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2 もうすぐ彼がここにやってくる

8年が経過した。

このように、過ぎた月日を覚えることは初めてだ。

あの勇者が生まれたと聞いた日から

自分の中で何かが変わったようだ。


勇者の捜索は思うように進まない。

なんらかの<加護>というモノが働いているようで

勇者が生まれたことは分かるが、それが何処か、全く分からなかった。

その<加護>とやらが一体何なのか、誰も知らない。

どうしようもないものであることは確からしいし

私も気にしたことはない。


思うような成果を告げられない魔族達を

私は一振りで消していった。



そうして2年後

魔族達は、ようやく勇者の村をみつけた。

しかし、村は滅ぼしたものの

勇者だと思ってさんざん痛めつけて殺した子供は

どうやら勇者の姉であったらしい。


震えながら報告した捜索責任者を、一振りで消した後

私は、王座の横にある、遠見の水盤に手を翳した。

そんなものが、王座の近くにあることを、この時はじめて思い出した。


すると水面に、

未だ火が燻り、食い散らした死体がゴロゴロ転がっている、

元は村であったであろう焼け野原の中

一人の少年が背をまるめて座っている姿が映し出された。


その瞬間、私の体の中の何かがふるえた。

彼が勇者であることを唐突に理解した。


彼はおそらく彼の姉であろう、ぼろぼろの死体を腕に抱きながら

うつろな目で涙を流していた。

私はただ、そんな彼を見つめていた。




王座横の遠見の水盤で彼を見ることが、私の日課になった。

彼を見ている前は、王座に座って何をしていたか思い出せないが

恐らく何もしていなかったのだろう。





勇者は、日々成長していった。

彼は村で呆然と座り込んでいるところを、旅の剣士であろう男に拾われ

彼に剣を学びながら、旅人として生きていった。


何度も魔族が勇者達を襲ったが

その旅の剣士は腕が立ち、

多くの配下の者が、彼の剣の錆になった。

勇者が成長すれば、剣士と同等、そしてそれ以上に強くなっていき

剣士と一緒に、次々と襲いかかる魔物を、それは楽しそうに切り捨てていった。


そんな彼を私は、毎日水盤から見つめ続けた。

そしてそんな私を、ロキが傍らで見つめていた。

特段気にならなかったが

ふと思い立ち、お前は勇者の元へは行かないのか?と訪ねると

一瞬目を見張った後、その場で跪き

「私の役目は、近くで魔王様を守ることです。」と言った。


そうか と私は、再び水盤に目を落とした。




勇者の村を滅ぼしてから、10年の月日が流れた。

勇者の保護者であった旅の剣士は引退し

かれは一人で旅をしていた。

勇者は、世界中を旅し、襲いくる魔物を倒し歩いた。

時折剣士の元を訪れては、旅の報告をして日々を過ごしていた。


彼は逞しく、美しく成長した。


彼の持つ輝く金髪と海のように深い青い瞳は多くの者を魅了し

多くの魔族を切り捨て、多くの魔法を操り、人々を救っていく勇者を

人間達は崇め、讃え、賞賛し、ついに魔王を滅ぼしてくれる勇者が現れた と期待した。


もはや、魔族で彼にかなうものはいないだろう。

私以外。


その後、勇者はついに唯一私を死に至らせる聖剣を手に入れた。

なぜそんなモノがあるかは知らないが、随分前に女神とやらが生み出した剣らしく

この剣が私を唯一傷つけることが出来るらしい。

何をやっても壊すことの出来ないその聖剣を

魔族の中でも、ロキに次ぐ力を持ったものが、封印し、守っていたが

死闘の末、その魔族は死に、勇者は聖剣を手に入れた。

私はそれを水盤から黙って見ていた。


聖剣を手に入れた勇者に私は敵うまい。

しかし、彼が聖剣を持とうが持つまいが、関係ないだろう。

なぜなら、彼に刃を向ける気が全く起きないのだ。




聖剣を手に入れた勇者は、とうとう北の大地にある、

私の城ーー魔王城に足を踏み入れた。

特に命令はしてないが、魔族が次々と彼を襲った。

勇者は鍛え上げたその腕で、次々と魔族を切り捨てていった。


そうして確実に私の元へ向かってくる彼を遠見の水器で見ながら、傍らのロキに目を向けた。

「彼にはお前でも敵わないだろう。下がってよい。」

彼に敵わないのであれば、ここに居る必要はないだろう と

するとロキは、いつものようにその場で跪き、

「魔王様を最後までお守りすることが、私の役目です。」

と、いつもと同じように静かに言った。


「そうか。」


私もいつもと同じように返事をした。



もうすぐ彼がここにやってくる。


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