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月を詠む  作者: 都合
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少し呼吸を乱しながら入室してきた父は、私の前にいるツクヨミ様に目もくれず、今までになく高揚した様子で話しかけてくる。父から見た私の姿は、ほとんどツクヨミ様に隠れている状態なのに、それも気にならないらしい。


「喧嘩をしたんだって?しばらくゆっくりしていくと良い。お前の様子が心配で先生も呼んだから、診察を受けなさい」


こんなこと、これまで言われたことない。父の様子から、この先生も業の進化に関わっているのだろう。度々顔を合わせていた医者だ。今となっては、この男性が医者かどうかすらも怪しい。


「はい」


いつも通り、いつも通り。かすかな記憶を辿って、いつも通りを心がける。記憶なんて、ほぼ無いに等しいのに。


そんな私の様子などお構いなく、父は言いたいことだけ言って部屋から出て行った。あの時もそうだった。きっと、この人はそういうものなのだろう。


「久しぶりだね、ミツさん。さっそくだけど、診察しようか」


そうして、いつも通り診察を受ける。診察といっても、少しの問診と採血だけ。ここで採血した私の血を、業の進化に使っているのだろう。診察というのは建前で、採血が目的なのだから。


手慣れた様子で採血をして、それを大事そうに鞄にしまう。こんなに露骨に態度に出ていたのに、私は気が付かなかった。いや、気が付いたところで、私一人では何もできないのだけれども。なんだか、何もかも、やるせない気持ちになっていく。


気持ちが沈みかけたその時、私の肩に華奢な手が重なる。その手の暖かさにハッとする。そうだ、私にはツクヨミ様がいるではないか。それに今は、スサノオ様もアマテラス様もいる。どうして一人だと思い込んでいたのだろう。私はその華奢な手に自分の手を重ねる。そうだ、ここに来たのだから、できることはできるだけやりたい。


「じゃあ、また明日来るからね」


先生はそう言って去っていく。その後ろを光の粒子がついていく、あれはアマテラス様だ。私の血をどこに持っていくか調べるのだろう。それを見送ったツクヨミ様は帝都の外にいるスサノオ様に伝令を送る。蝶のような生物は、ひらりひらりと舞って窓から外に飛んで行った。


「奥様、体調はいかがですか?」


伝令を送ったツクヨミ様は、私の座っている椅子の前に来て跪く。採血をされた方の腕を取り、止血用のパッドに触れる。


「いつものことだから、平気よ」


そう言うと、ツクヨミ様は眉間に皺を寄せて黙ってしまう。何かまずいことを言ってしまっただろうか。でも、本当のことなのだ。これを朝晩にするのが、いつも通りだったのだ。


だからそんな、悲しい顔をしないでください。

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