【06-08】再びのスタンピート(その2)
シベリアオス帝国側の城壁は、現在あまり機能していない。
それは、ワイバーンによるブレス攻撃により、城壁に至るところが腐って崩れ落ちているからだ。
その結果、地を往く魔物たちが、腐って崩れ落ちた城壁から街中へと侵入してしまい、シベリアオス帝国側の町は現在大混乱中である。城壁周辺の家屋など、すでに跡形もなく破壊されてしまっているしね。
ちなみに町の住民は、皆挙って国境であるメニューザイ砦に殺到し、コロラド王国側へと逃げるため、門が開放されるのを待ちわびている。つまり一番安全な場所に避難しているわけだが、この先に行く事が叶わないため、皆いら立ってきているみたいだ。
中には・・・・。
「さっさと門を開けないか!私を誰だと思っておる!私はシベリアオス帝国側の行政府の代表を務めておるタンバリン=アラニスト=シルベール男爵なるぞ!私と、私の家族だけでいいから、さっさと通さぬか!」
あれ~~~~~~、そんな上の身分にいる人が、町を見捨てて真っ先に逃げてきているの?
先頭にいるという事は、そういう事ですよね~~~~~。
終わったね、あの領主一家。
「あれって、大丈夫なんですか?」
「あれか?あの行為は、シベリアオス帝国の方に照らしてみても駄目な行為だな。領主が真っ先に逃げ出す事はあってはならない。下手をすれば、あいつの心労郎党全員が連座して奴隷落ちになるぞ。それを知っているのか?あいつは?」
あの行為は、どちらの国においても駄目な行為みたいだ。ちなみにコロラド王国側の領主様は、楼門の中央部において、魔物がよく見える場所に腰かけて状況を見届けている。鎧や武器を携えて。
つまり、何かあった場合は、真っ先に魔物の群れに跳び込む気満々でいるのだ。下で喚いている何処かの領主様とは、なんだか格が違うね。なお、領主一家は、砦そばに(私が)作った井戸近くに控えて、おさんどんさんを買って出ている。先ほども暖かい食べのもが配られていたので、そのうちのどれかが、領主様一家の手作り品となる。
まあ、それはいいとして。
それを見ていた私たちのもとに、シベリアオス帝国側からの伝令が、息を切らせてやってきたのだった。
伝令は、目の前で喚いている領主一家を一瞥すると、そのまま門脇にある通用口へと消えていく。そして数分後に、私たちのいる楼門へと姿を現した。
なお、伝令がここに来るまでに、すでに戦闘が始まって2時間ほど経過している。
「メニューザイシベリアオス口より伝令。コロラド王国側の兵士及び冒険者の諸君の、シベリアオス帝国側への無条件入国を許可する。また、摘便町にいる魔物の駆除を要請する旨、守備隊長より承ってございます。」
「あい分かった。避難民については、何か言っていたか?」
「いえ、避難民については、現状維持を貫けと。ただし怪我人については、怪我の程度に拘わらず治療を要請すると仰っておりました。」
「了解した。ところで、・・・・・・あそこにいる、お前たちの領主一家はどうする?」
そう言いながら(コロラド王国側の)司令官は、楼門の真下で喚いている領主を一瞥する。その視線に合わせて伝令も一瞥したが、すぐさま司令官に向けてこう言いななった。
「あれはすでに、我らが領主でも何でもありません。コロラド王国側に逃げ込んできた直後に、護衛たちも含めて全員逮捕しておいてください。後ほど、引き取りにまいります。」
さて、シベリアオス帝国からのGOサインも出た事ですし、早速魔物の討伐に向かいましょうか。
「では、討伐に向かうとするか。と、その前に、空飛ぶ危険を排除しておかないとな。ヒカリちゃん、ここからで悪いが、ワイバーンを何とかできるか?ついでと言っては何だが、遠くに見えている奴らもなんとかしてくれるとありがたいんだが。」
「ああ、遠くのやつらも解っていたんですね?」
「ああ、あれだけデカイとな。ここからでもはっきりと見える。」
「わかりました。では早速空飛ぶ脅威を排除しましょう。ところで、シベリアオス帝国側の町の被害は、ある程度なら見逃してくれますよね?」
「ん~~~~、そうだな。すでに下のほうは、ワイバーンで被害甚大だからな。殲滅してくれるなら、多少の被害は目につぶろう。」
私と司令官との話し合いに、黙って聞いていた領主様からGOサインが出る。たぶん、被害の補償は、下で喚いている裳と領主一家に財産でなんとかするんだろうとは思う。
破壊の許可は下りたが、なるべくなら破壊しない方はいいだろう。・・・・・となると、これが一番いいかな?
「では行きます。【超電磁砲】×乱射」
私は、最大出力でもって魔術で再現したいつもの超電磁砲を連続して放っていく。乱射されていく超電磁砲の軌道が、空中にくっきりと残り、無数の軌跡が浮かんでは消えていく。なお、超電磁砲で放っている弾は、今回は(アサルトダンジョンで回収した)オリハルコンを使用。
超電磁砲により乱射されていく無数のオリハルコン弾は、ワイバーンを無作為にハチの巣にした。そしてそれだけでは飽き足らないのか、ハチの巣にした後もそのまま弾丸は突き進み、その延長線上にいた魔物たちも無作為に蹂躙していく。
そうして5分ほどでワイバーンと、超電磁砲による弾丸の延長線上にいた無数の魔物たちの殲滅を完了させた私。
ワイバーンの殲滅を完了した私は、そのまま標的をはるか遠くで滞空している何かに向ける。
そして、無駄と知りつつも広範囲に弾幕を張って空飛ぶ何かを、モノの数分で殲滅していてしまった。
「殲滅完了!」
「よし、では改めて出撃を開始する。まずは、逃げ遅れた者たちを、優先して回収。その上で、砦前まで連れてくる事。回復魔術が使える者は、砦前に救護所を設けるから、そこで治療に当たってくれ。それから・・・・聖女様」
『ひゃい!何でしょうか?』
私とコトリ、ぺニアとハルナの4人は、いきなり指名された事で変な声を上げる。どうも、領主様をはじめとした行政側の上層部は、私たち4人が聖女様だという事を知っている模様だ。たぶん、オークドカレッジあたりに私たちの身元を紹介した際に、聖女様の事は報告に上がっていたんだと思う。
別に、聖女である事を隠すつもりはないので、ここで指名されても問題はないのだが。
「君っ体4人は、死別けないのだけど、最前線へと向かってくれないか?あっちは絶対混乱していて、治癒魔術師の数も足りないと思うからな。護衛と言っては何だが、20人くらいなら適当に見繕って連れて行っても構わない。俺は、ここを護る仕事があるから付いていけないが、そこの伝令と共に最前線へと向かってくれ。」
「はい、わかりました。」
私は、司令官の命令を受諾して、適当に20人ばかり冒険者を見繕っていく。
当然そのメンバーの中には、暴れたくてウズウズしている我らが『ご主人様とメイドさん』のメンバーも含まれている。皆さん、脳筋の集まりだからね。こんな脳筋イベントを前線で参加できないなんて、考えたくもない光景なんだろうね。
「それじゃあ伝令さん。シベリアオス帝国側の指令所までの道案内、お願いしますね。」
「はっ!聖女さを道案内できるとは、私の人生の中で1・2を争うほどの誉れであります!」
通用門を出て、喚き散らかしている(いつまでやっているのか知らないけど・・・・)領主一家を無視して、町の坂道を走って下っていく。
「私、先に行っていてもいい?」
「ん~~~~、別に構わないけど、下の連中を驚かしたらだめだよ?」
ミオが、ちんたら走るのが嫌なのか、先に行ってもいいかと聞いてきたのでこう答えておく。私のGOサインを出した瞬間、ミオの姿が目の前から消えた。九十九折の坂を下る私たちをしり目に、最短距離をショートカットするかのごとく、ところどころの屋根が陥没して轟音を轟かせていく。中には衝撃に耐えきれなくて、崩壊してしまう建物もあった。
そして、1分ほどで下まで降り切ったミオは、そのまま直進しながら魔物たちの群れの中に消えていく。なお、ミオが通り抜けていった場所には、何かに切り裂かれた魔物たちが高々と打ち上げられている光景が見える。
・・・・・・・・・・・・。
まあ、ミオの事は、放っておくとしよう。
我らが旦那様事ナオミチ君と結婚した事によりハーレムになった私たちは、ナオミチの持つスキル一夫多妻強化によって、能力値がいろいろと強化されている。
このスキルは、ハーレムを築いた本人とそのハーレムメンバーに対し、ハーレムメンバーの人数に比例してすべての能力値が強化さるため、現在5人のハーレムメンバーを持つ私たち全員は、その能力値が最大で720倍強化されるのだ。
ミオが、どんな脳力を強化しているのかは知らないが、ミオの持っている短刀が軽くかすっただけでも、その軌道上は真っ二つに斬り裂かれるだろう。そして、風圧によって出来上がったモノが、現在進行形で繰り広げられているこの光景というわけだ。
最前線まで下り切った私たちは、そのまま司令官のいる指令所みたいなところまで伝令さんに案内される。なおすでに(コトリとぺニアも含め)脳筋組は、戦場へと旅立っていった。例え聖女であっても、2人は治癒魔術はあまり得意ではないので、戦場に送り出した方が得策である。
そうして司令官たちに挨拶をした私とハルナは、重傷者を優先的に治療する事になった。ちなみに私が砦から超電磁砲による弾丸攻撃で、町を腐らせてたワイバーンと、はるか彼方にいる空飛ぶ何かを殲滅した事は既に報告済みである。
「私もハルナも万能ではありません。なので、ここにお薬を用意してあります。申し訳ありませんが、重症者以外は、このお薬で治してください。あと、魔術師の皆さんには、魔力回復液化薬を用意してありますので、これを飲んで魔力の回復を図ってください。代金は、今回は頂きませんので安心してください。」
そう言って私は、樽詰めしてある生命力回復液化薬と毒付与状態回復液化薬、そして魔力回復液化薬を、1樽ずつ司令官に手渡す。ちなみに上の砦にも同じ物をすでに置いてきている。
司令官は即座に担当を呼んで、樽ごとお薬を必要個所へ配達していった。
そして私とハルナは、重傷者のいるテントへと案内される。このテントの中が、私とハルナの戦場となるのだ。
魔物大暴走は、夜が明けてもいまだに続いている。
すでに何人の重傷者を治療したのかも数えていない。しかし、外で暴れまわった我らが脳筋組の活躍により、散発的な攻撃はあるがとりあえずは落ち着いている。
徹夜明けの私とハルナほか『ご主人様とメイドさん』御一行は、最前線近くにある民家を借りて(というか周辺の民家はすべて接収されており、戦闘を行う者たちの仮眠所となっている)仮眠をしている最中である。ちなみに、安眠液化薬は使用していない。いつたたき起こされるのか解らないが、とりあえず昼過ぎまでは仮眠できるように手配してもらっているからだ。
魔物大暴走を戦い抜くにあたっては、仮眠時間が来たら眠る事も、れっきとした戦闘行為なのだ。
お昼すぎに起きた私たちは、衣された食事を食べてから楼門に登る。
周囲を見渡せば、散発的な戦闘は起こってはいるが、町の中にまで入り込まれるようなことは起こっていない。しかし、今の状態ではいけない事は、誰もが理解できている事だ。
「とりあえず、町の建物の再建は後回しでもいいけど、城壁だけは何とかしておかないといけないかな?」
という事で、司令官に進言し、足が単独で城壁を再建する事に決まった。で、腐らずに残っていた城壁を参考に、高さ10m、幅10mの城壁をサクッと造る。これで、魔物からの襲撃は、ある程度は防げるはずだ。もう一度ワイバーンが来ない限りは・・・・・。
こうして、防衛側は準備万端である。
未だにボスの討伐は行っていないので、近々魔物大暴走第2波が来ると見込まれている。第2波がどんな攻勢で襲撃してくるのかは知らないが、今度は私たちもいるのだ。空飛ぶ魔物たちがいても、真っ先に殲滅敷いてあげる事になる。
そんなこんなで、2日目の夕日が大地に沈むころ。
魔物大暴走の第2波がやってきた。
「それじゃあヒカリちゃん。まずは昨日と同様にあの魔術を使って周囲を明るく照らしてくれるかい?」
「了解しました。【疑似太陽創出】」
まずは、昨日と同様に疑似太陽を作って、周囲を明るく照らす事から始める私たち。光に照らされた魔物の赤い群れは、大地と空に別れている。そのため、とりあえず空を富む魔物を殲滅していく私。どんな種類がいるのかはあまり確認もせずに・・・・・。
「では行きます。【超電磁砲】×乱射」
私は、最大出力で【超電磁砲】によるオリハルコン弾の弾幕を、周囲一帯に満遍なく張り巡らせた。
さあ、第2ラウンドの始まりだ。