010 僕を食べた僕
「うおおおおおっ! も、もっと優しく食べて下さ────いっ!」
俺は跳ね起きる様に目を覚ました。どんな臨死体験だよ! まさか食べられるとわ……おのれ神め!決して許さん! 必ずや生還してやるからな!
「だがここは? 一体何処なんだ?」
俺はどうやら病室の様な場所にいる様だ。まさか交通事故から目が覚めて全部夢だったとかじゃ無いだろな? いや、その方が良いかな。
そして目の前の鏡を見ると、そこには、さっき俺を捕食した人型のクリオネがジッと俺を見詰めていた。
「お腹いっぱいになったか?」
よく見ると結構な美少年だな。ホルマリンに漬けられていたような水槽の中にいた時よりも生き生きとして見える。どうやら俺はかなりの栄養価だったようだ。頭だけだったのだが、蟹味噌も美味いから脳味噌も中々に美味かったのだろうと推察すると──頭の中に俺の味が蘇って来る。徐々に記憶が融合していってるみたいだ。
「うげええっ! うはっ! な、生臭い!」
すまない。
俺の味は最悪だった。だから殆ど噛まずに飲み込んだのだろうか。微妙にがっかりだな。
「……なに呑気な事を」
振り返ると塔の管理者が呆れ顔で俺を見たいる。俺を生贄にした張本人ではあるが、その力はこバベルの塔を管理してるのだから、俺のかなう相手では無いのが道理だ。勘弁してやるから有難く思ってね。てか本当に勘弁して下さい。
グウウウッ
あれ? お腹が空いたぞ? 俺を食べたばかりなのに? 一体誰を食べればいいん──違う違うっ!何気に食人属性がつきかけてるじゃ無いか!
「来て……渡すモノがあるから」
そう言って塔の管理者は俺を誘う。
「……この身体以外にもあるのか」
「だってつよくてNEW GAMEだからね」
そういやそんなアプリをtapしたな。
塔の管理者には一抹の不安を覚えるのだが。
まあ、何かに食べられそうになったら一目散に逃げ出そう。俺はそう心に誓い、後を追った。やっぱり人間は足で歩くのが一番だな。触手は邪道だよ。
人間は考える足であるとは古代のギリシアの人々はよく分かってるよね。
「因みにそれは足では無く葦ですから」
俺を見捨てたエレクトラさんが部屋の外で待っていた。ペタペタと裸足で歩く俺の後ろからハイヒールの音を響かせて女王様っぽく現れた。
「外で二匹の竜がお待ちかねです」
やっぱりそっちから帰るのか。
ここ封印されてるんだからな。やっぱりそうなるんだな。
「……だが勝てそうな気がしないんだけど」
「──任せて」
そう塔の管理者が大きな扉を開け、俺を呼ぶ。
「君はこのバビロニアの遺産を引き継ぐんだよ? 任せて欲しいな」
塔の管理者は、そう言って妖し気に俺を手招きする。そう、それ以外に、道は無い。
俺はその大きな扉を──運命を賭けくぐった。
その部屋の中には、大きな机と魔法円があった。出来ればこれで何処かの静かな草原にでも送って欲しいが、此処には気の利いたテレポ屋はいないらしい。お帰りは徒歩、しかも赤と青の竜がお待ちかねだ。
「さあ、コレを渡すよ」
大きな机の上には六つのアイテムが置かれている。
・スマートウォッチ
・スマートフォン
・スマートグラス
この三つは俺が持ち込んだヤツだ。
いや、スマートグラスは無かったな。
二つは俺が持っていたリュックサックとワンショルダーバック──では無い。
・ハードシェルバックパック
バビロニア製
中にはスマートギアが満載
魔法障壁を発生させる事が出来る。
ゴーレムの一種であり、最大八本のアームを展開出来る。
・ハードシェルワンショルダーバック
バビロニア製
中には簡易アイテムボックスが仕込んである。ウェポン満載の厨二病仕様
開けてみてのお楽しみ。
「君の持って来たアイテムを少し改造しただけだから安心してね」
どう考えても安心出来ない。
変なモノを押し込まれてんじゃ無いだろうな?
「ではこちらに」
俺は次の部屋に通される。
その部屋には机の上に三つのアイテムが置かれている。
四角い金属、液体の入った瓶、卵。
「……てか、卵? それに瓶?」
「それはゴーレム、ホムンクルス、キメラさ! バビロニアお馴染みの三体の下僕だよ」
だが大きさは手の平サイズしかない。
「この中で起動すると持ち出さなくなるから、アイテムストレージに入れておいてね。それらはまだ生物では無く物質だからね」
なるほど、よくあるアイテムボックスの縛りに、バビロニアの封印が関係してるのか。
言われるままに、俺はスマートウォッチのアイテムストレージに収納する。
「詳しくはエレクトラに聞くと良いよ」
そしてさらに次の部屋に通される。
てか何部屋あるんだ?
しかも縦に数珠繋ぎってどんなんだよ。
「さあ、どれにする?」
そこには幾つもの武器が並んでいる。
やはり目につくのは日本のヤツだ。てか、ここは古代バビロニアだよな? あの男がメタ情報を持ち込んだのか?
目に付いたのはいわゆる日本刀だ。
そり浅く切っ先諸刃の小烏作り──てヤツか?
黒い刀身と波打つ刃紋がまるで生き物の様だ。長さはやや短いと思う。忍者刀に近いんじゃ無いのか?
そしてさらに目につくのはその奥に並べる様に立てかけてある、これは──
「薙刀なのか?」
「ご名答! これは何と、同じモンスターを倒せば倒す程にその力を吸収し、そのモンスターに対する攻撃力やクリティカル発生率を倍増させる、成長する神代の武具なんだけど、残念ながらまだ一種類しか倒せて無いんだけどね」
まさかとは思うが、一応聞いてみよう。
「その一種類のモンスターとはまさか──竜?」
塔の管理者はニヤリと笑った。
「どうして分かったの?」
「自作自演のヤラセ疑惑だ!」
「だって何千年も目の前にいるんだよ! そりゃ対策くらいは練るよね!何せバビロニアだよ!」
どうやら、八匹ほどの竜が餌食になっているらしい。
・ドラゴンスレイヤー
竜族に対する攻撃力が倍増する。
・ドラゴンテラー
竜族を恐れさせその能力を著しく減衰させる。
・ドラゴンキラー
竜族に対するクリティカル発生率が激増する。
その保有するスキルに思わず絶句する。
「うん、赤と青の竜には御冥福を祈るしかないな」
そして俺は、凶々しい竜殺しの薙刀を携え、この聖域を守護する赤と青の竜を屠るべく、モンスターハントに挑む事になったのだ。
塔の管理者曰く
「ドロップアイテムには期待してよね!」
そしてまだ何か用意しているらしい。てか、一体何を準備しているのか、気になって仕方が無いが、先ずは二匹の竜だ。