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006 赤と青の竜

 現れた青い竜は、ゆっくりと旋回し、赤い竜の横に降り立った。そして獰猛な視線をジッと俺に向けて来る。


「青い竜──ウオーターブレス? いや──」


 自分の首の無い体に鷲掴みにされ、振り返るその視線の先に、青い竜の口から白い気体が零れ落ち、あっとゆう間に凍りつく。


「氷の──アイスブレスか!」


 上位種であろうその青い竜は、水竜では無く氷竜の様だった。そして、悠然と俺を睨みつけて来る。


「見逃すつもり──は無いみたいだな」

『守護獣ですからね~使命を全うするでしょうね』

「…………」


 そして、赤い竜がそれを裏付けるかのように、ブオンッと翼をはためかせ、俺を牽制しながら横をゆっくりと飛んで行き──

(何のマネだ?)

 俺の後ろへと向かった。


「……あ!まずいっ!」

『……はさみ打ち?』


 どうやらすばしこいネズミを仕留めるには、力業だけでは無理だとでも踏んだのだろうか、ご丁寧に殲滅戦を挑んでくるつもりのようだ。ご苦労な事だ。

 ズズンッと土煙を上げ着地すると、ギロリと此方を睨んで来る。そこまで警戒して頂いて恐縮してしまうところだった。だが、これで二匹の竜が獰猛な猛獣では無く、冷静冷酷な狩人だという事が判明したわけだ。


「さて……どうしたもんかな」


 俺はゆっくりと頭を掴んだ手を一周させ、状況を確認する。


「そういや、俺はどうやって息してるんだ? て、そんな場合じゃねえ!」


 改めて見ると二匹の竜は今にも飛びかからん勢いだ。今度こそ仕留める覚悟が伺えてくる。どうあっても見逃すつもりは無いらしいな。

 巨大な塔まではまだ一キロ近くはありそうだ。なだからかに下る丘を抜け、平地をひた走り、建物の残骸まで飛び込めれば何とかなりそうだが、赤い竜が立ちはだかっている。

(潜り抜ける自信がミジンコも無い)

 だが、考える余裕を与えるつもりは──ないらしい。二匹は大きく息を吸い込み、ブレスによる範囲攻撃での殲滅戦を狙う腹積りのようだった。身を隠す場所など皆無な草原で、さらに間合いを取られた所為で、逃げ場は全く無かった。

「まずいな」

『まずいですね~』

 他人事なオシリィにムッとくるがここは慌てれば負けだ。軽挙妄動だけは避けなければなら無い。


(まてよ、確かこのスマートウォッチは完全防水にして完全防火だったな)


 異世界補正があればもしや防げるかも

『防げますが、あの二匹は亜竜や邪竜の類いなどでは無く、正統なる竜の系譜です。完全には無理だと思われますよ~~それに防御は全周では無く、指向性が有りますから、挟まれたら……』

「詰んでるっぽい!」


 そして、次の瞬間、燃え盛る爆炎と、全てを凍りつかせる白煙が俺を包囲するかのように、全天を覆い尽くさんと迫って来た。

「ブォオオオオオッ!!!」


 しかし──次の瞬間──ズヌゥと肉を抉る音がした。そして鮮血が飛び散る。


「!!! な、何が!?!」

 そして、突然ズボッと口の中に何かが捻じ込まれた。

「うぼっ(うおっ!)は、ばび(何だっ!!)!!」


 慌てて振り返ると、俺の身体が、何とその心臓であろう場所を抉り出し、光る水晶の様な物を引き摺り出すと、俺の口の中に捩じ込んで来たのだ。


「ふぁ、ふあひぃほぉふるう(な、何をするっ!)!」


 しかし、炎の爆炎と氷の白煙はもう俺の視界の全てを覆っていく。何が起こったかを考える時間は無かった。


『あっ! それは貴方の魔石ですよ!』

「まへひ(魔石!?)」


 それってよくモンスターの中にあるドロップアイテム何では──と思う暇は無かった。俺は突然凄まじい勢いで回転を始め、ハンマー投げの様にブルンッブルンと髪の毛を掴んで振り回されたのだ。


(痛い痛いっ! 禿げる!髪の毛が! 最近薄くなってきた頭頂部が抜けるっ!)


 てめえ!俺の身体の分際で何しやがるっ!ぶっ飛ばして──いや手が無いわ──なら蹴っ飛ばして──足も無いか。

 本当の意味で手も足も出ない俺はそのまま──宙を舞った。

 爆炎と白煙をすり抜ける様に、俺は自らの身体に投げ飛ばされたのだ。そして、二つのブレスの激突する爆心地に、俺の身体が立ち尽くしていた。茫然と、まるで全ての役割を終えたかのように、何かを伝えて来た。それは、別れの言葉だったのかもしれないし、恨みごとだったのかもしれ無い。何らかのPASSが繋がっていたのは間違いないが、転生したての俺は、まだそれを明確に捉える事は出来なかった。だが次の瞬間、爆心地で起こった爆発で、それは掻き消されてしまった。


(犠牲になってくれたのか?)


 俺は空を飛びながら、大きな放物線を描きながら、じっと身体があった場所を見ていた。

 そして気がつく。


(……このまま…もしかして……落ちるのか?)


 ここはどう見ても百メートルは舞い上がっているだろう。一応、目指す塔の方向に向かっているのは僥倖だ。が、しかし、既に俺を護るべき身体はきっと爆散している事だろう。永久の別れだね。


「もががががが(うおおおっ!やべえ!激突する!着地も受け身もとれねえ!顔面を痛打する! てか絶対に潰れる!)!!!」


 せっかく身体が身体を張って救ってくれた命がさらに風前の灯火となって、キリモ状態で限りなく死に近付いていた。

 いかん! きっと恨み言を──いや頭が無いから正に死人に口無しだな。いやいや、そんな事では無くて、え、えっと! そ、そうだ! 翼! 何か翼的な何かを!俺は手も足も出ない事を認め、必死に願った。そう、まだ諦めてたまるか!

 その時──口に捩じ込まれた魔石が──光を放ち始める。恐るべき波動が口の中に広がっていくのを俺は感じていた。


(うわっ! は、吐き出したい!)


 しかし、地面が無情にも近付き始めていた。大空が狭まり、大地が大きくそのあざとを広げ、俺の命の灯火を吸い込まんとしたその瞬間──

「うぼおおおおおおおっ!!!」

 ──極限状態の中──俺の中の何かが弾けた。

 弾けて──ボヒュンッ!と言う音がしたその時、俺に羽根が──生えた。

(えっ!)

『えええっ!』

 後頭部から、いや、耳の後ろ側か!? 今更何処が後ろか前かなどどうでもいい。間違い無いのは、その羽根は片翼一メートルはあろうか? まるでコウモリの羽根の様に広がるそれは、間違い無く大気を掴み、俺に風にのる事を許容している様だった。


(飛べる!? 飛べるのか!)


 俺は爆風を追い風に、その翼を広げ、必死に羽ばたく。

(乾坤一擲の勝負! 皇国の興廃この一戦に有りますから!)

 そして、俺は塔へ向かって一気に距離を詰める。残りは五百メートルを切っている筈だ。彼処に逃げ込めれば……


『うわっ!気持ち悪いです!』

(ほっとけっ! そもそもお前らの所為だろう──)

 無神経なエレクトラに突っ込み返しそうになったその瞬間──ドスンッ! と何かが俺の後頭部を直撃した。

「ふぐっ(いてぇえ!)」

 頭にめり込んだそれは


(俺のバッグだ!)


 まさか俺の身体が、投げてくれたのか?


「…………」

『何ていう自己犠牲の精神! 涙が溢れては落ちますよ~』

「…………」

『てか、聞いてます? ちゃんとお礼を──あれ? もしもし? て、気絶してるの?』

「…………」

『きゃああああっ! 起きて! 起きて下さい! まだ塔までは結構あるんですから!』

 そして俺は自分の身体から味方撃ちを喰らい、絶賛墜落をし始めた。意識を無くした翼はその捉えていた風を手放し、俺はそのまま重力に引かれていった。

『起きてっ! まだ竜も諦めて無いんですよ!』

 その言葉通り、魔石を感知したかの様に、二匹は俺の方向を的確に捉えていた。ジッとその獰猛な視線を向けて来る。

『目を覚まさんかーい! [ライトニングボルト]!』

 雷撃が俺を、至近距離から直撃した。

 バリンッ!!!

「うごおおおおおっ! な、何だ!」

『あっ! 魔石が!』

「えっ、魔石って!? え? 落ちてるの!」

 俺はキラキラと落ちていく俺の魔石を視認した。そして俺に直撃したバッグも合わせて落ちていく。

 その時──背後から再びあの硫黄の臭いがした。熱風が迫るのが分かった。それはつまり──


「あっちいいいいっ!」


 巨大な火球がボウッ!と大気を焦がし俺を掠めていく。もしもそのまま飛んでいたら、空中で直撃を喰らい爆散していただろうそれは数千度の炎の塊だった。俺は一気に高度を落とし、竜の追撃を躱すべく低空に舞い降りる。

 そして魔石に飛びつかんと猛然と接近する。

「足が触手的な何かをプリーズッ!」

『何でもありなんだ!』

 ポヒュンッ

 そして

 触手が──生えた。

 六本くらい。

『ホイミン来たっ! しかも羽根つき!』


 だが


 何処から見ても新手の遊星からの物体Xにしか見えないと──俺は思うのだが──神様的にはそれはどうなのよ? も、もっとこう、光の翼とか、魔神的な黒い影とか、こう、あれだよね、主人公的な力ってあると思うんだけどな。

『何言ってるんですか! 空を飛ぶラーミアだって最後のほうじゃないと手に入らないんですよ! 最初の戦闘から空を飛べるなんて、破格の好待遇ですよ!』


 最初の戦闘で正統なる、しかも上位種である竜が、あろう事か二匹なんてどんな無理ゲーだと言いたいところだが。しかも今は逆デュラララ状態、首だけ芳一で真に手も足も出ないのだ。羽根と触手は有るけど。しかも魔石が俺の身体に有ったって事は、俺ってモンスター転生枠って事なんじゃ無いの?

 ハシッと俺は魔石とバックを触手で掴んで、再び空へと舞い上がる。そう、二匹の竜は、まだ諦めてはいないのだ。


「てめてら!少しは手加減せんかい!」


 その時、必死に猛追を躱す俺に、何かが語りかけて来た。


『コッチ~~コッチデスヨ~』


 間の抜けた声が、俺を誘う。


 そして塔まで──あと五百メートル


『ハヤクハヤク~~オマチシテマ~ス』


 俺は塔を──目指していいの?


 だが二匹の竜は情け容赦無く俺に襲いかかって来る。考える暇は──無い。俺は必死で翼を羽ばたかせた。

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