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異世界放浪記~ここは異世界テラフォーリア~  作者: ai-emu
【第6章】国境の町へ向けて
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【06-09】私の(コトリも含む)知名度は案外低かった模様です

国境の町メニューザイ。

この町のシベリアオス帝国側で起こった魔物大暴走スタンピートは、発生から5日間が経過しても、未だ収束を見せていない。ただし、魔物側の談数が少ないのかどうか知らないが、徐々にではあるが1回ごとの襲撃数が少なくなってきている。空飛ぶ魔物など、2日目以降見ていない。

こえは単に、ボスが今だ討伐されていないからであって、逆に言えばボスが討伐されれば即座に収束するという証でもある。

そんな状況なため、現在作戦司令本部では、ボス討伐について動きがり、誰を討伐に向かわせるかで激しい議論がなされている。


そんな中私は、城門の上にある楼閣部分に立って、町の外に向けて鎮魂歌レクイレムを歌い紡いでいる。風属性の魔術を使用して、長距離広範囲に私の歌声が届くように調整して。

理由は簡単。

そろそろ死んだ魂を輪廻の輪に還さないと、死霊家の魔物がわんさかを湧いて出てくるから。

通常ならば、素材を剥ぎ取った後魔物の死体はその場で燃やされるため、そんな事態を招く事はない。しかし、広範囲に死体が散らばっているため、素材を剥いで燃やすなんて事ができるはずもない。というか、それをする時間もなく、断続的に魔物が襲撃してくるのだ。

そんな状況下なため、有用な素材も多々あるだろうが、魔物の死体はすべて無に帰してしまう事になった。

歌われている歌詞に魔力を込めて言霊とし、広範囲を浄化し彷徨える魂を(魔物も人間も関係なく)すべて輪廻の輪に還す。魔物も人も関係なくだ。その上で紡がれる旋律を、魔術式として広範囲に魔法陣を張り、聖火によって死体を灰とし、穢れた大地を浄化して死霊系の魔物が発生しにくい環境を作り上げていく。


とりあえずの浄化作業を終えた私は、ボス討伐で紛糾する作戦司令本部に足を運んだ。


「ボスはすでに判明しておる。あとは倒すのみ。しかし、貴殿らの戦力で、あれを討伐できるのか?」

「できるできないの話ではなく、シベリアオス帝国で発生した魔物大暴走スタンピートであり、ボスも我が国内にいるのだ。我々にも矜持があり、すべてを貴殿らに任せる訳にもいかんのだ。

さらにボスはドラゴン種だ。ここは我らに、ドラゴンスレイヤーの称号をくれないか?」


会議室の中に入ると、コロラド王国側の司令官が、シベリアオス帝国側の面々を恫喝していた。

ちなみにボス自体は、話に出ている通りに、すでに『ギガントテラテクス』という大地を歩き、翼はあるが空を飛べないドラゴンと判明している。

ギガントテラテクスという魔物は、見た目は地球に生息していた首長竜だが、その首が9本あるヒュドラで、進む速さは今回の魔物大暴走スタンピートの中で最ものろまだと推測される。しかし、首の長さだけでも優に20mは超えており、尻尾まで合わせた全長となると100mを超える巨体だと推測されている。


そんな化け物がゆっくりとだが確実に街に向かっているのだが、ここにいる連中・・・・・、特にシベリアオス帝国側の面々は何を考えているんだろうか?

矜持やプライド、たかが称号1つ得るためだけに、わざわざ死地に赴くなど滑稽だ。

ドラゴンスレイヤーの称号は、確かに力の象徴であり、それだけで世界にその名を轟かせる事も可能だ。私は今回、ワイバーンや空飛ぶ何かを殲滅した段階で、その称号を得る事になった。

でも、今回のボスであるギガントテラテクスを討伐するとなると、こちらにもそれ相応の覚悟と戦力がいるはず。言っちゃあ悪いが、シベリアオス帝国側には、そんな戦力はないと思う。


「なかなか面白い事で、くだらない議論をなされていますね。」

「君は誰だね?女が口をはさむ事ではないぞ。くだらないと言っていたが、君にはドラゴンキラーの持つ意味が解っているのかね?」

「何処のどなたかは知りませんが、ワイバーン1匹どうにかできなかった者がボスを討伐したいなんて、いったい何を考えての事でしょうか?そういう事は、ワイバーン程度瞬殺できる腕になってから仰ってください。」

「は、は、は、は。言いますね、巫女様は。確か、先日のワイバーンの群れや、その後ろに控えていた翼竜の群れを殲滅したのは巫女様でしたね。

ささ、どうぞこちらの席へおかけください。おい!誰か!巫女様にお茶をお持ちしろ!」

「これはこれは領主様、昨日ぶりでございます。」


私は、半分バカにしたような態度で、その議論の場に口を出した。

いきなり私が口に出した事で、シベリアオス帝国側のメンバーの1人が、女であり、見た目成人前後の少女(本当の事ではあるが)の私を見て、『女は引っ込んでいろ』と言った態度に出る。

そんな私の事を知っている面々は、その何処かの誰かさんの態度を見て青ざめているが、私は素知らぬ顔をしてそれらを流してしまう。そして、こう付け加えながら、(コロラド王国の)領主様が示した席に腰かける。

それにしても・・・・・・、なんで用意された席が、領主様よりも上座に当たる席なんだろうか?

そして領主様?

なんでそんなに嬉しそうに、相手の神経を逆なでするような発言をなさるのですか?

まあ、何処の誰なのかも知らない相手を、小バカにした私が言う事ではありませんが・・・・・。


「それにしてもだ。確かに、あれを討伐したいのなら、ワイバーン程度は瞬殺できないといけませんな。これは1本、取られましたな?・・・・・シベリアオス帝国側のギルドマスター殿?

それともギルドマスター殿は、ワイバーン程度瞬殺できると仰っているのですかな?」


どうも、先ほどから変なプライドを前面に押し出して唸っていたのは、冒険者ギルドメニューザイ・シベリアオス支部を任されているギルドマスターだったらしい。

そして領主様、分かっていてそんな事を聞いているんですよね?

ワイバーン程度瞬殺できる腕があるのなら、城壁を腐らせる事もなかったんですから。


「俺は・・・・・、魔術師や狩人ではなく、前衛の剣士だ。剣の届かない場所にいる魔物を、倒す手段は俺は持っていないからワイバーンの討伐は俺には無理だ。」


何か、わけのわからない理論をぶちまけましたよ、このギルドマスターは。


「別に、空飛ぶ魔物をその状態で討伐しろとは、一言も言っていないんですがね。空を飛んでいるのなら、どんな方法でもいいから地面に引きずりおろせばいいでしょうが。あと、別に剣士だろうが格闘家だろうが、空を飛んだままの魔物に何らかの攻撃を加える事は可能ですよ?

やる気と根性と努力さえあれば、の話ですけどね。」


私は、正論じみた本音をギルドマスターにぶつける。ギルドマスターは、私ん事を『何もわかっていない小娘が』とか、『何処の馬の骨かもわからん女が口を出すな』と散々暴言を吐いているが、先ほどから(コロラド王国側の)領主様が私の事を『巫女様』と呼称しているのだが・・・・・・・。この『巫女様』という言葉を、なんに意味なのか理解できていないのだろうか?


「ところでそこの小娘は、なんで領主様よりも上座に座っているんだ?王族でもないただの平民風情が、なんで貴族よりも上の立場にいるんだ?」


この言葉を聞いた瞬間、『この男は、私の事を何も知っていないのだな』という事が理解できた。なので私は、領主様に私の立場について聞いてみる。


「領主様?私のこの『巫女』という身分は、いったい何なのでしょうか?」

「ん~~~~、そうだな。そこの男は、『巫女』という言葉が、何を意味しているのか理解できていないんだろうな。確か、巫女様がこの立場に就任なさった際、とある団体から世界中にその胸が発信されたと記憶しているが。シベリアオス帝国側の司令官殿は、その時のことを記憶しておるかい?」


バティスティア聖国(もしくはバティスティア聖教)の事を”とある団体”と言葉を濁して、シベリアオス帝国側の司令官に確認を取る領主様。それを聞かれた司令官も、言葉を濁してこう答える。


「いえ、あの日の事は私もよく覚えております。なんせこの世界において、初めて就任なさったお方です。それも、白巫女様と黒巫女様が、同時に誕生してしまったのですから、忘れろと言われても無理な話です。まさか、冒険者ギルドのギルドマスターとあろうお方が知らなかったとは、私も今聞いてびっくりです。」

「そうだよな。こんな辺境のド田舎の町を任されている私ですら、就任当日に情報が回ってきたからな。白巫女様と黒巫女様の容姿や経歴等も含めてな。

先日初めてお会いした時は、感動モノだったぞ。

なんせ、『気が向かなかったから』という理由で、領主館に立ち寄っても下さらなかったからな。」

「私もです。こんな状況下でなければ、一生出会えなかったんですからね。それも、2人の聖女様も同時にお見えになった際は驚きました。」


そんな会話を、シベリアオス帝国側のギルドマスターを除いた会議室にいた全員で行っている光景は、滑稽問ほかないだろう。

1人ハブにされたギルドマスターは、話の隅々から出てくる聖女様やら、巫女様と言った言葉を聞いても、何の話なのかを理解できていない模様だ。当然濁されている『とある団体』が、バティスティア聖国(もしくはバティスティア聖教)の事を言っているとは、夢にも思っていないだろう。

そんな話の中心人物である私は、誰かが淹れてくれた紅茶を飲みながら話を聞いているだけだ。ちなみに、現在の私の服装は、いつものメイド服ではなく、聖女様仕様の白色と空色を基本色とした修道服である。この服装なのは、先ほど魂を輪廻に還す神事を執り行った足でこの場に来たからだ。

そして、この服装をしていても、『何処の馬の骨とも知らない小娘』と、私の事を罵ったのは、ある意味図太い神経の持ち主なんだと感じてしまう、シベリアオス帝国側のギルドマスターである。


この修道服を着用するのが許されているのは、今のところ10人もいないはずなんだけどね。


え~~~っと。


私とコトリとぺニアで、とりあえず3人でしょ。ハルナは神の名のついた聖女ではないけど、聖国の身分である聖位は聖女だから、この修道服を着用できるから4人。

カスタード辺境伯領内で、私のよ~~~く知っているマナミちゃんとマコトちゃん、それとテレサちゃんっていう女の子が聖女様になったから、これで7人でしょ。マコトちゃんって、そういえば男の娘だったけど、あの魔術の検証実験で、無事女の子になれたんだね。

後、つい先日、ムハマルド辺境伯領プライムテニシアていう町で、これまたよ~~~く知っているセイカちゃんって女の子が『月光神(闇の神)ツクヨミの聖女』になったっていう話を聞いたね。

これで全員かな?

つまり、現在8人の聖女様が、コロラド王国の辺境地にいる事になる。そしてその聖女の中で、の特別な存在である『巫女』と呼ばれているのは私とコトリだけだ。


ここまで話の隅々に登っていても、未だに気づかないシベリアオス帝国側のギルドマスター。あまりにおもしろいため、このまま放っておこうと思っていたのだが、何とあちらさんから「お前だいったい何者だ?」という誰何が来たので、その後の反応を楽しみにしながら正直に答えてみる。


「私ですか?私は、ムハマルド辺境伯領のサクラピアスっていう町で、Cランク冒険者をしているヒカリって言います。『異界からの来訪者』なので、正真正銘『何処の馬の骨かも知らない』女の子です。

なお、サクラピアスでは、冒険者ギルドの他に、お薬を作るために錬金ギルドと、魔導具を作るために魔導具ギルド。そして、作った品物を売買するために、商人ギルドにも加入しています。当然ですが、その親分である商業ギルドにも加入済みですね。

後、これは余談になるんですが、私のバティスティア聖国においての立場は『聖女』になります。この修道服を着用する事が許されている時点で、何らかの聖女である事は確定していたはずですが・・・・・。

で、私を聖女にしてくださった”神々”は、次元神・創造神・破壊神・空間神・時間神・重力神の6柱でして。6なんか、この6柱の聖女だけは『巫女』都別に呼ばれているらしく、その結果私は『6大神の白巫女』と聖国では呼ばれていますね。」


私のカミングアウトに、シベリアオス帝国側のギルドマスターはあんぐりと大きな口を開けて、思考停止フリーズしてしまった。

私のこの『6大神の白巫女』という知名度は、案外低いようだと感じてしまった。結構いろいろな立場の人たちも知っているのに、まさか(こんな辺境の地だとしても)冒険者ギルドのギルドマスターある人物が知らなかったのには驚いてしまったのだ。


「あのう、領主様?おギルドマスターって、まさかとは思いますが・・・・。バティスティア聖教に入信していないのでしょうか?そうだったなら、私の事を知らなくても理解はできますが・・・・・。」


私の素朴な質問に、「信教の自由は、何処の国でも保証されているから一概には言えないが・・・・・」という前置きをしてからシベリアオス帝国側の司令官がこう言葉を紡いだ。


「俺の知っている限り、このギルドマスターは、バティスティア聖教の信者だったと記憶しているぞ。そして、つい先日の飲み会において、『聖女様がお見えになったら、俺の立場上会う事も可能だろう』という発言をしていたのを覚えている。まさか、目の前の子『何処の馬の骨とも知らない女の子』が、その聖女様であったなんて、頭の中からすっぽ抜けていたんだろうな。」


まあ、そういう事にしておいてあげましょう。

それよりも今は、ボスの討伐を最優先にしないといけませんからね。

という事で、なかなか再起動してこないシベリアオス帝国側のギルドマスターは放っておいて、ボス討伐の段取りを話し合っていく私たちであった。

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