【01-07】持っているスキルを検証しよう(その1)
VRMMORPG『リアルメーカー』には、特殊系・知識系・生活系・趣味系・生産系・魔術系・戦闘系・耐性系の8系統のスキルが存在している。そして、それぞれの系統の中には、劣化スキル・基本スキル・派生スキル・統合スキル・特殊スキルの5系統があり、全スキルを併せると千種類以上のスキルが存在していた。
その上、『ないスキルは創ればいい』というポリシーの下、とある特殊スキルを持っていれば、どんなスキルでも制作可能だった。で、結局そのスキルを取得した人材によって、一般発売当初は500種類ほどだったスキル数が激増し、私がこの世界に来る直前では総数が1621種類存在し、週に10種類前後の割合で増殖して言っている。私のそのスキル激増合戦?に参加していた人材で、中には「なんの目的で作ったんだ?」と言いたいモノや、同じような事ができるスキルももちろん存在している。そして、スキルどころか、魔力の属性すらも創り出す事ができたのだ。
で、何が言いたいかといえば・・・・。
「全部で1500種類以上あるスキルだけど、どの系統から検証していくのかな?モノによっては、今からできないモノもあるし、私達の目の前で、その効果を見る事ができないスキルも存在しているよ。
どれから行くつもり?コトリちゃん?」
スキルを確認していくにあたり、優先順位を決めていかないといけないのだ。さらに言えば、現状メニュー欄がないため、自身がどんなスキルを持っているのかも不明な状態である。
私に対しても、コトリに対しても。
「そうだね~~~~~。あたしもヒカリちゃんも、膨大な量のスキルを保持しているからね。とりあえず、現実世界でも使えるスキルから検証かな?全部やらなくてもいいけど、それぞれのカテゴリーの中で、主要なモノだけを検証していけばいいんじゃない?
ゲーム内だけで取得しているスキルについても、順次検証に上げていけばいいと思うよ。できたらできたで、使い道がありそうなものがたくさんあるしね。」
「まあ、そうなるよね~~~。それに、8つの系統の中でも、優先順位を付けないといけないけど・・・・。知識系統は、後回しでも構わないよね。現状ここが何処なのかもわからないし、そうなるとえられている知識も違いがあるし、地球の知識は半分は使い物にならないだろうし。」
「まあ、そうなるよね。知識系統は、あたしも後回しでも構わないと思う。それこそ、何処かの人里に到着するか、誰かに出逢うその時までは、別にあってもなくても半分どうでもいいスキルばかりだしね。」
知識スキルとは、その名の通り『何かを勉強した結果身に付くスキル』である。
言語しかり、理数系しかり・・・・。
そのため、地球で身につけた知識の半分以上は、この世界では役に立たないと踏んでいる。そのため、コトリの言っていた通り、『何処かの人里に到着するか、誰かに出逢うその時まで』は、どうでもいいといえばどうでもいいスキル系統である。
「で、次だけど。耐性系統については、その状況下に遭わない限り、その効果を実感できないから後回しでいい。特殊系統は、何かのスキル習得の前提条件みたいになっている事が多いから、検証しようがないからパス。生活系統と趣味系統は、似たり寄ったりなスキルが多いけど、その分一番種類も多いからね。この2系統については、日々の生活の中でも確認できるから、まあ改めて検証しなくてもいいかな?って思っている。」
「そうなると、現状で確認できそうなのは、戦闘関連のスキルと、魔術関連のスキル。あとは生産系統のスキルかな?生産系統については、設備がないと何もできないモノが多いからね。現状でできそうなものだけ確認して、それ以外は後回し、ってところかな?
だいぶん絞れてきているけど、・・・・・・どれから行く?」
まあ、あと残っているのは、戦闘系か魔術系かの2択なんだが・・・・・。
「今私たちがいる木の枝と狼もどきたちの位置関係を考えたら、魔術系統の実験が妥当かな?」
というわけで、魔術スキルの検証である。
魔術スキルは、所持している魔力属性が関係しており、あのゲームの定義では、所持している魔力属性に関する魔術しか使用する事は出来ない。ただし、いろいろと裏技を駆使すれば、持っていない魔力属性の魔術でも使う事は可能だが、今はそこまでしなくてもいいだろう。
VRMMO『リアルメーカー』で設定されている魔法属性は、光・闇・風・水・地・火・無の7属性が基本となり、これに派生属性と呼ばれる2つ以上の属性を掛け合わせた属性が加わる。
ゲームを始めると、通常はこの基本7属性から、無属性(無属性は基本誰でも持っている)を除き0~6属性が本人の適正に合わせてで付与される。なお、派生属性に関しては、構成する基本属性を持っていれば、自動的に付与される仕組みになっている。
持っている魔力属性は、全体の約8割は1~3属性で、残りの約2割の内、5割弱が4属性持ち、約4割が5属性持ちとなり、約1割が6属性・・・つまり全属性を持つ事になる。これは、付与される属性は、陽属性(光・風・水)と陰属性(闇・地・火)のどちらか一方に偏っている事が多く、これは、人の体質が陰陽どちらかである事が大きく関わっているためだ。つまり、陰陽併せ持った者たちのみが、4属性以上を持つ事になる。
ただし何事にも例外はあるモノで、基本誰でも持っている無属性を持っていない者が、数百人に1人の割合で存在しているのも確かだ。なお、無属性を持っていないと、派生属性を使う事ができなかったのも事実である。
そして、このゲームはもともと、特異体質持ちのためのゲームである。ここで付与される属性も、当然本人の資質を鑑みて付与される仕組みだ。どんな仕組みになっているのかは知らないが・・・・・。
なぜ開始時に貰える魔力属性が人によって数が異なるかについて、ゲーム開始当初は掲示板で結構荒れていたようだ。
『最初に与えられる属性は、もともとこのゲームの開発目的だった【特異体質のための訓練空間】という基本設定があるため』
この基本設定を知らなかった者が、”普通のVRMMORPG”と勘違いした結果、『何故属性を自分で選べないのか?』という疑問を投げかけたのがきっかけで荒れたのだが・・・・・。実際、特異体質持ちであっても、私のように全属性使える者から、1属性しか持っていない者まで多種多様な人物がいたのだ。
私達特異体質持ちにして見れば、「今さら何言ってんだ?あいつら」といった感想しか持たなかった。
当然私達特異体質持ちは知っていて当然な仕様だが、後にとあるクエストを消化する事で、保有する魔力属性が増えると判明してからは、一気に収束していた。
ただし、そのクエスト自体、鬼仕様のクエストだったんだけどね。
何度も言っている事だが、この『リアルメーカー』に存在するすべてのスキルは、現実世界と共有する事が可能である。もちろん、魔力属性も含めてだ。
ただし、現有共有したいスキルがある場合、スキル毎に設定された鬼仕様のクエストを行う必要がある。
なお、現実世界にゲーム内のスキルを共有させるには、それぞれのスキル毎に設定されたクエストを、設定された条件でクリアーしないといけない仕組みになっている。
しかし、習得したいスキルの情報がなければ、実際何もできないと同じ事なので、(ゲーム世界で)世界中に散らばっている図書館にある本や、遺跡に存在する碑文等を元に、クエストを発生させていかないといけないのだ。
時には、ゲーム世界内にある古本屋の中の1軒にしか、関連書籍がない場合もあった。それも、古文書レベルに古い本で、なんで古本屋にしれっと置いてあるの?と小一時間問い詰めたいほど貴重な本だったりするのだ。もちろん、図書館の本や碑文を読み解くには、専用のスキル(それもある程度のレベル以上でないといけない)がないとできない仕様になっていた。
そして、発生させたスキル毎のクエスト内容も、簡単なモノから難しいモノまで千差万別である。モノによっては、『クエストを発動させるために、他人の力を借りてはならない』といった制約が存在しているモノもある。
実際、現実世界でも、比較的容易に習得できるスキルは、ゲーム内でもごく簡単なクエストをクリアーすれば習得できた。
そして魔法や錬金術など、現実世界では物理的・科学的に再現不可能なモノは、本当に鬼仕様のクエストをクリアーしないといけない。そのため、途中で挫折する者が後を絶たなかった。もちろん、スキルを習得でき、現実世界と『現空共有』できたとしても、専用の道具が必要な場合は、現実世界でも同じ物を用意しないといけない鬼畜仕様も当然存在している。
こういった工程を経て、現実世界にスキルを引き継ぐ行為を、このゲームでは特殊スキルの名称と同じ『現空共有』と呼称している。また、現実世界のリアルスキルを、ゲーム内スキルに変換する行為を、同じく『身体能力共有』と呼称している。
しかし鬼畜仕様満載のこのゲーム、『現空共有』と『身体能力共有』という、ゲームの根幹を支配するこの2つの特殊スキル(2つの特殊スキルは、キャラクター作成時において自動的に習得するスキル)をアクティベート化するには、少々乱雑な手続きというか、チュートリアル時に行うとあるクエストをクリアーしないといけない。まあ、この辺りの詳細は、時間がないので割愛するが。
閑話休題。
「え~~~~~っと、的にするオオカミもどきの数は・・・・・、1・2・3・・・・・。全部で15匹だね。で、私が現実世界でも使用できる属性は全属性だから、いろいろと楽しめそうだよね。」
あのゲームに存在していたスキルならば、どんなモノでもすべて使用できる事を、あとで知った私である。しかし今はそんな事は全然知らないので、1からの手探り状態で確認していかないといけなかった。
「では手始めに、風属性から行ってみますか。
我は放つは風神の舞いし天上の剣舞
極薄の風刃はすべてを斬り裂きすべてを無に帰す
【鎌鼬の乱舞】」
私は、下にいるオオカミもどきの適当な1匹に狙いを定めて、風属性の魔術を放つ。
なお、言い忘れていたかどうかは知らないが、『魔法』とは自然現象を術者のイメージによって発言させる方法であり、『魔術』とは、魔法を使用するための術式の事を言う。少なくとも、『リアルメーカー』においての設定では。設定的にはこんな感じなんだが、実際は混同していたり同一視していたりするので、どっちの言葉を使ってもいい事になっていたね。
ゲーム内でも、現実世界でも。
そのあたりはいいとして、この世界でもその設定は同じらしく、私がイメージした通りも魔術が放たれた。
私が放った魔術、【鎌鼬の乱舞】は、数十の風の極薄刃を瞬時に生み出して、狙った1匹を細切れに加工していく。そして、それでも飽き足らなかったのか、オオカミもどきの全数と、周辺の草木すら細切れに加工していく。
ちょっと数が多すぎたし、狙い通りに動いてくれなかったね。
この辺りは、特訓あるのみかな?
・・・・・まあ、いいや。次に行ってみよう。
というか、先ほどの魔術1つで、すでにオオカミもどきがすでにいない状態だ。なので、次もくそもなく、すでに終了状態である。・・・・おかわりが来ない限りは・・・・・。
体感で30分ほど待っていたが、おかわりが来る様子はなかった。そんなに都合よく、おかわりが湧くわけはない。
なので、ほかの事で魔術の検証を再開する。
とりあえず水と食料は何とかなったので、次の問題は安全な寝床の確保である。
なお、食料については、今現在いるこの大木の果実を食べ、飲料水は水属性の魔術でなんとかなってしまった。なんせ、ただの水、熱湯や人肌温度のお湯はもちろんの事、炭酸飲料やスポーツドリンクすら創り出す事に成功してしまったのだ。なので、水問題はとりあえず解決である。
では、安全な寝床作りに取り掛かろうかな。
今日はもう周囲は真っ暗で、こんな場所では光源を出す事は危険を呼び寄せる事になる。なので、手早く寝床を作ってさっさと寝てしまう方が得策である。そう・・・・・、すべては明日に回せばいいのだ。
という事で、サクッと寝床を作りました。
本日の寝床は、大木の幹に私が魔術で拵えたもので、その形は自然にできたものではなく、人工的に造り上げた感が半端ない形となっております。
出入り口は、人1人が通れればいいという感じの小さな穴で、直径50㎝ほどの穴となっています。
そんな穴を50㎝ほど進むと、4メートル四方、高さ2メートルほどの大きさに刳り貫いた洞穴が現れる。ここが本日の、私とコトリの寝床となっており、地面には刳り貫いたモノを細かくして敷き詰めました。そして、敷き詰めた上部をちょっと加工して、マットレスのような状態になっております。
これらはすべて、土属性の魔術と、土属性から派生する樹属性(土+水+無の3属性)の魔術を使って私がでっち上げました。
「ではコトリ、明日の朝は日の出とともに行動するから、今日のところはもう寝てしまおうか。」
「うん、わかったよ、ヒカリちゃん。お休み。」
「あっ、おやすみの前に、もう1つだけ、魔術を試しておいていいかな?」
「何をするの?ヒカリちゃん?」
「え~~~とね。とりあえず安全は確保できているから、今のうちに持ち物の問題を解決しておこうと思ってね。」
「・・・・・とすると、あの魔術を使うつもり?」
「うん、現実世界ではまた一度も発動させていなかったからね。なにせ、この魔術が発動できるようになったのが、スキー研修に行く前日だったからね。忙しくてできなかったんだよ。」
「わかったよ。安全だとは思うけど、何かあったら困るから、警戒はあたしがしておくよ。」
「ありがとうね、コトリちゃん。じゃあ、さっそく始めるよ。」
就寝前に1つだけ、魔術を発動させておく事にした。どれだけの魔力がいるのかも見当がつかないが、・・・・というか、今現在の私には、どれだけの魔力量を持っているのかも見当が付いていない。そんな状態で発動させるため、安全がある程度確保されている今がベストなのだ。
時空収納空間と呼ばれる、空間収納系の魔術空間を創り出す 【空間創作時空収納空間】という魔術を使用するのには。