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月を詠む  作者: 都合
9/43

翌朝

「おはようございます、花嫁様」


昨日と同じ時間にツツジは姿を現した。背中にはトレーを乗せており、朝食を運んできてくれたのだろう。


「おはよう、ツツジ」


挨拶を返して、テーブルに向かうツツジについていく。朝食をテーブルに置いたツツジは、私に食べるよう勧めてくる。チェアに座り、箸を取るが、やはり食欲はなかった。少しでも、と思い食べられるだけ食べて箸を置く。昨日と同じく、美味しそうな朝食だったが、半分も食べることができなかった。申し訳ない気持ちでいっぱいになる。


「本日はツクヨミ様と、暁の里にご挨拶に向かっていただきたいのですが、いかがでしょう?」


ツツジは私の返答を待たずに説明を始める。暁の里は、鬼の妖であるスサノオ様が治めている里で、ツクヨミ様とは旧知の仲だという。婚礼にあたって、事前に挨拶周りをするのだそう。もちろん断る理由などないし、私に許可を取る必要なんてない。命じられれば私はその通りにするしかないし、自分の立場は分かっているつもりだ。


「もちろん、大丈夫よ」


断れない立場であるが、それでも私を気遣ってくれる言い方をしてくれるツツジには感謝しかない。私の返事を聞いたツツジは深々と頭を下げる。


「ありがとうございます。それでは、すぐ支度に取り掛かりましょう」


頭を上げたツツジは、その場でくるりと一回転する。さすが白狐、身軽な動きを見せた。そして、地面に着地した瞬間、ツツジは5匹に増えていた。


「えっ」


一瞬の出来事、驚きのあまり声が出てしまう。分身、だろうか。驚きの後に興味が湧いて出てくる。分身した1匹に手を伸ばして頭に触れてみる。


「すごい、本物」


もう1匹、更にもう1匹。頭だけではなく、頬や手にも触れてみる。すり抜けることはない、まぎれもなく本物。ふわふわで触り心地が良い。


「は、花嫁様、お支度を進めてもよろしいでしょうか…」


ツツジは戸惑いながら発言する。


「ご、ごめんなさい、つい」


即座に手を放して、支度をするためにツツジ達と一緒に寝室に向かう。婚礼のご挨拶なら今着ている普段着では事足りないだろう。夜の里に来た時に着用した着物でいいだろうか。迷っていると、ツツジはクローゼットを開けて、1着の着物を取り出した。薄い紫に白い花は散りばめられている。


「こちらの着物はいかがでしょうか?」


ふわり、と浮いて着物が床につかないように見せてくれる。私は頷き、返事を返す。もちろん、異論なんてない。それは、意見できる立場ではないという意味である。それと、「それを着たい」と思うほど、可愛いと思った。


ツツジに着物を着せてもらい、髪もまとめて、屋敷の前に着くと一人の男性が待っていた。そうだ、私はなぜ一人で向かうと思っていたのだろう。ツツジは「婚礼の挨拶」と言っていたではないか。そうなると、当然、ツクヨミ様も一緒だろう。私は固まってしまった。何しろ、ツクヨミ様の姿をはっきり見たのはこれが初めてなのだから。






陽の光が透き通る白銀の髪。


さらりと流れる髪は、ふわりと柔らかそうな。


少したれ目で、右目には泣きボクロ。


すらりとした長身。






名の通り、神に値する。



そう思った。

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