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月を詠む  作者: 都合
18/61

見送り

翌朝。痛みはすっかりなくなっていた。腕を上げて伸びてみる、上半身を捻ってみる。


「すごい、痛くない」


どこをどう動かしても痛くなかった。アマテラス様はどのような治療を行ったのだろうか。もしかしたら妖が使用する術があるのかもしれない。骨折を一日で治してしまうなんて、神秘のようだ。


「おはようございます、花嫁様」


身体の調子を確かめていると、ツツジが部屋に入ってきた。背中には朝食が乗っており、いつもの場所に運んでくれる。


「おはよう、ツツジ」


椅子に座って「いただきます」と挨拶をし、箸を手に取る。すんなりと食事が喉を通る。美味しい、と感じる。それが、たまらなく嬉しく思えた。


「美味しい」


思わず言葉になって口から出る。それを聞いたツツジは笑みを深めた。


「それはそれは、良かったです」




朝食を食べた後、ツツジと共に母屋に向かう。アマテラス様が陽の里に帰られると聞いて、改めて治療のお礼を伝えに来たのだ。


「あら、おはよう。ミツちゃん」


「おはようございます。アマテラス様」


アマテラス様の後ろにはツクヨミ様もおり、同様に挨拶をする。


「あぁ、おはよう」


その様子を見たアマテラス様は、ふふんと笑みを深め私の背後に立つ。何をするのかと思っていると、後ろから抱きしめられた。そして、私の頭の上に顎を置く。急なスキンシップに驚いてしまうが、アマテラス様は気にせず話をする。


「んも~、ツクヨミったら冷たい。そんなんじゃ愛想尽かされちゃうわよ」


私を抱きしめたまま、左右にゆらり揺れる。私は抵抗できず、アマテラス様のなすがままだ。それを見たツクヨミ様は大きなため息をつく。


「やめろ、困っている」


抱き着いているアマテラス様の腕をほどき、私の腕を掴んでツクヨミ様の方に引き寄せられる。勢いについていけず、躓いてしまったがツクヨミ様は、難なく支えてくれる。


「ツクヨミのケチ~」


「やかましい、早く帰らんか」


「ミツちゃん聞いた?ひどくない?」


「普通だ」


「これが普通?この人でなし~」


「私は妖だ」




あははっ。




笑い声に反応して、言い争いをしていた声がぴたりと止んだ。そして、ツクヨミ様とアマテラス様は私の方を凝視している。視線に気が付いた私は、自分が声を上げて笑ったことに気が付いた。


「あ、あの、ごめんなさい。お二人のやり取りが面白くてつい…」


失礼なことをしてしまったかと思い、すぐに謝罪をする。しかし、二人の反応は意外なものだった。


「可愛い~!ね、もう一度笑って?ほら、ツクヨミも見たいわよね~」


アマテラス様はそう言いながら、ツクヨミ様の背中を押して私の前に差し出してくる。ツクヨミ様は背中越しに苦い表情を向けていたが、私と目が合った瞬間、優しく微笑んでくれる。


それにつられて、私も同じく微笑んでしまうのだった。




「治療、ありがとうございました」


私は深々と頭を下げる。アマテラス様は「治って良かった」とにこやかな笑顔で返事をしてくれた。そして、少し困ったような表情する。


「ミツちゃんが決めたことだから、私は何も言わない。でもね、これだけは覚えていて」


まるで私の心を見透かしているような物言いに、思わず背筋が伸びる。アマテラス様は顔を近づけて、囁くように言う。


「辛い、悲しい、やるせない、そんな気持ちになった時、あなたの隣にはツクヨミが居るわ。きっと手を握ってくれるから、頼ってあげてね」


顔が離れて元の位置に、アマテラス様の表情はにこやかなものに戻っていた。もしかしたら、アマテラス様は私の考えが分かっているのではないだろうか。そう思えるような物言いだった。


「じゃあ、帰るわね」


屋敷の玄関前には、馬車などはない。どう帰るのかと思っていたら、羽織っていたショールをふわり、と広げる。すると、アマテラス様の足元が発光し、一瞬で光の粒子となって消えてしまった。


「えっ」


あまりにも一瞬の出来事で、思わず驚きの声を上げてしまう。


「あいつは里間を一瞬で移動できる」


その様子を見たツクヨミ様は説明をしてくれるが、その一言では理解できないような現象だった。とにかく、一瞬でということは、もう陽の里に着いたということでいいのだろう。妖の世には不思議なことも多いものだ、と無理やり自分を納得させた。


「にぎやかな方でしたね」


ツクヨミ様は腕を組んでため息をつく。


「うるさくて敵わん」


踵を返して屋敷へ向かう。私もそれについていく。途中で「執務が残っている」とツクヨミ様は仕事に戻ってしまった。私は離れの自室に戻り、椅子に座って外を眺めることにした。

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