迎えた朝
揺らめく光が瞼を刺激する。ゆっくりと目を開けて、光に順応させる。何度か瞬きをして、視界に映ったのは昨日眺めていた景色。水面に反射する朝日が街を照らし、夜とは違う表情を魅せている。
「あのまま寝ちゃったんだ」
私の身体はチェアに座ったままで、頬には涙の痕が残っていた。確かに、あの後寝室に行った記憶がない。泣き疲れて寝てしまうなんて、子供でもあるまいし。と思いたいが、これは紛れもない事実。私は泣き疲れて、寝てしまったらしい。
立ち上がり、寝室に移動する。荷物の中から普段着を取り出して、着たままだった着物の帯をほどき着替える。辺りを見回してみたが、衣文かけが見当たらなかったので、一旦ベッドの上に置かせてもらう。荷物の中からヘアブラシを取り出して、髪を梳かす。チェアの背もたれと背中の間に入り込んだ髪が絡まっていた。顔も洗いたかったが、洗面所が無い。どうしようかと思っていたら、ドアがノックされて来訪者を知らせる。
「おはようございます。花嫁様」
姿を見せたのはツツジだった。ツツジは背中にトレーを載せており、部屋の中に入ってテーブルの上に置く。とても器用である。
「こちら、朝食でございます」
トレーには、ご飯と味噌汁、焼き魚など定番のメニューが並んでいた。出来立てなのか、ほんのり湯気が立っている。
「ありがとう」
チェアに座って朝食を眺める。とても美味しそう。だが、ここには昨日きたばかりで、食事をゆっくりとできるほど慣れていない。それに、そう。まだ不安もある。今日だって、これから何をするのか。婚礼はどうなるのか。数えだしたらキリがない。そう、端的に言うと、食欲が無い。
「お食べにならないのですか?屋敷の料理人が作ったので、味に問題はございませんよ」
朝食を前にして箸を取らない私を見て、ツツジは疑問に思ったのだろう。味の問題ではないのだが、確かに、作ってもらったのに無下にするわけにはいかない。何よりも、食材がもったいない。
「い、いただきます」
手を合わせて箸を取る。一口、一口。少しの量を食べ進める。食欲がないのは分かってはいたが、ご飯の味はほとんどしないようなものだった。結局、ほんの少しだけ口にして残すことになってしまう。音を立てないように箸を置く。
「お口に合いませんでしたか?」
ツツジは少し慌てたように聞いてくる。
「とても美味しかったんだけど、量が多かったみたい」
せっかく作ってもらったのに申し訳ないが、どうしても食が進まない。角が立たないように、やんわりと嘘をつく。私の言い訳を聞いたツツジは、それ以上何も言及してこなかった。助かった、私は安堵する。