置である。
私達7人の中で、戦闘ができないのはナオミチ君とミオさんの2人のみだ。2人はあのゲームの中では生産の方を頑張っていたため、戦闘スキルはあまり鍛えていなかったらしい。
マキさんとヨシナリ君の(釣りバカ)バカップルコンビは、釣りをするためにゲーム内ではよく秘境に出かけていたらしい。その時、釣り上げたモノや釣りの最中や目的地の道中でよく魔物(ゲーム内ではモンスターと呼ばれていた)とエンカウントしていたため、戦闘経験は実は豊富にある。2人で対処する事が多いため、それなりに戦闘スキルのレベルも高く、マキさんは魔術と剣術を、ヨシナリ君は魔術と竿状武器を融合させた独自の戦法で闘っていたそうだ。
ハルナの戦闘方法は、双剣を使用したヒットアンドウエイで、素早さを利用した戦法である。
ただし、私とコトリはともかく、他の5人はここで戦闘をした事がないので、今回はお客様扱いとなっている。いきなり武器を渡されて戦闘しろとは、いくらなんでも私には言えない。現実得会で私に連れられて、戦場での実地研修を受けた事はないからね。
私とコトリは、すでにこの世界に来た100日以上経過もしており、それなりに戦闘もしているし、自分の武器も携帯している。そのため何かあった場合は、普通に戦闘に加わる事になっている。
そんなこんなで、歩きながらお勉強する事約1日。
何事もなければ、半日でサクラピアスに到着するところまできた。
この先にある橋を渡れば、半日もあればサクラピアスに余裕で到着するらしいのだが、・・・・・ここで問題が発生する。
川幅が100m近くある川に架かっていた橋が、橋脚ごと見事に流されてしまっていたのだ。どうも、先日の嵐に影響で水嵩が増加。普段は両岸には河川敷があるらしいのだが、現在はそこまで水嵩が増えており、さらに流れが速いので渡るに渡れないみたいだ。元々防衛上の重要拠点であるが、架かっていた橋自体は簡易なモノではなく、それなりに見栄えのする橋だったらしい。
それが今は、両岸の橋の袂部分を残してすべて流されてしまっていた。そして、流された橋の両岸では、この橋を通行しようとしていた商隊や冒険者たちが、どうしようかと途方に暮れてしまっている。
「こういった場合、どういった対応をするんですか?」
私は、少し疑問に思ってガイストさんに質問する。ガイストさんは少し考えをまとめると、こう答えを返してくれた。
「・・・・・そうだな。通常は近くの町に伝令を出して、橋が再建されるまでは街道は通行止めだ。しかしこの街道は、重要な街道の1つだ。再建されるまで待っていると、物流やら何やらが止まってしまって大混乱だ。
だからこういった場合は、船を並べた舟橋を作って架橋を架ける事になるが・・・・・。」
「・・・・この水の流れでは、それは無理ですよね~~~~。」
私は、増水して流れのはやくなっている革を見ながら、こう答えた。
「ああ、だから皆、途方に暮れているんだろう?ほら、向こう岸には役人たちも来ているからな。今頃、必死になって対策を考えている最中だろう。」
そんなレクチャーを受けながら、私も少し考えてみる。・・・・・魔術で橋を架けれないのかと。
ん~~~~。
その辺にある石や木を使って、魔術を駆使すれば、橋の1本や2本は簡単に建設できるだろう。しかしそれでは、今はいいとしてもまた同じ事の繰り返しだ。
ここは1つ、恒久的に橋が流されない工夫が必要である。
橋の素材自体は、そこら辺の木や石を使ってしまえば、どうとでもできるが、流されない工夫を加えるには・・・・・・。
うん、できそうだな。あとは向こう岸にいるお役人を巻き込んで、魔導具化する源を恒久的に徴収できる仕組みを作ってしまえばいい。
「あのう、ガイストさん、提案があるんですが・・・・・。」
考えをまとめた私は、協力を仰ぐためにガイストさんを頼る事にした。