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僕が助けた太郎

むかしむかし、あるところに、太郎という若者がおりました。


太郎は、とても貧しく、容姿にも恵まれない男でした。


女の子に好かれたこともありません。


それでも太郎は、いつか美しい女の子と恋をして、幸せな結婚をしたいと思っていました。


そんなある日のことです。


太郎が町を歩いていると、路地裏から女の子の悲鳴が聞こえてきました。


「誰か! 助けて!」


太郎が駆けつけると、美しい令嬢が暴漢に襲われていました。


「おい! その子から離れろ!」


太郎は勇気を振り絞り、暴漢に立ち向かいました。


しかし、太郎は強くありません。


何度も殴られ、蹴られ、身体中に傷を負いました。


それでも必死に戦い、とうとう暴漢を追い払いました。


「だ、大丈夫ですか?」


太郎は血だらけになりながら、令嬢に声をかけました。


令嬢は服についた埃を払いながら答えました。


「ありがと」


そして、そのまま立ち去ってしまいました。


太郎は呆然としました。


『えっ? それだけ?』


令嬢は振り返りもしません。


太郎は、だんだん腹が立ってきました。


『僕は命を懸けて君を助けたんだぞ!』


『どうして、あの子はちゃんと感謝しないんだ!』


『だって、救われたんだぞ? 普通は僕を好きになるだろう?』


太郎は、町の人々に不満を言って回りました。



◇ ◇ ◇



やがて、その噂は令嬢の耳にも届きました。


「先日お嬢様をお助けした男が、お嬢様の悪口を言いふらしているそうです」


令嬢は困惑しました。


「ええっ? どうして?」


「命懸けで助けたのだから、もっと感謝してほしいそうです。

それに、お嬢様が自分を好きにならないことにも腹を立てているとか」


令嬢は首をかしげました。


「ちゃんと、ありがとって言ってあげたのに……」


そして、不思議そうに言いました。


「だって、私は美人だし、いつもみんなが助けてくれるから」


「そうでございますね」


「いちいち助けられたくらいで、相手を好きになんてならないわ」


令嬢にとって、誰かに助けてもらうことは珍しいことではありませんでした。


困ったことがあれば、父親が助けてくれます。


重い荷物があれば、使用人が運んでくれます。


道で困っていれば、親切な男性が声をかけてくれます。


令嬢は、たくさんの人に助けられて暮らしていたのです。


しかし、太郎にとっては違いました。


誰からも見向きされず、手を差し伸べられたことのない太郎にとって「助ける」とはとても重い意味を持った行いだったのです。


太郎は、その後も世間に向けて令嬢への不満を訴え続けました。


「僕が助けた!」


令嬢は、だんだん太郎が怖くなり父親に相談しました。


父親はさっそく役人に命じ、太郎を町から追放してしまいました。



◇ ◇ ◇



町を追い出された太郎は、びっくりしました。


そして、ひどく怒りました。


『なんて恩知らずな女なんだ!』


『助けてもらったくせに、感謝しないどころか、僕を追放するなんて!』


太郎は、しばらく怒り続けました。


けれども、やがて気を取り直しました。


『まあ、いい。たまたまあの女が酷い人間だったんだ』


『世の中には、もっと心の優しい女の子がいるはずだ』


そして、太郎は一つの決心をしました。


『命を懸けて女の子を助け続ければ、僕を好きになる女の子も現れるだろう』


こうして太郎は、女の子を助ける旅に出ました。



◇ ◇ ◇



太郎は、寝食も忘れて女の子を助け続けました。


魔物に襲われている女の子がいれば、飛び込んで助けました。


川で溺れている女の子がいれば、危険を顧みずに飛び込みました。


道に迷っている女の子がいれば、自分の仕事を放り出して案内しました。


「ありがと」


「助かったわ」


「親切な人ね」


女の子たちは、お礼を言ってくれました。


しかし、誰も太郎を好きにはなりませんでした。


太郎は不思議に思いました。


『おかしいなぁ。

僕は、こんなにたくさんの女の子を助けているのに』


それでも太郎は諦めません。


『まだ足りないんだ。

もっとたくさん助ければ、きっと僕を好きになってくれる子が現れるはずだ』


太郎は、ますます必死になりました。


お金を稼ぐ時間も惜しんで、女の子を助けました。


食事をする時間も惜しんで、女の子を助けました。


眠る時間も惜しんで、女の子を助けました。


太郎の服は、すっかりぼろぼろになりました。


身体には、たくさんの傷が残りました。


けれども、太郎は気にしませんでした。


『僕は、こんなに頑張っているんだ』


『いつかきっと、誰かが僕を好きになってくれる』


そう信じていたからです。



◇ ◇ ◇



ところが、無理を重ねた太郎は、とうとう重い病気になってしまいました。


病床の太郎はかつて自分が助け女の子達が結婚をしている噂を聞きます。


「どうしてあの子達は他の男なんかと結婚するんだ!

僕が助けてあげたのに!」


病床で太郎は不満を叫びますが、その声は誰にも届きません。

そして病気の太郎を助けるものは特にいませんでした。


「僕が助けた!」


最期にそう叫ぶと太郎は血を吐いて死んでしまいました。



◇ ◇ ◇



太郎が助けたいと思うような美しい女の子たちは、ほかの男の人たちからも助けられていました。


ですから、太郎に助けられたことだけで、太郎を好きになることはありませんでした。


また、太郎が醜く貧しい男を救おうとしなかったように、皆も太郎を救おうとしなかったのです。


太郎が本当に救うべきだったのは、まず自分自身だったのではないでしょうか?


おしまい。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



本作を見つけて下さってありがとうございます。

小西にこ(蒼き流星ボトムズ)と申します。


色々なジャンルに手を出すのが好きで、今回は童話に挑戦してみました。

多くの作品が連載途中にも関わらず申し訳御座いません。


この場を借りて作品進捗を報告します。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



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