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異世界大戦 チート魔力量で、兵器を操り無双する  作者: 針時計
序章

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7/20

第六話

 丑松での会食から4日が経過していた。涼の部屋にはもともと小さな机と、寝具しかなかったが、魔力で動いているというテレビが設置された。 

 これは、この世界についてまだ知らないことの多い、涼の知見を広めるために、近衛が気を利かせたものだった。純和風の部屋には少し違和感があるが、涼の無聊を慰めるにはもってこいだった。

 番組も涼のいた世界と、ほとんど変わらない。今は夕方だからか、ニュース番組が多い。

 庭の水が流れる音を、テレビの音がかき消す。


 「皇国の人口に対し、魔力発散障害を持つ人が占める割合が、初めて10%を超えました。それに伴い、来年度の政府の給付金予算も過去最大となる予想です。」


 数日テレビを観ているが、まだまだ分からないことも多い。後で近衛や佐藤に聞くのが涼の日課である。


 「次のニュースです。毎年恒例の、陸軍士官学校と海軍士官学校の生徒達による、魔道具足による個人トーナメント、および大規模演習が行われました。将来の皇国の国防を担う……」


 画面には、2,3メートルの上背のある黒い甲冑のようなものが、縦横無尽に空を駆け巡っていた。頭部は中華鍋をひっくり返したような形状をしており、赤く光る1つ目が印象的だった。

 涼はパワードスーツのようなものだと解釈し、テレビしばらく眺めていた。この魔導具足の話題が終わっても、妙に頭に残った。

 子供心にその無骨で勇猛な外観に惹かれたというのもあったか、出自を隠さなければならないという自らの立場からすると、縦横無尽に駆け巡る姿に憧憬を抱いたか。

 

 「士官学校か……。」


 なかなか近衛に返事ができていなかったことを思い出す。まだよく分からない世界で、将来のことを即決するのはなかなか難しかった。


 「気楽に生きろ。今はそういう時代になったんだから。」


 亡き祖父の言葉を思い出す。魔導具足に乗ってみたいからという理由で士官学校に行くのも良いかもしれない。そう涼は思い始めていた。

 このまま異世界で生きていくなら、気楽にやりたいことを思いつきでやってもいいかもしれない。

 投げやりな思考と、若さ故の短慮ではあったかもしれないが、涼はそう考えた。


 涼は仕事から帰ってきた近衛を廊下で捕まえ、魔導具足の話と士官学校への入学の話をすると、これまでにないほど(それほど長い付き合いではないが)驚いた様子だった。。

 怪訝そうな涼に対して、心変わりがないうちに決めてしまおうと思ったのか、珍しく早口で返事をした。

 

 「それだったら士官学校の受験に向けて、家庭教師を手配しよう。教材、その他必要なものは揃える。なにか必要なものがあったら、なんでも言ってくれ。君なら魔力量も人並み外れて多いし、優秀な魔導具足乗りになれるよ。」


 なんとも近衛の機嫌がよい。相変わらず怪訝に思うが、渡りに船ではある。数日内に家庭教師を紹介すると近衛は約するのだった。


 近衛の邸宅には一つ離れがあった。20坪ほどの広さで、白い漆喰の壁を持つ、直方体の建物だった。この邸宅には珍しく、建築されてから月日はそうたっていないようだ。

 南向きに大きなガラスが嵌め込まれ、中の様子をうかがうことができる。 

 大きな黒板と、6人ほどがかけられそうな机が置かれていた。部屋の隅には本が乱雑に積み重ねられている。


 涼はこの離れで近衛の手配した家庭教師を待っていた。ノックが3回され、滑らかに扉が開かれる。

 扉から顔をのぞかせたのは、よく見知った顔であった。どうやら、家庭教師は佐藤のようだ。

 驚きと、謎の安心感を感じて、涼が固まっていると、涼が佐藤の実力を疑っていると思ったのか、少し慌てた様子で切り出す。


 「これでも私は、士官学校を次席で卒業しているんです。恩賜の銀杖もいただいたんですよ。」


 陸軍の秘匿された計画に携わり、近衛からの信頼も厚い佐藤の実力を、涼は露ほども疑っていなかったが、佐藤の様子には自然と笑みがこぼれた。


 「疑ってなんていませんよ。佐藤さんが家庭教師で良かったと思ってます。」


 涼は率直にそう伝えると、佐藤は喜色を浮かべた。どうやら、佐藤が涼を気に入っているのは疑いようがない。


 「では早速ですが、今日は導入として、陸軍士官学校の成り立ちと、陸海軍の組織について解説します。」


 佐藤の説明に、涼は耳を傾けるのであった。

 佐藤の説明を端的に言えば、内閣の下部に陸海軍が置かれ、陸海軍が半数ずつ人数を出し合って、魔導具足隊を構成しているということだった。

 涼が魔導具足隊に興味があることを聞いたのだろうか、魔導具足隊についての説明は特に詳しかった。


 「魔力値が10000mpより多く、その他適性があるものを陸海軍の長官が魔導具足隊に推薦することになっています。涼君の魔力値は350000mpはくだりませんから、士官学校で訓練を積めば入隊は夢ではないと思いますよ。」


 涼は聞き慣れない魔力値という言葉に説明を求める。


 「魔力値とは、人の体内において活用できる魔力量で、成人で平均4000mp程度です。訓練によって増減はしますが、先天的なものが多いようです。涼君が並外れて多いのは、別の世界の環境によるものらしいです。登戸博士の受け売りですが。」


ともあれ、魔力量の多い涼は有利であるらしい。この年で才能があると言われて喜ばない人は居ないだろう。嬉しさと誇らしさが滲み出る涼に、佐藤は釘を刺す。


 「涼君の魔力値ははっきり言って、異常なレベルです。陸軍の秘匿事項でもありますから、できるだけ人に知られないようにしてください。魔力値測定の際には必ずこのネックレスをつけておいてください。」


 差し出されたネックレスは一見細い鎖にしか見えない無骨なものだった。自らの才能を隠すというのは15歳の涼にとっては面白くないものだった。

 その様子を見て取ったのか、佐藤が続ける。


 「そのネックレスをつけると25000mpほどに検出されます。それでもかなり多い方だと思いますよ。私も少将も20000mpには達していませんから。」


 そう笑った佐藤を見て、涼は自らの幼さを自覚し、少し赤面するのだった。

 鹿威しが小気味よい音を響かせる。

 庭の松は、夏の陽光を受け、どこか伸び伸びとしていた。


 このような具合で佐藤による講義は士官学校の受験まで、約半年間続くことになる。



 


 


 




早く入学してほしい…

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