遭遇5
「なりふり構わないな!」
私とツクヨミ様は業に囲まれてしまう。先程の戦闘は一対一だったので、私を後ろにしていた。しかし、今は囲まれているのでそうはいかない。じりじりと距離を詰めてくる業。どうするのかと思い、ツクヨミ様の顔を見上げた。それと同時に、業は一気に襲い掛かってくる。
ツクヨミ様は私を抱えて回避行動を取る。それによって一気に襲い掛かってきた業は、一か所に集められた。さすがの判断力である。
「一か八か…!」
そして、懐から扇子を取り出して開かずに小さく振る。すると鈴の音が鳴り、業が静かに倒れていく。
「えっ…」
一瞬の出来事に思わず驚きの声が出てしまう。業は粒子になって消えるわけでもなく、その場で倒れたままだ。戦闘が終わったとは思えず、ツクヨミ様にそのまましがみついていた。
「妖術で眠らせただけだ、起きたらまた襲ってくるぞ」
そうか、ツクヨミ様は獏の妖だ。このような芸当ができても不思議ではない。それよりも、業は霊的なものに近しいはず。それなのに、妖術が効いて眠れるということは、進化して生き物に近づいているということだろうか。
ツクヨミ様が最初から妖術を使わなかったのは、以前に効かなかったからではないだろうか。それなら「一か八か」と言っていた理由にも説明がつく。
「何が目的だ!もう言い逃れはできんぞ!」
私の腰に回した手に力が入る。その力強い言葉は、呆気に取られている父に向けられていた。
「言い逃れだなんて…。わ、分かりました。全てお話ししますので、移動しませんか…?」
勝てないと思ったからか、父は観念したらしい。父の言葉が聞こえたのか、医者も車の陰からこちらの様子を伺っていた。
「場所は?」
「帝都の外れにある病院です」
おそらく、アマテラス様が話していた廃病院のことだろう。そこには私の血を運んでいて、業の進化も行っているはず。そこに移動して話すとはどういうことなのだろうか。父が全てを話して、その後は。話を聞いて終わりというわけにはいかない。
父が何を考えて、何をしたいのか分からず、私はただ黙っていることしかできない。どうしたらいいのか、最善の選択が何なのか分からない。考えすぎて思考がパンクしてしまいそうだ。
「いいだろう」
ツクヨミ様がそう言うと、父は私達にも聞こえるほど大きなため息をした。そして、医者に、目配せをする。医者は倒れている業を一体ずつ車に運び始めた。
「場所ですが、ここから帝都の」
「必要ない。分かっている」
廃病院の道を説明した父の言葉を遮って、ツクヨミ様は指を鳴らす。ぱちん、と衝撃波と同時に、私達の真後ろに馬車が現れる。すでに迎えは来ていたらしく、御者の姿も確認できる。ツクヨミ様は私の手を引いて、足早に馬車に乗り込んだ。




