序
聖堂へ続く渡り廊下を、祭服を纏った一団が進んでいく。
夜明けの近い空は紫色に染まっている。
一団の中、ナリアは空が鮮やかになるのと比例して、自身の緊張が高まるのを感じていた。
儀礼用の、着慣れない白い服は冷え冷えとした着心地だった。明け方の空気が風となって廊下を吹き抜けると、肩が一瞬窄まる。
渡り廊下を進む一団はナリアも含めて七人構成。全て女性で、年齢層はナリアと同じ二十代半ばから前後に五歳ほどの幅がある。一団は一列となっており、ナリアは列の四番目、中央の位置で歩みを進めている。また列となった一団の先頭と最後尾の者の祭服は黒く、その二人に前後を挟まれたナリアらは白い祭服だった。
誰一人として口を開かずに歩みを進め、やがて一団は目的の聖堂へ辿り着く。
聖堂の扉はナリア達を迎えんとばかりに外側へ開け放たれている。だが一方で中は人を拒絶するかのように暗く、外から様子を窺うことはできない。
一団の歩みは緩むことなく、飲み込まれるようにその暗闇へ進んでいった。
そして暗き聖堂に光が灯る。
それは待望の瞬間だった。けれどそれを迎え入れる人々にあったのは、驚愕と歓喜だけではなかった。
約束された繁栄。聖堂を満たしていく金色の輝きに、荒れた大地に麦穂揺れる畑が広がる光景を幻視する。
静寂はとうに破れ、密やかに語る声が幾重にも重なっていく。歓喜の声だけではない。そこには落胆や困惑を帯びた声も混ざっている。
ナリアは碑の前で跪いたまま、動くことができなかった。胸の前で組んでいた手に力が籠もる。光の方を見ることも、閉じた目を開けることすらもできずにいた。
祈りは顕在化した。
それでもナリアは祈り続けていた。