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011 二匹の竜の残念

「難儀な事だな」


 俺はバベルの塔の結界の前に立っていた。

 二匹の赤と青の竜は、俺の事をジッと見詰めてくる。愛くるしい瞳──じゃあ無いな。


「さようならオブダとベルダ」

「名前があるのか!」

「僕が付けたんだけどね」

「お前にとっての地獄の番犬だけどな」


 それも今日で最後だ。

 もしくは俺が最後だ。


 薙刀の名前は七星龍刀/ドラッケンと名付けた。八匹目はワイバーンだったらしいので少し訂正だ。だが秘めた能力は凄まじい。

 対竜アビリティであるキラー、スレイヤー、テラーに加えて幾つもの魔法が付与されている。


 一つ目は重量軽減だ。

 本来なら百キロ近い重量を五百グラム近くにまで減少させているのは驚きだ。


 二つ目は最大加重だ。

 今度は逆に打ち合う時などに最大で数トン近い重量をぶつけることが出来る。


 三つ目は魔力発動体だという事だ。

 本来なら杖などに使われる技術なのだが、かなりの量の魔力を溜め込む事も可能になっていて、その魔力を直接相手に叩き込める。昔、FF7にあったルーンアックスの様に、会心の一撃を連発するイメージか。ハードヒット、ノックバック、ブレイクと言った方が分かり易いかもしれない。


「竜の強さは不明だが、結構いけそうだよな」


「それにそのスマートウォッチには完全防水、完全防火が付与されていますから」


 そう、もともとは完全防水が目的だったんだよな。すっかり忘れてたよ。



「……さあ、じゃあ行くか」


 俺は深く息を吸い込み──二匹の竜の待つバビロニアの聖域に──突撃した。


「うりゃああああああああっ!」


 真正面から突っ込む俺に塔の管理者が絶句する。


「二匹の竜に正面から勝負を挑む? 潔いと言うか直情傾向と言うか──無茶だねぇ」


 フル加速して結界に迫る俺に龍はブレスをみまわんと大きく息を吸い込んで待ち構える。そう、数十メートル手前から真っ直ぐに向かって来る目障りなニンゲンは実に滑稽だろう。

 確かに二匹の竜は疑う素振りを見せるが、先程取り逃がした俺を今度は見逃す訳にはいかない。そして俺にとどめとなる一撃にブレスを選択し、待ち構える。


「いぐぜええっ!」

 俺はバビロニア製の肉体の限界に挑んだ。まるで飛ぶ様に周りの風景が過ぎ去るが、ここで反応速度が上がったのかまるでスローモーションの様に全ての動きが遅くなり、大気が頬を掠める熱さが伝わって来た。

(加速装置かよ!)

 そしてそのままの加速度で一気に結界を突破した。そこへ狙い澄ましたかの様に二匹の炎と氷のブレスが襲い掛かる。

「ブフォオオオオッ!!!」

「ビュゴオオオオッ!!!」


「きたぁああつ!」


 俺は風の様に結界を突破し──そのまま二匹に──向かわなかった。

「ZuWatch頼むぜぇ!」

 俺は全開でストップをかけた。足元が煙を上げて地面が抉れていく。だが二匹のブレスは放たれている。最高の射線と機会を逃さぬ様に予測と寸分違わぬタイミングで放たれた炎と氷の奔流を俺はZuWatchで受け止める──振りをしてそのまま結界に逃げ込む。

「あちゃちゃちゃっ! やっぱりあっちっいっ!」

 若干燃えながら結界に転がり込む。炎と氷がこの結界に阻まれるのは当然だし、二匹がこちらに突っ込めないのは確認済みだ!

 燃え盛る身体も一瞬で治癒している。ジュウウウっとまるで動画が逆回転でもする様に元の状態に戻っていくのは中々に見応えがある。


「熱くありませんか?」

「あんた中々に傍観者だな!」

 だがこの隙を逃す訳にはいかない。俺は今度は全力で結界を突破にかかる。炎と氷の爆風が渦巻いているが、直撃弾でさえ無ければどうとでもなる!

「どうでしょうかね?」

 筈だろ?


「いったれやぁあっ!」


 俺はZuWatchを翳し全力で飛び込んでいった。

「あぢいいいいいっ!焼ける焦げる燃えるうっ!」

「でしょ? 半円程しか効果範囲がないですからねぇ」

「次はお前を犠牲にしてやるぞオシリィっ!」

 俺は一気に飛び出し──対竜暴虐兵器──ドラッケンを振り翳した。

「!!!!!」

「!!!!!」


 二匹の顔が青ざめる──かどうかは確認が取れないけれど間違いなくその動きが止まった。その隙を突き、俺は赤い竜に迫る。

 柄の長さ二メートル、一メートルの刃が竜の鱗を切り裂く。

「ウゴオオオオオッ!!!」

 容易く切り裂かれ竜がもんどりを打って後ろに転げていった。庇おうとした腕は半分以上切れて千切れそうになっている。だがここで手は緩めない。今度は下から上に、首を切り裂きにかかる。使えない手を必死に振り回し食い止めようとする竜の首を──跳ね落とした。

 ポトリと落ちる首

 それを見た青い竜が怒りの咆哮を上げ襲い掛かって来た。

 俺はその尻尾の一撃をほんの少し身体をズラし最低限の挙動で反撃に移る。尻尾での攻撃は破壊力と間合いは取れるが隙が大き過ぎるのが欠点だ。

 俺はザックリと尻尾を両断する。

 どう考えても刃が届いて無い所もザックリと切れている。恐るべしドラゴンスレイヤーの呪いだ。

「フゴオオオオオッ!」

 その声はどこが悲し気だった。

 もしも守護獣で無ければ逃げる事も出来たのだろうが、それは決して出来ない。死ぬ迄戦う宿命にある青い竜に、俺はドラッケンを振るい──その首を刎ねた。


「さらばベルダ……いやオブダだったかな?」


 首を後ろから刎ねられ──一瞬だけその巨躯が跳ねたが──そのまま崩れ落ちた。


「瞬殺かよ!?」


 ドラッケンは更に竜の血を吸い、その力を増していく様に妖しく刃紋が輝き始めていた。

 てか、ドラッケンが無かったらここで詰んで(ZAPして)たんだけどな。運が──いやこれは謀だな。


「お~~い、早くアイテムストレージに収納して戻って来てよ~~」


 そういや何かドロップアイテムとか言ってたな。

 俺は手を当て、収納と念じるとスルリと呑み込んでいった。


「このデカイの一呑みかよ!」


 更に残りの一匹を収納し、俺は再びバベルの塔へ引き返した。何かくれるんだよね?



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「暫くまってね」


 塔の管理者にそう言われ、俺はバベルの塔前で暫し休息を取る事にした。

 アイテムストレージから竜を塔の管理者に渡したのだが、同期するだけとは驚きだが、手間は無いから助かる。大きさは象の五倍くらいはあるだろうか?

 十トン位は有りそうだ。


「竜は捨てる所がありませんからね」


 アイテムストレージを弄ってみると解体のボタンが出てるのに気が付く。

 どうやら自動的に分解してアイテムにしてくれる様だ。内訳を見ると、要は肉、鱗、爪、牙、目玉、羽根、内臓、骨に分かれるらしい。


「ロト7のキャリーオーバー八億円位はありますね。ただ一気に出すと市場を壊しますし、少しづつ小出しにしてて値段を吊り上げるのがよろしいでしょうね」


 エレクトラさん中々に博識だな。

 危険を避けて知恵袋的ポジションを狙っている気がするのは気の所為か?


 因みに肉はドラゴンステーキ、目は竜眼、竜鱗、竜牙、竜爪、竜骨、内臓類は漢方薬扱いで、当然魔石も特大が二個あった。

 これはどう考えてもひと財産出来たよな? このまま異世界お金持ちライフも可能なんじゃ無いかね?


 小一時間ほどエレクトラさんと駄弁っていると、鼻歌交じりに塔の管理者が現れた。その手には黒地に赤と緑の布が配色され、金地の刺繍が施されている。ローブってヤツだなこれは。


「赤竜と青竜の鱗を二層に貼り合わせ、それを核にして両面を皮で覆ったんだ。その上に竜の血で染めた糸で縫い上げた布を合わせた。ボタンは竜骨製だからね!」


 これはまたゴージャスだけど、これから竜につけ狙われてしまいそうだ。かえってヤバイんじゃないか?


「その都度ドラッケンで捌いちゃえば?」

「ごもっともです」


 なるほど、俺はゲーム開始直後にこの世界最強のモンスターハンターになったのか。

 ドラゴン限定だけど。

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