フェニックス
「やっとやる気になってくれたか、漆黒の翼。」
「ああ、いいぜ、やってやる。」
黒マントとポンチは向かい合い、睨み合う。
そして、次の瞬間、黒マントは魔法を放っていた。
また、周囲を巻き込む爆発の魔法、その規模はポンチを含め、紗江子すら飲み込むものだったはずだった。
「?」
黒マントはたじろいだ、後ろの女はおろか、漆黒の翼にも傷一つ付いていなかった。
だが、黒マントが驚愕したのはそこではない。
「な、何だその黒い翼は?」
ポンチの体から現出した黒い翼、それが黒マントの放った爆風を防いでいた。
ただし、その翼は、背中からではなく、股間から生えていた。
「なんで股間だあああああ!!」
すかさず紗江子の突込みが響き渡る。
「これが俺の絶対防御魔法、漆黒の翼、最も俺が守りたい者を守護する防壁。」
「つまりあれか?おまえはこの状況でどうしても、自分の股間だけは守りたかったてことか?」
紗江子の言葉は無視して、ポンチは黒マントを挑発した。
「おい、早く来いよ、俺の翼が錆び付いちまう。」
「く、くっそおおおおおおお!」
黒マントは渾身の力で、もう一度爆風を放った。
だが、やはり漆黒の翼に防がれる。
そして、漆黒の翼の色が変色したのに気付いた。
黒から赤色へ、何枚かの羽が変色している。
「なんだそれは?なぜ色が変って。」
「ああ、言うのを忘れてたな、この翼は敵から受けた魔法攻撃の衝撃を溜めておけるんだ。つまり、どういうことだかはわかるよな。」
黒マントが慌てて逃げようとしたころにはもう遅かった。
赤く変色した翼が黒マントの体を目掛けて発射される。
「ぐわあああああああ!」
決着は付いた。叫び声と共に黒マントが地面に倒れ伏す。
「とどめは刺さないぜ、またな。」
身を翻して、去ろうとするポンチを、かろうじて意識のあった黒マントは呼び止めた。
「何故、それほどの力を持ちながら、フェニックスを目指さない。童貞を卒業したからなんだと言うんだ。この力の素晴らしさに比べたらそんなもの。」
「・・・、フェニックスってなんだ?」
ポンチは問い返した。
「・・・魔法を極めた者がたどり着けると言う境地、フェニックスに転生したものは一世紀の間、覇者になれるという。我等魔法使いの憧れだ。」
「ふーん。」
ポンチは大して興味も無さそうに鼻を鳴らすと、黒マントをそのままに、紗江子の方へ歩いていった。
「怪我はないか?紗江子。」
妙にカッコいい声でそういったポンチの顔に強烈な蹴りが叩き込まれた。
「お、おまえ助けてやったのに、それは無いんじゃないの?」
顔を押さえて猛抗議するポンチ。
「うるせー、もとはと言えばお前が私を巻き込むからいけねーんだろうが!」
「いやーこうなるとは思ってもいなくてさ。」
「予想しとけ、このバカ。」
二人の言い争いはしばらく続き、いい加減つかれた二人は、自宅へと帰っていった。(黒マントはいつの間にかいなくなっていたので、魔法でも使ってどこかへ逃げたのだろう。)