【02-01】いよいよ出発です
スキルの検証やら、先頭の確認やら、いろいろとやっていたら、大木の木の中で5日間ほど暮らしてしまった。
「そういえばすっかり忘れていたけど、そろそろお風呂に入りたいね。」
そんな有意義な?5日間を過ごしあと、森の中を彷徨い歩く私とコトリ。そんな中、急にコトリがこんな事を言い出した。
「そういえば、入ってないね・・・・・、お風呂。それも、この世界に来てから5日間ほど。せめて水浴びくらいはしたいけど、ちょうどいい場所がないんだいね。」
私も本当は毎日入りたいのだが、お風呂を設置するのにベストな場所がないのがいけない。お風呂の設置自体は、数秒でできるんだけどね。お風呂を設置するならば、足場が苔むした地面ではなく、しっかりとした岩場がベストである。もしくは、石がゴロゴロ転がる河原かな。
なお、現在地は森の中であり、地面が苔むしているためそれなりに湿度は高い昼下がり。夜になると結構冷え込むため、冬仕様のセーラー服はありがたい装備なのだが、昼間は常夏一歩手前の気温になるのだ。そのため、アンダーとして着ているハイネックタイプの黒いインナーは昼間は脱いでいるが、冬仕様のセーラー服は脱ぐ事ができないでいる。ついでに、スカートの下の黒色の防寒タイツもね。
理由としては、森の中だという事で、なるべく地肌を見せて歩きたくないからだ。いろいろとあるからね、羽虫や蚊、毛虫などにに刺されたりすると。
現在の私とコトリの服装は、鷺宮学園指定の女子制服であるセーラー服のセット一式、冬バージョン。
セーラー服は、全体が白色の生地で、黒色のセーラー襟とカフス。両方とも3本の白線入り。スカーフの色は、2年生の学年色である赤色。セーラー服の下は、学校指定のハイネックタイプの黒いインナー。
これに膝丈サイズの冬用スカートを履き、黒色の防寒タイツを履き、歩きやすい踵の低い黒革のローファーを履く。踵の高いタイプの靴で森を彷徨い歩けば、きっと大変な事になっていたので、踵が低い靴なのは幸いしている。
ちなみに、数少ないセーラー服のポッケに突っ込んであった小物類は、初日に行った紐なしバンジーの結果、何処かに散乱して発見できずじまいだ。そのためすでに、それらが何処にあるのかも、探す事自体放棄していたりする。
「そうだね、着た切り雀のこのセーラー服も、ついでに洗っておきたいね。結構汚れが目立ってきているし、それに汗臭いしね。」
「確かに着た切り雀なんだよね、今の私たち。というか、着替えすら持っていないという。せめて、下着くらいは変えたいんだよね。いろいろとやばい状態になってきているし。」
そろそろ私は、生理が来る頃だ。私の後にすぐコトリが整理になるので、そうなると、今よりもやばい状態に突入してしまう。
「ああ、そろそろだっけ、ヒカリちゃんの生理。」
「そうなんだよ。私の後、すぐにコトリもやってくるんだよ。・・・・・・生理。せめてそこら辺を何とかしないと、いろいろとやばいよね?」
そんな会話をしながら、森の中をひたすら下っていく。
ちなみに大木を起点に、どの方向に歩き出そうかとなった時、とりあえず山肌が下っている方向に行こうという話になった。
登山をするのなら、稜線に沿って歩かないといけないが、そもそもここは森の中。その稜線が見える場所まで、いったいどれくらいかかるのやら見当がつかない。まあ、山肌を下るという事は、水の流れを探すという事だが、こちらも同じ理由で水の流れまでどのくらいかかるのかのかの見当はつかない。
しかし、これほどの大木が悠然と聳え立っているところを見るに、あまり離れていない場所に水の流れがあるはずだ。・・・・・・地下、という事も考えられるが、それでも何時から表に出てくるものだ。
そう考えるのなら、山肌を苦だって言って、谷間みたいな場所に出る事ができれば、きっと水の流れも存在しているだろうとの仮説がたつ。
その仮説を頼りに、川を探して山肌を下る事にしたのだ。森の中ならば、何日彷徨ったとしても、食料の確保だけは容易だからね。水は魔術でなんとかなるのだから・・・・・。
あの寝床にしていた大木から数時間、木々の葉っぱに覆い隠されっている天井によって、ところどころに木漏れ日が漏れている程度だ。
そんな中を2人で仲良く歩いているが、時折オオカミもどきや、イノシシもどきが襲撃をかけてくる。ちょうどいい戦闘訓練という事で、数が少ない場合は1人で、多い場合は2人で討伐をしていき、討伐した者は片っ端から【アイテムボックス】の中に入れられていく。【アイテムボックス】の中ならば、時間経過もないので腐らないからいいよね。
そして夕方。
夕方になると、私達は手ごろな大木をのぼり、50mほどの高さの大きな枝に腰かける。地面の上で寝るのか危険がいっぱいである。木の上で寝ても危険があるのだが、あのオオカミもどきやイノシシもどきの襲撃を浴びないで済む分、危険は少ないのだ。そしてさらに・・・・。
「ねどこのせいさく~~~~~。」
既に詠唱すら、魔術名すら唱えなくても、あの木の幹の中を刳り貫く寝床を創る事ができる私。
そしてふと、周囲を見渡し・・・・・(当たり前だけど、誰もいないね)、足元の大木の枝を確認し・・・・・・・(ふむ、直径が5m前後か、これならいけるかな?)。
ちょっと逡巡し・・・・・・・(やっぱり、そろそろ入りたいな、・・・・お風呂。そして洗濯もしたい)。
そう考えをまとめた途端、私がすぐさま行動していた。
その日、森の中に生える大木の上では、摩訶不思議な光景が広がっていた。
巨大な巨木にある、巨大な枝の1つ。その枝と幹の境目あたりに突如として出現した平らな部分。その平らな部分の中心には人が二人穂と座って入れる窪地があり、その窪地の中には湯気が立ちのぼるお湯が張られていた。
「ああ~~~~~~。5日ぶりのお風呂って、こんないこもちよかったんなね~~~~~。」
「はあああ~~~~~。蕩けるわ~~~~~~。それといい景色だね。周りは大木で全く見えないけど?」
そのお湯の中には、蕩け切った顔をした2人の少女が入浴していた。私とコトリなんだけどね。シャンプーやら石鹸やらはないけど、やっぱりお風呂って気持ちがいいよね。
「コトリ~~~~~、ついでに洗濯しておこうよ。セーラー服や下着やらを。」
「洗濯するのは別にいいけど、でもそれをやると本日は全裸で寝る事になるよ?まあ、どうせあたしと光莉ちゃんしかいないから、全裸だろうとどうでもいいけどさ?」
「ああ、洗濯さえすれば、あとは魔法で乾かすよ。」
というわけで、お洗濯開始です。ジャブジャブとお風呂のお湯に付け込んで揉むだけだけど、それでも多少は綺麗になっていくセーラー服。
「やっぱり、洗剤ないと綺麗に落ちないね。何とかしてシャンプー・リンス・コンディショナー、あとは体あらう石鹸と洗濯洗剤を創らないとね。錬金術使えば、何とかなるかな?」
「ヒカリちゃん、錬金術って、そういうのを創るためにあるの?」
「まあ、錬金術って、言ってしまえば、2つ以上の素材を融合して、全く新しい素材に加工する事だしね。石鹸などの生活雑貨を含めて、いろいろと作るのが錬金術だよ。何もお薬作るだけではないのです。」
今日のところは、それらしい素材に巡り合っていないので作る事は出来ないが、森を彷徨っているうちに、石鹸の素材となるモノに巡り合う事ができるだろう。
翌日の昼下がり。
「おっ!イノシシとオオカミ以外の獲物、発見!あれは・・・・・・ウサギかな?」
「そうだね、サイズはともかく、ウサギちゃんだね。」
私達が発見したのは、耳がピンと張ったショッキングピンクの毛皮を纏ったウサギの群れだった。
その数15匹。
ウサギの体長自体は5~10mほどあり、ピンと張った耳の先まで入れると、10~15mほどある巨大ウサギだ。
「で、どうする?殺る?」
「ん~~~~、1匹か2匹だったら、殺してもよかったんだけどね。15匹は、数が多いいかな?殺してやれないとは思うけどね。」
コトリの質問に、私は素直のこう答える。できなくはないだろうが、ちょっと数が多い気がするのだ。
「でも・・・・・・・・。これも経験かな?殺してみよう。」
巨大生物との戦闘は、この世界で暮らしていくならば、いつかは殺さないといけない戦闘になると思う。そうならば、こちらの用意ができる時に戦闘訓練と称して、1度は殺しておくべきだろう。
殺ると決めたら、そのための行動に出るのは早い。
まずは、1対1の状況を作らないといけない。対人戦でもそうだが、取り囲まれた状況では、できる事も限られて来るからだ。多対1の集団戦をするならば、1対1の状況を作り出し、尚且つことら側が有利に、相手側が不利になるような場所で闘うべきである。
市街地でやるなら、狭い路地裏にわざと逃げるとかね。
「じゃあ、【アイテムボックス】の実験も兼ねて、あの巨大ウサギを全部取り込んでしまうね。」
「【アイテムボックス】の実験って言うと、あの空気もある空間に入れるってこと?」
「そういう事。確か、生きた状態の動物を中に入れる場合は、一度相手の何処かを1回触らないといけないんだよね・・・・・。という事でコトリ、コトリの【アイテムボックス】の方の検証も兼ねて、2人で7匹ずつ格納していこうか。で、一番大きな奴を残して、そいつと戦闘しようか。」
という事で、サクッと作戦を練って即座に行動である。魔術でサクッと殺してしまえば一瞬で終了するが、何度も言うように巨大生物との戦闘訓練もしておきたいのだ。なので今回の作戦では、一撃で殺れる魔術は基本的に封印である。連携訓練も兼ねているからね。
数分かけて、一番大きなウサギちゃんだけを残して、全匹【アイテムボックス】の中に放り込む。
それでは、戦闘開始である。
「【茨鞭の拘束】!」
まずは、奴の機動力を奪う。どう考えても、跳ばれたらこちらが不利になるのは、見なくても解りきっている。30㎝ほどある棘をはやしたブットい蔦を創り出して奴の両足に絡める。見た感じ、奴の毛は長いので、棘が肉に食い込むように、何もかもサイズが大きくないといけないし、硬くないとだめだ。
奴はジャンプで拘束を引きちぎろうとしているが、なかなか蔦が引きちぎれないし、ジャンプするたびに棘が肉の奥底へと刺さっていく。
「コトリ、行きます!」
で、次は私の番だと言わんがばかりに、コトリが剣を構えたままウサギに突貫をかけていく。何かのロールをしながら・・・・・。
コトリが狙ったのは、地面に食い込んでいるあの丈夫そうな足の爪だ。ついでに私も、剣を【アイテムボックス】から取り出して、コトリが狙った足の反対側の足に向けて走り出す。
ジャンプする際に地面をしっかりと捉えるあの爪は、攻撃にも回避にも使えるので厄介である。ウサギの機動力を奪うのと同時に、攻撃方法も奪っておいた方が、あとあと楽になってくるのは世の通りである。
サメの歯のように、すぐに生えてくるなら、話が変わるけどね・・・・・。
こうして始まった、ウサギさんとの死闘。
分厚くてかたい爪を、1本斬り落とすだけでも骨の折れる作業であり、摘便【茨鞭の拘束】で拘束をしながら爪の斬り落とし作業を行っていく。1本目を斬り落とせたのは戦闘が初めって(体感で)15分ほどしてからで、私とコトリが同時に一番内側にある爪を斬り落とす事に成功する。長く硬い爪は、先頭の邪魔になるだけなので、即座に【アイテムボックス】に放り込み、次の爪へと剣の照準を変える。
こうして、2時間ほどかけて奴の機動力を奪い、さらに2時間ほどかけてやっとこさウサギとの死闘を終える。
やっぱり、体が兄妹という事は、それだけ生命力も多いという事だ。
お昼頃から始まった死闘が終了したのは、森の中が真っ暗になりかけるような時間帯だった。
とりあえずウサギを【アイテムボックス】の中に放り込んで、戦闘をしていた場所を即座に立ち去る事にする。すでに森の中は真っ暗だが、2時間ほど離れた場所にあった巨木を本日の寝床とし、昨日と同様に寝床とお風呂を作って、さっさと湯船の中に突撃する私とコトリ。
「ふ~~~~~~~~。やっと終わった~~~~~。」
「ふ~~~~~。そうだね~~~~~。つかれたわ、ほんとうに・・・・。」
比較的安全な大木の上のお風呂で、ウサギとの戦闘の疲れを癒す少女2人。休憩なしで約半日、戦闘をしていたのだ。それも、神経をすり減らして、常に全力疾走状態で行った戦闘。これで疲れが来なかったら、私たちは化け物の類の何かになってしまう。
「そういえば、ヒカリちゃん。」
「何?コトリ?」
「今回は巨大生物との戦闘訓練ってことで、瞬殺系の魔術を封印していたけど、実際、それらも使って攻撃していたら、一瞬だったよね?」
「そうだね。一瞬どころか、最初の15匹状態でも瞬殺だったね。まだまだ加減が慣れていないから、今回のように無駄に戦闘時間が長くなると思うけど、しばらくの間は付き合ってもらうからね。」
「うん、あたしからもお願い。あたしもまだまだ、手加減の程度が慣れていないと思うから。まだまだウサギさんは、14匹もいるからね。ここで手加減を覚えておかないと、誰かとパーティ組んだ時に、ドン引きされそうだからね。」
「そうなんだよね。イノシシとオオカミは、手加減していても挽き肉になっちゃうからね。こっちもせめて、原型留める程度に手加減して殺したいよ。そう考えると、今回のウサギさんとの遭遇は、私達にとっては良かった事なんだよね。」
「そうだね。これだけ大きければ、手加減の訓練にはもってこいだね。ウサギさんを倒す時間を、あたしたちの方である程度調整できるようになれば、お女将さんやイノシシさんとの戦闘でも、きっと手加減して倒せるようになると思うね。」
そんな会話を、まったりとした入浴タイムで行っていく私たち。お風呂の中でまったりとする会話ではない気がするが、別に誰の迷惑にもなっていないのでよしとする。
その後、夕食と洗濯。そして先ほどの戦闘の反省会を行ってから、泥のように眠ってしまった私とコトリであった。