三話
「はぁ結構集中したんじゃねぇ?」
というTのつぶやきで、みんなの意識がつい緩んでしまう。まったくTがいるとあまり捗らないな。けれどもこういう日もあるだろう、と思うほどには私も気がのらなかった。
「俺さ―。」
Tがちらっとある高校生のグループをみて言う。
「U高狙いなんだよね。」
ぶっ一気に噴出したY。そして驚きのK子と私。そんな馬鹿な…。
「おいT!U高ってこの辺の学校で一番頭いいんだぞ?うちの学校じゃ10位には入ってないといけないだろうな。」
「別にいいだろー。夢は大きくってやつ?俺たちまだ2年なんだし、時間はまだあるだろー。」
「時間はあっても、それを有効に使えなければ意味がないと思うけど。」
どこまでも冷徹なK子。けどまぁ私も同意だ。
「お前ら笑うけど、じゃあYとかS子はどこに行きたいんだよ?」
「んー。まぁ自分がいける範囲で一番ましな進学校?」
「俺もS子と同じかなぁ。そりゃU高狙いたいのは山々だけど、I高ぐらいが現実的だとは思ってる。」
「私はR高。」
「え?K子R高って・・・」
「私、看護師の資格取りたいから。」
「そうかーK子は看護師になりたかったんだ。」
思わぬところで明かされる友人の新事実だ。なまじ仲がいいと思っていただけに、驚く。
「S子親友の夢ぐらい聞いとけよな。」
K子の方では、単に良くしゃべる人という程度の認識だったのかもしれないが…。
「ともかく、行ける範囲で一番ましってなるとU高目指してるのとお前らも変わらないだろー?」
「いや、さすがにU高は無理だと思ってるよ。」
「S子に同じく。」
「まったく、夢も希望もない奴らだなー」
かといってあまりに現実ばなれした夢をもつのもいかがなものかと思うが。
「夢に見合った努力ができればね・・・」
K子…なんだか、K子には看護師よりも向いた仕事がありそうだと、おそらくこの場の3人が同時に思ったような気がするのだが、それを口に出すほどTも馬鹿ではなかった。
まだ6時前か…。ちらっと時計をみると、まだ家に帰るのには早いような半端な時間だった。
「けど、それにしたって、S子たちは熱心に勉強するよなぁ。」
Tはもうすっかりやる気がないようだから、場所を変える方がいいかもしれない。
「はぁ、今日はあんまり捗らなかったけどな。家じゃ勉強したくないから、外で済ませておきたいだけだよ。けど…今日はもうファミレスでも行く?」
「行く―!!!!!」
Tのやたらと元気な返事に脱力しつつ、近所のファミレスの隅の席に場所を移動。