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月を詠む  作者: 都合
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幕引き

「駄目だ!!その血は…!!」


父はこれまで以上に動揺した。その隙をアマテラス様とスサノオ様は逃さなかった。


「スサノオ!今!」


「分かっている!!」


スサノオ様は父を蹴り飛ばし、そのまま後ろにいる医者に当てる。2人は戦闘経験がなかったのだろう。蹴り飛ばされたまま、小さなうめき声をあげて痛みに悶えていた。アマテラス様は、2人を妖術で縛り上げて逃げられようにする。


「特殊部隊とやらに引き渡しましょ。この場所も証拠になるし、十分よ」


「そうだな」


ツクヨミ様はアマテラス様の言葉に答えながら、抱きしめていた腕をほどく。そのまま素早く私のシャツのボタンを閉めた。後ろからなのに器用である。


「父は…」


「一発蹴りいれただけだ。安心しな、生きてる」


スサノオ様の返答に安心する。覚悟はしたつもりだったが、その幕引きをしなくて良かったと思ってしまった。最後まで私は意気地なしだ。


「月華ちゃん、お手柄~!すごいじゃない」


「お前のおかげで捕らえることができた」


3人は私に笑顔を見せてくれる。それで確信する。そうか、これで終わったんだ。これで、業はもう出ないんだ。そうか、そうか。


「…良かった」


息をするように自然と安堵の言葉が流れ出る。それと同時に、大粒の涙が頬を伝う。それは、まるで滝のように止まることを知らず、次々に流れて落ちていった。それを見た3人は困ったように笑ったのだった。


父の業の進化のせいで、亡くなった方が大勢いる。消された妖だって大勢いる。決して、いい結果だったとは言い切れない。でも、これ以上の被害はもうないのだ。それは素直に良しと受け止めよう。


しばらくして、涙も止まった頃。出入口の方が騒がしくなった。また業の襲撃かと思い、身構えたが杞憂だった。廃病院に入ってきたのは特殊部隊で、アマテラス様が呼んでいたらしい。


彼らは、妖を見るのが初めてなのか、こちらを警戒している様子だった。スサノオ様は、縛り上げた父と医者を特殊部隊の前に差し出す。


「俺らは敵じゃねぇよ。おら、お望みの手柄だ」


身柄を確保した隊員の後ろから、腕章をつけた壮年の隊員が前に出てきた。


「里長様とお見受けいたします。この度は、ご協力感謝いたします」


深々と礼をした隊員は、すぐさま部下に指示を出し迅速に対応をしていく。父と医者は数人の隊員に運ばれていった。この後、然るべき裁定を受けるのだろう。


「月華」


出入口を見つけていると、私を呼ぶ声が聞こえる。その声に反応して振り返ると、ツクヨミ様が眉を下げて心配そうな表情をしていた。父は捕まった。でも、それは仕方のないことで、罪は償うべきである。私の話も聞いてもらえなくて、最後までただの検体としてしか見てくれなくて、すごくすごく悲しかったけど。でも、最後まで見届けることはできた。


「帰りましょうか」


大丈夫、の意味を込めてできるだけ笑顔を作る。やれることはやっただろう。


「そうだな」


ツクヨミ様は私の手を取って、廃病院を後にする。




私を見てくれなかった、悲しさがある。何も知らなかった私自身に対する、悔しさがある。どうにもこうにも消化しきれない、遣る瀬無さがある。それでも、私には、私を見てくれる、この方が隣にいるから。









「どうした?」


後ろからぶっきらぼうな声がする。手に取った資料を流し読む。これらは、床に無造作に落ちていたものだった。


「ん~、完成されているなって思って」


それは手順が記載されている用紙。


「そりゃそうだろう。なぜ不思議そうにする」


「完成されたものしかないからよ」


落ちているもの、全てがそうだった。試行錯誤した形跡が全くない。




「これで終わればいいけど」


手に持っていた資料を妖術で燃やす。




杞憂であればいい。


そう願って、その場を後にする。

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