流れる
水の流れる音がする。陽は高くなり、じわりじわりと熱を伝える。
水の流れる音がする。陽は傾いて、一気に色濃く変化していく。
水の流れる音がする。藍色の空に、小さな星々が煌めいている。
水の流れる音がする。東の空に、ひときわ明るく星が輝く。
◇
「様子はどうだ?」
人間はとうに寝ている時間だというのに、夢の気配がしない。昨日も碌に眠れていないだろう。無理もない。
「お食事もあまり喉を通らないご様子で、ずっと部屋の窓から外を見ているだけでして…」
小さな白狐は、俯きながら報告する。
「気に病むな。お前のせいではない」
「ですが、これが続くとなると…」
白狐の妖、ツツジが言い淀む。人間は弱い生き物だ。ツツジの言いたいことも理解できる。
「分かっている。それはこちらがなんとかしよう」
私の言葉に安心したのか、ツツジは「ほっ」と小さく息を漏らす。
「やはり、あのことについて花嫁様は何も知らないのでしょうか?」
「そうだろう」
引き続き彼女の世話を頼むと伝え、ツツジを下がらせる。さて、どうしたものか。このまま放っておくわけにもいかない。様子を見に行こうかと考えた矢先、業の出現を知らせる合図が届く。最近はずっとこれだ。刀を持って屋敷を出て、合図のあった場所に向かった。