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004 初まりの草原

ここから冒険!

「……草原…なのか?」


 光の奔流がおさまり、周囲に同期したのか、目眩を感じだ後に、俺は大地の感触を再び味わった。

 もしもさっきの話に間違いが無ければ──


「俺は丸腰なの?」


 その丸腰の意味すらわからないが。

 転生っていってたから、赤ちゃんスタートかと思ったが、別段変わった気はしない。少しだけ身体が軽くなった気はするが。

 周囲を見回すと、どうやら此処は、草原の中にある、少しだけ小高い丘のストーンサークルの只中の様だ。ゆっくりと警戒しながら、様子を伺う。

 特に危険な生き物の気配は無い。定番のゲームなら、この辺りはもし出たとしても最弱のモンスターだけの筈だ。ゲームならばだが。


「……某国民ゲームの違法改造バージョンは始まりの宿に最強のカイザードラゴン(皆は改造ドラゴンと呼んでいたが)が何気なく仕込んであったからな」


 そして俺の手には──【ZuWatch】がはめられたていた。いや、嵌められたのか? 明滅を繰り返すその腕輪は、何かを俺に伝えて来るが──今の所全く分からない。


「さて、どうする?」


 俺は、未だ明滅を繰り返している魔法陣からそっと出る。

 どうやらこれが転送円だったのか? ゆっくりとおかしな反応が無い事を確認しながら、俺はストーンサークルの一角、うち倒れた石柱に腰掛け、持ち物の確認をする事にした。とは言えろくなものは無い、筈だ。

 ワンショルダーバックとリュックサックの中に、財布と数枚のお札と小銭、500mlのお茶、昼飯代わりのフルーツバーと、飲むゼリーのレモン味が一つ、アメの入った缶、ヘッドホン、携帯バッテリー、ハンディゲーム機に、ゲームソフト、ライト、ナイフ、オペラグラスか。

 本来ならここで念じると、ステータス画面でも開く筈だが──


「……反応無しか」


 転生小説は結構読んだが、これは楽勝展開チートマシマシとは違う様だ。ハーレム希望だったのだが、これはサバイブ主体なんじゃ無いのか?


「とは言え、このままココにいても埒があかないしな」


 俺は周囲を伺った。

 ここはストーンサークルの真ん中、直径は二十メートル程の円の中、石柱が幾つも立ち並ぶ外周には、石を並べた円が、無数の記号の様なモノと共に古代の遺跡を想わせるが──違うのはそれが打ち捨てられている訳では無い事だ。


「絶賛使用中って感じだ」


 吹き渡る風は心地良いが、そんな場合では無い。

 オペラグラスを取り出し、あちこちを観測してみる。光学ズームとデジタルズーム付きだ。高かったんだから、ココで役に立って貰わねば。周囲を探ると、倒れた塔の様なモノが見える。そしてその周囲には幾つかの建造物が、これも打ち倒されてはいるが、水場の中にある様に見える。


「……行ってみるか?」


 オシリィからは、何ら連絡が無い。待つのも手だが、どうせ始まりの草原だ。時間を無駄にするのは危険かも知れないし、本当にこのままなら、食料も水も一日分しか無いんだからな。

 俺は意を決して、ストーンサークルを後にした。

 ここは始まりの草原、俺は冒険の一歩を踏み出し〈ティロリロリン!〉た。


「へっ!? 何だ今の矩形波は?」


 それは某アクションRPGで何らかのギミックを作動させた時に出る音だった。高らかに頭の中に鳴り響くそれは──決していい事ばかりが起こる訳では──無かった──のだが。


『まだ出ちゃダメです──!』


「この声は──オシリィ?」


『も、もうっ! 何【ZuWatch】起動しないんですかっ!』


 ハッとなり【ZuWatch】を見るとNEWと描かれたアプリが明滅している。慌ててタップすると、入力画面が現れる。マイナンバー入力と──四文字の名前入力だ。


「四文字かよ」


『早く早くっ! 急いで下さい!』


「ま、まってよ、ええっと、何にするかな」


 何を急いでるのか知らないが、オシリィに急かされ、俺はふとある名前を思い出した。


【ゆうてい】


 確かコレで某改造ゲームでは最強スタートだったのだが、まあ、おまじない代わりにな。ポチッと入力し、タップすると【ZuWatch】に場所が表示された。


「……【バビロニアの聖域】…始まりの草原じゃ無いの?」


 そしてアプリが現れた。


【NEW GAME】


 この辺りは開発者たる神の──あの男のセンスなのだろうか? こんなの地球から転生しなきゃ分からんだろうに。【ZuWatch】がイマイチこの世界で受け入れられない理由を垣間見た気がしたその時、もう一つのアプリが現れる。


【つよくてNEW GAME】


 ここは一つ、欲にまみれた俺は──いや、俺だけでは無い──殆どの人がコレを選ぶだろ? だってさっきエレクトラさんが加護を忘れてたとか言ってたし。

 そして俺は、迷う事なく【つよくてNEW GAME】を──タップした。


〈ディロディロディロリッンッ〉


「えっ!?」


 それは某ゲームで呪われたアイテムを装備した時に流れる音だった。


『きゃあああっ! なんでその名前知ってるんですかっ!』


 絶叫するオシリィ。


「オシリィ、転生って言ってたけど、赤ちゃんスタートじゃないのは何でですか? 人生やり直しできるの期待してたのに」


『それはですね、期間の縛りが有るのと、また元の世界に帰還するのに、生まれ変わると魂が固定されるし、帰還する時に一度死んでもう一回元の世界に転生させると、また人生のやり直しになりますからね。だからこの世界では特別な身体に魂を召喚する方法になっているのですよ。だから何の加護が無いと言いつつも、規格外れの能力は既に備わっているんです! ただ、無双展開には心許ないので、改めて新しい加護を上乗せするんです!』


「へぇ~まあ、それなら問題無いのかな? それに聖域なら敵も出ないんでしょ? でもバビロニアの聖域って何処に──」


『てかっそんな場合じゃありません! なんでチートコード【ゆうてい】を知ってるんですか!それは開発者権限の秘密コードなのに!』


「ていうか、これは俺達の世代ならポピュラーなんだけど……そうか、アメリカ出身のアイツは仕事ばかりで知らなかったんだな? 日本の常識を」


 てか四文字で秘密コードって緩くない?

 でもこの慌て様──凄いチートかアイテムでも引いたのか!? それなら願ったり叶ったりだけど。どうせ此処は護られた聖域──モンスターだって浸入出来ないだろうし──聖域? それにさっきの禍々しい矩形波は一体何の?


『確かにそこにはモンスターは浸入出来ませんが、当然聖域を護る──』


 その時、俺の上を影が覆った。ふと足元を見ると──俺は一歩だけ──だが確実に一歩ストーンサークルの魔法陣を──踏み出していた。そして焦げた硫黄の臭いが降りかかって来る。


『──守護獣が居るんですよ──外敵を排除する為の』


 しかも此処は名うてのバビロニアの聖域──俺はそっと上を──見上げた。


「……ドラ…ゴン?」


 頭上には──巨大な竜が羽根をそっとはためかせ恐ろしく静かに浮遊していた。

 そして視線が交錯する。


「グゴオオオオ!オオオオッ!!!」

「うそおおおおおおっ!」


 始まりの草原──では無くバビロニアの聖域に──ドラゴンの咆哮と俺の悲鳴が──響き渡った。

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