(3)除雪魔導具の敷設工事
年が明け、僕たちもホームであるプライムテニシアに帰る時がやってきた。もちろん、プライムテニシアの領主様の護衛としてだ。
で、実はこのメンバーの中に、2人新たに加わった仲間がいる。
シスターイマリという呼ばれている女の子と、そのペアとなっているシスターテニシアと呼ばれている修道女である。彼女たちは月光神の聖女様であるセイカちゃんの侍女として、僕たちと一緒にプライムテニシアで暮らす事になっている。
ちなみに、シスターイマリは、元元鷺宮学園高等部2年5組の生徒だった林原伊鞠ちゃんである。実は、とある身分になる際、この今まで名乗っていた本名を剥奪されってしまう。その後解放されて現在に至っているが、現在は修道女として神殿から与えられた名前しかないとの事。
まあ、どちらにしても、家名を名乗る事は今後ないので、今の名前でも問題はないのだけどね。
「それじゃあミチザネ君、セイカちゃん。無理をしないようにプライムテニシアまで帰ってちょうだい。その道中で、私からの依頼をやってくれると嬉しいな。」
「依頼っていうと、ギルドで受けた除雪魔導具の設置依頼の事?」
「そう、それ。それが1つ目の依頼だね。
ちなみに、除雪魔導具の設置方法は、核と共に入っていた書類に詳しく書いてあるから、その通りに行ってくれるといいよ。
そしてもう1つ。
この転移水晶の設置依頼だね。こちらの方は、セイカちゃんに頼む事になると思うけど。」
「ああ、そうだよね。設置場所が、プライムテニシア神殿の敷地内にある聖女神殿の1室だからね。私がやらないとだめだよね。」
「そうだよ。それが設置できたら、今のところサクラピアスとオークドカレッジ、そしてプライムテニシアにある神殿間の移動が一瞬で済むようになるからね。今のところこの3カ所だけだけど、今後私が訪れた神殿には設置していく予定だから。すでに魔力登録が済んでいるメンバーだったら、設置されている神殿間の移動は一瞬でできるようになるよ。」
そうなのだ。
プライムテニシアに帰還する僕たちに、ギルド経由で除雪魔導具の設置依頼を受けえ散る。これに関しては、護衛対象である領主様からの許可もしっかりととってある。
冬場における、雪に閉ざされた街道の移動が楽になるのだ。
僕たちの暮らすムハマルド辺境伯領において、冬場の流通の課題は昔からの懸案事項だった。それが一気に解決するとあって、この除雪魔導具の設置はムハマルド辺境伯領の公共事業となってる。
「それじゃあ、元気で。除雪魔導具の設置と転移水晶の設置が済んだら、一度サクラピアスに遊びに行くからね。その時は、お米があるダンジョンの階層まで案内してくれると嬉しいな。」
「ええ、いいわよ。その時は、ダンジョン探検ツアーをして遊びましょう。」
セイカちゃんの言葉に、手を振りながら答えるヒカリちゃん。そんな再会を約束して、僕たちの乗る馬車はゆっくりと動き出したのだった。
閑話休題。
「え~~~っと、まずは街道の雪をすべてどかします。街道が見えていれば、多少の雪が残っているのは構いません。」
オークドカレッジへ向かう街道から、プライムテニシアへと向かう街道の分岐点に立つ僕たち。
オークドカレッジ方面は、例の除雪魔導具が敷設されているのか、綺麗な雪の壁を残して石畳の街道が延々と続いている。対して、プライムテニシアへと続く街道は、僕たちが通ってから誰も通っていないのか、この20日間ほどで降った雪が積もりに積もっている。
ちなみに、街道に降り積もっている雪は約3mほどで、ここムハマルド辺境伯領の豪雪っぷりがうかがえる程である。ちなみに、雪融けシーズンには、この大量に積もった雪が近隣の川に流れ込むため、低い土地では洪水になるそうだ。
「1回の敷設で、どれくらいの距離が敷設できるんだ?」
そんな事をクニヒロが、説明書を読んでいる僕に聞いてくる。僕は、説明書の該当箇所を探し出して読みあげる。
「え~~~っと、敷設できる距離は、街道の幅で決まるみたいだね。街道幅が10mの場合で、50mの距離が敷設できるみたい。街道幅が10mよりも狭ければ、それに比例して距離が長くなるし、広ければ短くなるみたいだね。なおデフォルトでは、幅10mで固定されているみたいだね。」
という事で、目の前にある街道をとりあえず確認する僕たち。街道の幅は、馬車が2台すれ違えるくらいの幅なので、目算で約6~8mと言ったところだ。
デフォルトの幅は10mとなっているが、幅を変更するには少し面倒くさい設定が必要なので、10m幅で除雪魔導具を敷設していく事にする。このプライムテニシアへと続く街道自体も、国境を越えた先まで続いていっているので、主要街道の1つとなっている。そのため、(領主様曰く)軍事的な要素も強く、街道幅が広くなる事自体は大歓迎という話だ。
「それじゃあ、始めようか。どかした雪はヒカリちゃん曰く、すでに(除雪魔導具が)敷設されている街道に積み上げていけばいいらしいよ。」
今回は別に急いでもいないし、運動不足な前衛陣の運動を目的に、えっちらほっちらと雪の壁を掘り進めていく事にする。
幅約12~15m、長さ約60mほどを除雪した後、僕の魔術で剥き出しになった地面を地属性魔術を使用して石畳に加工する。
そして、『自身の上に雪が積もったり、または氷が着氷した場合、自身を温めて雪や氷を解かす』という”1つ目の命令”を吹き込んであるゴーレムの核を石畳に植えこんで、石畳をゴーレム化する。どうもこのゴーレム化した石畳、空気中を漂っている魔素を取り込んでいるため、半永久的に動き続ける事ができるらしい。
なお、石畳にしたゴーレムは、全幅10m全長50m、厚さ1m。
ちなみに、このゴーレム化した石畳は、『設置された場所から取り外された場合、取り外したモノを攻撃し排除できる』という”2つ目の命令”により、盗み出そうと何かした場合、窃盗者に対しては容赦のない攻撃が与えられるらしい。
どんな風に排除されるのかは見てみたい気もするが、実際にやろうとは思わない僕たちである。
ちなみにこのゴーレム化の技術は、屋根の雪下ろしにも利用できるらしいが、この除雪魔導具自体結構なお値段がするため、一般家庭には普及しないだろうという話だ。
なお、除雪魔導具は、ヒカリちゃんが特許として登録してあるため、特許料さえ支払えば誰でも制作可能である。あとは、材料がいるくらいかな?
えっちらほっちら、地面が見えるまで雪かきを運動がてらやっている前衛陣。
サクラピアスへと向かう往路にもあったが、道中には魔物が湧いて出てくる事がある。
こんな雪原で、最も多く遭遇するのが、スノウウルフという真っ白なオオカミ型の魔物だ。
真っ白な毛皮が特徴で、冬場は雪上生活を、雪がない季節は灰色の毛皮になるオオカミの魔物である。単体ならDランク中位、集団ならばCランク上位の魔物だ。なお、20匹以上の集団になると、上位種であるグレイトウルフがいる場合が多く、この場合は討伐難易度がBランク下位に上がる事になる。
当然、冬場に狩った方がいろいろとおいしい魔物である。
今回は、グレイトウルフが指揮をする、スノウウルフ50匹の討伐と相成った。
基本こいつは、その真っ白な毛皮と魔石、あとは血液くらいしか必要素材はなく、その肉は何をやってもおいしくならないので基本破棄処分となっている。もちろんその骨も使い道のないゴミである。
なので基本的に毛皮に傷が付いていなければ、どんな倒し方をしても問題はないのだ。
そんなこんなで、毛皮が結構な高級品なため、なるべく毛皮に傷がつかない倒し方という、ある意味縛り討伐になってしまっているが、・・・・・・案外何とかなるモノである。
魔術が使える者は、基本窒息死させていく。使えない者はちょっと大変だが、基本的に首ちょんぱである。
こうして、時折魔物との戦闘を挟みながら、往路よりも20日ほど時間をかけて無事プライムテニシアへと帰還する事が出来た。
基本的に、道中の村々は、メインストリートであるこの街道の身に除雪魔導具を敷設していく。それ以外の場所には、一切敷設していない。これは、オークドカレッジ方面に対しても、同じ対応であるため所謂差別ではないのである。
プライムテニシアに関しては、周囲の外壁を取り囲む濠の外側にも除雪魔導具を敷設。雪壁と外壁が完全に分離させた状態になった。その上で、プライムテニシアの街中においては、メインストリートのみこの除雪魔導具を敷設していく。将来的には、路地裏を含めすべての道に敷設する事になっているが、プライムテニシアで暮らす低ランク冒険者たちの仕事として取っておくため、今回は敷設自体は行っていない。
なお、プライムテニシアから国境砦までの街道部分については、僕たち『滝の上の12人』のお仕事として受けてある。
ヒカリちゃんたちも、オークドカレッジから国境までの敷設を行ったそうなので、僕たちもそれに倣えをしたわけだ。