(2)再会
サクラピアスに到着した僕たちは、(プライムテニシアの)領主様が用意してくれた『白虎の嘶き亭』という宿屋にチェックインをする。ちなみにこの宿屋は、サクラピアスでは最高級に位置する高級宿らしい。
すでに暮れも押し迫っているので、(高級宿とはいえ)冗談抜きで寝床が用意されているのはうれしかった。ちなみにこの宿屋の宿泊代は、僕たちパーティ持ちである。
この位のおカネを支払う能力くらい、今の僕たちは余裕で持っているのだ。
というか、何でもかんでも領主様持ちだと、いろいろとやっかみを受ける事にもなるし、宿代と遊興費くらい支払わないと、手持ちの現金がなくならないのだ。
冒険者としての僕たちは、武器や防具、治療薬と言った一番おカネのかかる場所におカネがかからないからね。成功報酬はすべて手持ちの現金となってしまい、その結果おカネが溜まってしまうのだ。
サクラピアスに到着した翌日、(プライムテニシアの)領主様からの使者が、僕たちのもとを訪れ1通の手紙を託していった。
その手紙の内容は、『明日(NMDC23667年10月38日)の午前中に、サクラピアス城へ来てほしい』というモノ。
「ところでミチザネ。お城に招待されたという事は、・・・・・どんな服装をすればいいんだ?」
手紙を朗読していた僕に、クニヒロが素朴な疑問を突きつけてくる。領主様からの手紙には、服装の事は一切書かれていない。つまり、どんな服装で来るか、僕たちを試しているという事である。とはいうものの、こんな畏まった場所に招待された以上、着ていく服装など限られているとは思うが。
「普通ならば、招待された僕たちの服装は、畏まっている服装じゃないといけないと思うよ。もっともこの世界において、平民の『畏まっている服装』とはどんなモノなのかは知らないけどね。」
地球ならば、学生だった僕たちは、学校の制服で大丈夫だ。制服ではない場合でも、フォーマルウエアーを着ていれば問題はないだろう。
しかし、ここは異世界である。
貴族ならば、それなりの恰好があるので問題はないが、平民はどうなんだろうか?
まあ解らない時は、知っていそうな人に聞くのがいい。
『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』の諺にもあるように、知らない事はどんどん聞いていった方がいいのだ。
「おかみさん、僕たちにお城に来るように手紙が来たんですが、どんな服装でお城に上がればいいのか教えてくれませんか?」
朝の忙しい時間が過ぎてのんびりとお茶をしていた宿屋の女将さんに、僕はどんな服装がいいのか聞く事にした。そんな僕の質問に、女将さんは優しく微笑んでこう答えてくれた。
「君たちに、お城に上がるように手紙が来たのかい?
そうだね・・・・・・。
月光神の聖女様である君の奥さんは、聖女様が着用する盛装装備の方の修道服でいいと思うよ。それ以外の子たちは、この宿屋でそれなりの服装を用意してあるから、それを借りて着用すればいいさね。
ああ。貸衣裳の代金は、1人1回1万テラでいいよ。」
『ありがとうございます。では、衣装の方は貸してもらう事にします。一応、衣装合わせしておいた方がいいと思うので、これから皆を呼んできます。」
「それじゃあ、朝から悪いんだけど、お風呂に入った後に、そのまま奥にある101号室に来てね。」
こうして、宿屋で衣裳を借りた僕たちは、翌日サクラピアス城へと赴いた。
堅苦しい場での挨拶を終えた僕たちは、侍女の案内に従って昼食会が開かれる大食堂へと向かう。
昼食会の開かれる大食堂には、辺境伯一家と懐かしい顔ぶれがそろっている。
今すぐにでも、再会の挨拶をしたいところだが、ここはお城の中であり紹介も受けずにそういった事をする場ではない。そのため、はやる気持ちを抑えながら、用意されている椅子に腰かけるのだった。
辺境伯一家との昼食会の後、神殿が用意してくれた馬車に乗って、一路サクラピアス大聖堂へと向かう。
聖女宮殿という建物へと入って、きりっとした礼服から普段着に着替えるため、それぞれ用意されている部屋で着替える。
「さっきは、辺境各様の手前、簡単な挨拶だけで済ましていたからね。ここには私たちしかいないから、改めてここでいうね。
お久しぶりでいいのかな?崖の上からよく生還できたね?」
開口一番、もう会う事はないだろうなと思っていたハルナさんが口を開いた。
「本当だよ。お互いよく生きていられたね。あの時上から見ていて、熊に襲わてハルナちゃんたちが森の中に逃げていった時は、もう終わりだと思ったよね。」
「そうそう。あれは食われたなと、本気で思ったぞ。そして、ハルナちゃんたちにに悪いが、下に堕ちなくてよかったと、本気で考えてしまったほどだ。」
ハルナさんと仲が良かったキョウカがそういえば、当時の状況を思い出して僕が話を繋げていく。そこから当時の事を話題に話が盛り上がり、あの後すぐにヒカリちゃんとコトリちゃんに助けられた話になる。
そんな会話をしながら2時間ほど時間が経過した頃、双方が世話になっている人物たちが、ここに集まってくる。
「よう、ヒカリちゃん。神官に呼ばれてここに来たが、何か急用でもできたんか?」
部屋に入ってくるなりガイストさんが、私に向かってなれなれしく挨拶をする。
誰も気にも留めていない行為だが、ちょっと場をわきまえてほしいなあとは思っていたりする。そんな事を考えていると、伴侶であるミツハさんからお叱りのお言葉が入ったのが聞こえてきた。
「全員そろったみたいだから、改めて自己紹介をするね。まずは、私とコトリ、ハルナ、ミオ、そしてぺニアの旦那様でハーレム築いちゃったナオミチ君。ああ、ちなみに、双方の理解のもとに、囲った者たちを養える気概さえあれば、一夫多妻でも多夫一妻でもこの世界では可能だよ。多夫多妻だけは認められていないけどね。
そして、私たちの隣にいるのが、バカップルな夫婦のヨシナリとマキね。」
ヒカリちゃんのぶちゃけたあれで何だな紹介に、あんぐりと口を開ける僕たち12人。
「ヨシナリとマキはともかく、なんでナオミチ君は、5人もお嫁さんがいるのかな?それも、そのお嫁さんが、一人を除いて元学園関係者って。ちょっとおかしくない?」
「俺たちって、何処の誰からもバカップルって言われているし、それで話が通るのはおかしくないか?」
「別にバカップルでいいじゃない?どうせ地球でもテラフォーリアでもやっている事は大して変わらないんだから。私としては、いろいろな柵のない分、こっちでバカップルやっている方が幸せだよ!」
なんだか、ヨシナリとマキは変な方向にスイッチが入ったらしく、即座に2人の世界に突入してしまっているようだ。そんな甘々な空気を放つ2人を、微笑ましく見守るその他大勢。
「この甘々な砂糖水に大量のはちみつと、さらにメープルシロップを溶かしたモノを飲んでいるかのような空気に充てらえているうちにね。ナオミチ君の事を徐々に好きになっていく私を発見したんだよ。だんだんその思いが強くなってきたころに、ナオミチ君がとあるスキルを手に入れてね。そのスキルの事を無視しても、ナオミチ君の事を愛おしく思って、手放したくなくなったんだよ・・・・・・。
私たち5人は。
そんでもって、ヘタレなナオミチ君を何とかしようと5人で画策してね。ある日、大量のお酒を全員で飲んで、お酒の勢いを借りてゴールインしたんだ。これがわたしたちのい・き・さ・つ。」
「・・・・・あの時は、俺も驚いたな。目が覚めたら、全裸の女の子5人と同衾してたんだもんな。
あの時は気持ちよかったよ。動かない両腕にはヒカリちゃんとミオちゃんが抱き着いていているし、左右の掌には、コトリちゃんとぺニアちゃんの柔らか~~~~い何かをもんでいる状態だったしね。そして何より、ハルナちゃんのアレに、息子が突き刺さっていたんだからな。」
等と、初めて同衾した日の事を慄けて話すナオミチ君。それを聞きながら真っ赤な顔になっていくヒカリちゃんたち5人。生々しい話を聞かされ、そういった経験がないらしい人たちと、そういった事を経験済みであるらしい、僕ら12人の反応がきれいに別れていたのには面白かった。
「えとね。こちらが、私たち7人の身元引受人であるガイストさん。そして、その隣にいるのが、奥さんであるミツハさん。実はミツハさんは、元鷺宮学園2年6組の生徒さん。ただし、この世界に来たのは今から5年前で、私達と同じく(当時はCランクの冒険者だった)ガイストたちに保護され、その後ガイストと結婚して今に至っているんだ。現在は、ガイストさんがリーダーをしている鮮血の雷の本拠地で、総合呉服商店『ミツバクレイミール』の店長さん。ちなみに2児の母親として、本拠地を切り盛りしている。一応、年齢的には変になっているけど、私たち7人の義理家族の関係にあるんだ。」
まずは、義理ではあるが家族の関係になっているガイストさんとミツハさんを紹介された。ミツハさんが、元鷺宮学園2年6組の生徒で、この世界に来たのは今から5年前というくだりに、とても驚く僕たち12人。
「現在は奴隷身分で、今日は、主人の許可を得てここにいるんだけど、一応私たちの関係者だから紹介するね。現在はアサルトダンジョン攻略村で暮らしている、アイナとアズサ。本名はそれぞれ水門藍那と廣崎梓で、ともに元私立鷺宮学園高等部の2年1組の生徒だった女の子。旧オランジーナ王国王都・オランジナールがこの世界の出身地だけど、どうも隣国との戦争に巻き込まれて戦争奴隷になってしまった哀れな2人なんだ。現在はアサルト村で、その時義理の家族になった薬屋夫婦と共に売られて暮らしているね。結構稼いでいるみたいだから、薬屋夫妻共々、近々奴隷から解放されるんじゃない?」
「現在は奴隷身分であるアイナとアズサです。
ヒカリ様の言っていたように、元々借金自体在りませんでしたし、十把一絡げみたいな感じで売られていますしね。私たちが奴隷落ちした直後に戦争自体集結していますので、いくら戦費目的でも使われなかった分はすでに返却されています。なので、速くても来月終わりくらいまで、遅くても3カ月後くらいまでには奴隷から解放される予定です。」
「では、こちら側の紹介をします。まず私が、ツクヨミ様の聖女を務めているセイカと言います。出身はヒカリちゃんたちと同じで所謂『異界からの来訪者』です。ちなみに、昔の名前は星野聖華です。で、隣にいるのが、私の旦那様のミチザネ君。昔の名前は、横山道真です。」
「セイカから紹介をしてもらったミチザネって言います。魔術師で錬金術師なので、ヒカリちゃんと同じですね。あと、せっかくなので、ナオミチと同じハーレムでも目指してみたいなあとは思っているけど、そこらへんはセイカ次第ですね。」
「私は別に構いませんよ。た・だ・し!
ハーレムメンバーは、ここにいるキョウカちゃんとクミコちゃん・・・・・地球での名前は緋村香華ちゃんと十和田久美子ちゃんは必ず入れる事。それが守れれば、何人でも女の子を囲うのは大丈夫です。ハーレム目指すと宣言した以上、頑張って目指してください。」
「・・・はい。」
「あれまあ、セイカちゃんの尻に敷かれてしまっているね。ミチザネ君は・・・・・・。そうそう。告白するならここで。私たち全員が、証言者になってあげるから。ついでにここは神殿だから、結婚式の準備もすぐ手配できるよ。」
何かハーレム変な事を宣言してしまった僕は、やるなら徹底的にと宣言したセイカちゃんに発破をかけられてしまった。そして、セイカちゃんから名指しでメンバーにされてしまったキョウカちゃんとクミコちゃんは、真っ赤な顔になってうつむいてしまった。
で結局、ここにいる全員の前で告白した告白し、キョウカちゃんとクミコちゃんからOKの返事をして見事結ばれた。
「じゃ、次に行くね。ここにいるのが、クニヒロとサナエで、こっちにいるのが、トキコとヨシハル。地球での名前はそれぞれ河合邦弘・来栖早苗・加藤利喜子・末樹義春で、それぞれのペアで夫婦関係になっているね。
で残りが、現在フリーな1人者である、コウジ事安室浩二、シンヤ事井野神信哉、ナオト事植松直人、ノブオ事渡瀬信雄の男連中4人ね。一応そっち系の趣味はないようだけど、何故か女が寄り付かないんだよね。なんでだろう?」
セイカちゃんから変な紹介をされる、彼女のいない男たち5人。そんな紹介をされたモノだからか、何故か男泣きをしていたりする。
なお、この後泣きながら語った彼らの話によると、現在アタックしている女の子が各人いるらしい。詳しくは聞かないが、どうもこの冬の大雪で足止めを喰らっている女性ばかりの冒険者パーティだとか、何処かのお店の看板娘だとかいった感じの女の子である。
一夫多妻でも多夫一妻でもどちらも大丈夫な世界なので、2人以上で1人の女の子にアタックするのも”あり”といえば”あり”である。
そんな他愛もない会話で盛り上がり、食堂兼宿屋『黄昏時の麗し亭』で、ちょっと豪華な夕食会を開いた僕たち。ちなみに、僕たち泊まっている『白虎の嘶き亭』という宿屋から3軒隣の宿屋だ。