帝都
帝都の中心は人で賑わい始めていた。車の走行音、すれ違う人々の話し声、各々向かう足音。街というものは、こんなに音が溢れかえっているものなのか。初めて、窓の向こう側に来たが、目も耳も奪われるような感覚。これほどまで新鮮さを感じるとは思っていなかった。
店頭にある雑誌に手を伸ばす老人、カフェでお給仕をするウェイトレス、ビルディングに入るサラリーマン。道路沿いのレンガ造りの建物には店が並んでおり、窓の向こう側はこれまた新しい世界が広がっているように思えた。
「目新しいですか?」
隣を歩いていたツクヨミ様が声をかけてくる。その姿は侍女に戻っており、肩で切りそろえられた髪がまとまって揺れた。
「えぇ、窓から見える範囲は決まっていたから新鮮。帝都はこんなに華やかなのね」
歩みを進める度に、自分の居た世界は狭かったのだと痛感する。帝都の一部だけでもそう思うのだ。きっときっと、世界は私の思っている何倍、何十倍。いいや、想像もできないくらい広いのだろう。
「落ち着いたら、買い物にでも来ましょうか」
それは想像もつかないような提案だった。買い物、もちろん知識としては知っている。そして、もちろん私は経験などない。しようとも、したいとも思ったこともない。
でも、ツクヨミ様に言われて想像する。先程すれ違った仲睦まじい男女のように、カフェで向かい合って座っていた老夫婦のように、それをツクヨミ様とできるなら。
それはそれは、なんて楽しいことなのだろう。
これが、楽しみ、という感情か。これはこれは、胸が暖かくなる。小さく跳ねるような、そんな感覚。
「はい、一緒に来たいです」
まるで声まで跳ねているよな軽やかさだった。




