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月を詠む  作者: 都合
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目覚めても胸の痛みは残ったままだった。


私は、今の暮らしを楽しいと思っている。朝はツツジと他愛のない話をしながら朝食を食べ、昼はツクヨミ様のお仕事を手伝う。夜は屋敷の中庭で月明かりに照らされる植物を見るのが楽しみだ。


たまに、ツクヨミ様と共に里の街中にも出かける。初めは、よそよそしかった妖達だが、今では挨拶してくれる者も増えてきた。書庫では実家にはなかったような本が数多くあり、どれもこれも興味がある。もっと知りたいと思うことが増えた。


ツクヨミ様と話すことも増えた。彼の隣は居心地が良くて、もっともっと話したい、その涼しげで甘い声を聴きたいと、望んでいる自分がいる。


楽しい、と思う。でも、それだけではない。それだけではない気持ちが大半を占めている。緩やかに胸を締め付けるような、それによってたまに引きずり出される痛みを、この高鳴る気持ちを何と形容していいか。


私は分からずにいた。




「月華様!おはようごさいます」


寝室のドアを開けて、ツツジが入ってくる。もうそんな時間か。考え事をすると、つい時間を忘れてしまう。


「ツツジ、おはよう」


私はベッドから起きて、洋服に着替える。白いシャツに、グレーのひざ下丈のプリーツスカート。次に、ドレッサーの前に座り、髪を整える。真っすぐの黒髪は、いつの間にか腰に届くほど伸びていた。櫛でとかし、髪ゴムでひとまとめに。毛束を捩じって根元に巻き付ける。ツツジがピンを渡してくれる。それを使って毛先を留める。これで身支度は完成。鏡越しにツツジが笑っているのか見えて、つられて笑ってしまった。


「今日もお綺麗です」


「ありがとう」


ツツジはいつも私のことを褒めてくれる。自分の容姿を気にしたことはなかったが、こうも毎朝褒められると悪い気はしない。少し照れてしまうが、ありがたく素直に受け止める。最後に鏡を見て最終確認。うん、大丈夫。


「よし、朝ご飯に行きましょう」


私は寝室のドアを開けて、隣の部屋に移動する。テーブルの上にはいつも通り、朝食の準備がされていた。


「いつもありがとう」


ここに来た当初は、不安も緊張もあり味もしなかったが、今は違う。屋敷で出てくる料理は、どれも美味しい。これも毎日の楽しみになっていた。


食べ終わって、食器を下げに厨房に向かう。それも最近始めたことの一つだった。




「月華、おはよう」


部屋から出て厨房に向かう途中、後ろから声を掛けられる。この声は。


「ツクヨミ様!おはようございます」


振り返るとツクヨミ様がおり、私の手から食器が乗っているお盆を手に取る。そのまま私が向かっていた方に歩き出す。


「いけません…!」


ツクヨミ様が運ぶなんて恐れ多い、と慌てて取り返そうとするが、手の届かない所までお盆を上げられてしまう。


「構わない」


そう言いながら、少し意地の悪そうに笑う。それを見た瞬間、どくん、と心拍が上がる。


また、だ。最近は急に心拍が上がることが増えた。それは決まってツクヨミ様といる時で、そうなる理由は分からない。


私はお礼を言って、ツクヨミ様とツツジと一緒に厨房に向かう。


「今日は共に、里の見回りに行かないか?」








厨房の入り口にある棚にお盆を置く。そして放たれた言葉は、嬉しい誘いだった。


「はい、是非」


「このまま行けるか?」


「はい」


私たちはツツジに見送られ、朝の里に出向いた。

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