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月を詠む  作者: 都合
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大丈夫

交差点の角を曲がると実家が見えてくる。こうして見ると、自分の実家がいかに立派ということが分かる。厳かで、存在感のある建物。少し高い塀に、出入口は玄関の一か所のみ。それはまるで来るものを拒み、居るものを逃さないといった意思を感じ取れる。


実家の玄関先が見えてくる。そこには乳母が立っており、しきりに周りを見渡していた。彼女は私たちに気が付くと駆け寄ってきて、慌てた様子で話し出す。


「お嬢様、すぐにお帰りください!」


その様子は、昨日ここに来た時と同じようで、やはり乳母も何か知っているのではないのだろうか。


「理由をお聞きしても?」


頑なに玄関先に入れまいとしている乳母にツクヨミ様は問う。先ほどの作戦会議で、早々に帰ることになってはいたが、こんなにも急かされるなんておかしい。そう思ったのは私だけではないらしい。


「…それはお話できませんが、このままではお嬢様が…」


先ほどの勢いはどこへやら、歯切れ悪く話し出す。もしかして、父がまた何か企んでいるのかもしれない。乳母の様子は私を案じてくれており、言葉通りすぐに帰った方がいいのだろう。


「分かりました。荷物をまとめて参ります」


ツクヨミ様の返事を聞いた乳母は、安堵したような表情になる。私にどんな危険が迫っているのだろうか。聞きたいが、きっと聞いた所で答えてはくれないだろう。それに、忠告してくれているのだ、今はそれに従うべきだろう。


元々荷物は少なかったこともあり、すぐに帰宅の準備はできた。乳母が車を呼んでくれていたらしく、玄関に行くとすでに車が待機していた。ツクヨミ様は先に乗り込み、私に手を差し伸べる。


「お嬢様、お元気で」


その言葉に振り返る。そうだ、あの時もそうだった。あの時は、希望的観測でしか言えなかった。でも、今なら言える。


「ばあや、私すごく良くしてもらっているの。だから大丈夫よ」


私には、この手を取ってくれる人がいる。私のために怒ってくれる人がいる、私を心配してくれる人がいる。微笑んで、私はツクヨミ様の手を取った。乳母は、目を見開いて、そして。




くしゃり、と笑った。

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