みどりのとびら
キジムナー:沖縄の妖怪。髪の毛がボサボサ位で捉えて下さればと思います。
外国人だ。
開口一番に言われたのはそれだった。
足にはギブス。松葉杖で歩き、沖縄から都内に来た私は真っ黒に日に焼けて髪の毛はキジムナーの様にボサボサで、確かに外国人いや……宇宙人だった。
流行りの物が違う。過ごす速度が違う。沖縄時間と言われていたあののんびりした空気をまとった私は、その空気ごとただの異物の様だった。
静まりかえり誰もいない図書室で過ごす時間。機能していないそれを、マニュアルから探しだして復活させ、いつまでも入り浸った。そこは私の聖域。私だけの聖域だった。
「本なんか読んで暗いヤツ」
クラスという団体に馴染めない宇宙人は、洗礼を食らう。しかし、それは私では無く、私の友達である本に向けられた。小学校中学年の年頃に、男女の性差なんて関係ない。羽交い締めにされた私の前で、本は焼き印の様に、真っ黒なスタンプで汚されてしまった。
泣きながら誰もいない図書室で、私は本に謝った。私が来なかったらきっと[彼]は綺麗なままだった。そう泣きながら私は[みどりのとびら]というお話を思い出していた。
誰もが行きたくて行けない天国の様な楽園への扉。そこは生涯で三度だけ行けるチャンスがあるという。私にはまだチャンスがあるはず。[果てしない物語]の様に、あかがね色の本に吸い込まれて、私は強くなるのかもしれない。あるいは、学校に登下校中に急に扉が現れるのかもしれない。私は、ずっと私だけの[みどりのとびら]を願っていた。
「神田さんー、レファレンス一件来ましたよー」
大人になった私の前にも扉は現れなかった。その代わり、緑のエプロンを身にまとい本と人との差し渡し……扉になっていた。
今日もカウンターに立ち、お客様の意思を汲み取って本と引き合わせる。
逃げてもよかったのかもしれない。でも、私は他の人たちの為の扉探しの道を選んだ。それは私自身が扉になる事。
あったかもしれない扉、見付かったかもしれない扉。しかし、私は後悔せず鍵を渡し続けている役目を担っている。
HGウェルズ:白壁の緑の扉
ミヒャエルエンデ:果てしない物語




