(1)領主様からの指名依頼
コロラド王国ムハマルド辺境伯領プライムテニシアという町で暮らし始めて20日目のある日。
日本にある豪雪地帯など鼻で笑うような積雪があるここプライムテニシアでは、すでに10日間ほど雪が降り続いていたりする。その結果、現在の積雪は、雪どけ(実は冒険者たちの冬場における仕事の約半分を占めていたりする)のある街中で約3m、町や村を結ぶ街道付近で約5m、それ以外では10m以上の積雪があったりする。
一応Cランクである僕たちも、屋根の雪下ろしや道路の雪どけを(鍛錬がてら)毎日行い、町を囲む壁の外側に堆く積み上げていく。その結果、現在のプライムテニシアでは、20mくらいの高さがある石でできた壁の外側に、50m以上の高さのある雪壁が取り囲んでいるという状態になっている。ちなみにこの雪の壁、衛兵さんたちの話によれば雪解けを迎える3月まで、どんどん高くなっていくそうだ。
そんなある日。
僕たち『滝の上の12人』という、冒険者パーティでもあり複合移動商会のもとに、冒険者ギルド経由でこの町の領主様から指名依頼が届けられた。
依頼内容は、『プライムテニシアからサクラピアスまでの往復護衛』というモノ。
なお、依頼書を読み進めていくと、領主様一家の護衛は表向きの理由であり、裏の依頼内容は『聖女様の巡業』という、宗教目的があるみたいだ。実際、神殿側の話を聞くに、現在サクラピアスと遠く離れたペンタストという町で襲名した聖女様も、宗教目的の巡業の旅を行っている。
実は僕たちのパーティは、先日月光神(闇の神)ツクヨミ様の聖女に襲名したセイカ(僕の彼女なので呼び捨てである)がいるパーティとして、さらに個性的なパーティメンバーのため、ここプライムテニシアではすでに有名である。
ちなみに自己紹介がまだだったが、僕はミチザネといいます。
この世界ではすでに名乗る事はないが、一応横山道真という名前を持っています。なぜこの名前を名乗れないのかというと、僕のこの世界での身分が平民だから。この世界にある国々では、家名を名乗れるのは王侯貴族だけです。つまり、家名を名乗れる事が、王侯貴族の特権であり証でもあるのです。
そのため、これから紹介するパーティメンバー全員も平民なため、全員が下の名前のみとなっています。
そんなこんねで、全員の名前は、ミチザネ(本名横山道真)・セイカ(星野聖華)・キョウカ(本名緋村香華)・クミコ(本名十和田久美子)・クニヒロ(本名河合邦弘)・サナエ(本名来栖早苗)・ヨシハル(本名末樹義春)・トキコ(本名加藤利喜子)・コウジ(本名安室浩二)・シンヤ(本名井野神信哉)・ナオト(本名植松直人)・ノブオ(本名渡瀬信雄)となる。
この中で(この世界において)結婚済みなのは僕とセイカ、クニヒロとサナエ、トキコとヨシハルの3組。僕的には、キョウカちゃんとクミコちゃんもいいなあと思っているが、ハーレムにするのにはちょっと戸惑っていたりする。
ちなみにこの世界、養っていく甲斐性さえ持っていれば、一夫多妻も、多夫一妻もOKな世界である。ただし、多夫多妻だけはダメらしいが。
なお、パーティメンバーの総意で、『君』・『さん』付けはなくして、全員呼び捨てで呼び合う事になっている。
さて、こんな12人で組んでいる我らが『滝の上の12人』という、冒険者パーティでもあり複合移動商会であるが、当然ながら冒険者としての役割と、商会としての役割とはしっかりと区別されている。
まずは、冒険者としての役割分担として、前衛が7人、中衛が1人、後衛が4人となる。
危険をいち早く察知する斥候役がクミコ。
敵に罠を仕掛けて翻弄させる罠師であるコウジ。
タンク職は3人。
1人目の楯は、罠師でもあり、タワーシールドとロングソードで闘う騎士型の楯でもあるコウジ。
2人目の楯は、槍と楯を使う不動型タンクのヨシハル。
3人目の楯は、皆を守る物理楯で、大型重量武器を振り回すパワーハイターであるノブオ。
物理アタッカーは次の3人。
1人目は、脳筋剣術士クニヒロ。
2人目は、様々な徒手空拳を使い、『今津流格闘総合武術』の使い手でもあるキョウカ。
3人目は、火属性と地属性の魔術も多用した魔法剣士ハイブリッド型のナオト。
弓矢を使った狩人であるシンヤ。
範囲攻撃の魔術師が2人。
1人目は、風属性魔術と水属性魔術を使うミチザネ事僕。
2人目は、4属性(風・水・火・地)を操り、無属性がないため派生属性を扱う事ができないが、それを物理・科学的知識で補完し、疑似的に派生属性を操る事ができるトキコ。
回復・支援系統の魔術が使用出来るヒーラーであるセイカ。
そして、唯一戦闘面での活躍はないのがサナエだけだが、戦闘もできるように僕たちでいろいろと現在仕込んでいたりする。基本は、今津流格闘総合武術を併用した徒手空拳になる感じで鍛えてはいる。
生活面(生産関連も含む)では、各自得意としている分野がばらけている。
野営時には最強戦力となるコウジは、サバイバル技術に精通しているため、どんな場所でもある程度快適な寝床などを造る能力がある。そのため、野宿でありながらも、快適な十君官が提供されてしまうのが僕たちのパーティである。
次に、僕らの胃袋の支配者であるセイカとサナエ。
町の中では市場に屋台を出して、プライムテニシアの住民の胃袋すらも掴みつつある。セイカは『月光神ツクヨミ様の聖女』でもあるため、僕たちのパーティ内では最も有名人でもある。
次は、加工関連を担う5人。
1人目は、金属加工職のノブオ。
2人目は、木工加工職のシンヤ。
3人目は、革関連の加工職であるナオト。
4人目は、布連の加工職であるクミコ。
5人目は、製薬関連の加工を担うミチザネ事僕。
そして、僕たち5人が加工した品物をうまく売りさばいてくれているのが、異色の商人さんであるトキコ。
あとは、御者の腕前は僕たちの中では1番であるヨシハル。
なお、ここに出てこなかったクニヒロとキョウカは、皆におんぶにだっこ状態である。
そんな僕たちのパーティ事情は、今はどうでもいいとして。
指名依頼を受けた3日後には、すでにホームとなっているプライムテニシアを旅立っていた僕たち。当然、(なぜそうなったかは知らないが)領主様の護衛としてサクラピアスへと向かっていたりする。
町を出ていきなり現れる高さ5mほどの雪壁。
この先、サクラピアスまでひたすら続く事になるこの雪の壁をどうにかしないと、方角を見失って大変な事になるという。
「【竜巻巻き込み除雪】」
取りあえず即席で考えた魔術を発動する僕。その名の通り、竜巻を3つほど作り雪の壁にあてがう。竜巻の壁?に巻き込んだ雪をそのまま遠くに吹き飛ばしていき、街道を露出させていくのだ。なお、発動にに僕の魔力を消費するだけで、あとは自然界に溢れている魔力を取り込んで自動で任意の方向に、竜巻を維持しながら進んでいくという省エネ仕様の魔術である。
そんな魔術で除雪した街道を、馬車で進んでいく僕たち一行。ちなみに、僕たちの馬車列の後方には、いろいろと便乗している商人さんたちの馬車列が50mほど続いていたりする。
冬場の流通を考えるならば、除雪した街道が再び雪に覆われる前に進んだ方が安全である。ちなみに今日は、珍しく雪も止んでおり、雲の隙間から太陽も顔を出している天候である。
何時、また雪が降り出すのかは解らないが・・・・・・。
そんなこんなで、ガリガリと雪を掘り進めていき、そろそろ夕刻と言ったところでプライムテニシアから見て2つ目の村に到着する。雪がなければ、1日あればあと3つほど先の村まで進む事が可能なんだけどね。
ちなみに通過した村は、メインストリートとなっているこの街道以外の除雪は行っていない。
先を急ぐため、村での歓待も行っていないのだ。
で、この村での歓待も、領主様は丁重にお断りしていたりする。
理由としては、雪が降り始めてから洋間で、最初も村もこの村も陸の孤島になっており、備蓄品を切り崩して生活しているからだ。そんな状態で、わざわざ領主が来ただけで、大事な備蓄品を大量に消費する事はならんという事である。
ちなみに、僕たちの後ろをついてきていた商人さんたちは、先の村でもこの村でも、備蓄品の補充という名目で商売を行っていたりする。
降ったりやんだりする雪の中を、除雪しながら突き進む事10日。
サクラピアスからオークドカレッジ、そして我らがホームであるプライムテニシアへと向かう街道の分岐点に到着する。
そしてその分岐点で、信じられない光景を目にしたのだ。
僕たちが通ってきた街道は、僕の魔術で除雪しているので地面が見えているのは当たり前。
し・か・し!
サクラピアスからオークドカレッジへと向かう街道については、除雪はされていると予想は付いていたが、まさか街道自体が石畳になっているとは思っていなかった。
そして・・・・・・・。
よくよく観察してみれば、この石畳。
現在進行形でドカ雪が降っているのにもかかわらず、全く雪が降り積もっていないのだ。石畳雪が接地?した瞬間、瞬く間に溶けて左右にある側溝へと流れ得ていく。そして、石畳自体凍結しているといった事もないようで、全く滑る事もないのである。
「ほう・・・・・・。これが、話に聞いていた除雪魔導具か。確かにこれならば、父上も最優先で設置に動くはずだ。」
何やら領主様は、この石畳の事を知っているみたいだ。
どうもこの石畳、除雪を専門とした魔導具らしい。そんな魔導具の上を進みながら、僕たちはサクラピアスへと突き進んでいく。
日は、サクラピアスの手前にある石橋のたもとで最後の休憩をする。
この場所、実はサクラピアスへと向かう際の最後の野営地であり、ここを過ぎれば2時間ほどでサクラピアスへと到着する。事実、閉門に間に合わない場合は、この橋のたもとで野営する事が推奨されているのだ。
サクラピアス周辺は、雪が降り続いているにもかかわらず、壁から100mくらいの範囲は全く雪が降り積もっていない。
例の石畳が敷かれている街道はともかく、それ以外の部分もである。不思議に思って観察していると、遠くの方から、雪煙をまき散らしながら何かが近づいてきた。そしてその何かは、ありえないほどの速度で僕たちの目の前を通過していく。
その何かが通過した後は、積もり始めていた雪がきれいさっぱりとなくなっていたのだ。
「なんなんだろうね?・・・・あれ?」
「俺たちに聞かれてもなあ・・・・・・。なんだか、ア〇ラレちゃんみたいな人型のなにかが通過した気がしたんだけどね。」
「シンヤも、そう感じ取ったんだ。僕の見間違いじゃあなかったんだね。」
いったい何が通過したのかは知らない・・・・・・というか、なんだか見間違いではなければ、よく見知った人物だった気がするんだけどね。
そんな風に不思議に思いながらも、僕たちはサクラピアスへと入城するのだった。