アマテラス様
次に目を覚ました時には、陽が暮れていて、部屋は少し薄暗かった。体を起こすと、まだ痛みはあるものの、大分良くなっていた。結構な痛みだったにもかかわらず、こんなに早く治るものなのかと不思議に思っていると、ドアをノックする音が聞こえてくる。返事をすると、ツツジと共に見たこのない妖が入ってきた。
「花嫁様ぁ!」
ツツジは大粒の涙を流しながら、私の胸に飛び込んできた。その衝撃に背中が少し痛むが、そんなの気にならなかった。ツツジを受け止めて抱きしめる。
「ツツジが居ながら!こんなことになってしまい申し訳ございません」
わあわあと泣きながらツツジは謝ってくる。「お世話係なのに!」「不徳の致すところです!」と次々に謝罪を述べている。
「ううん、私が悪いの。それなのに庇ってくれてありがとう」
ふわふわの頭を撫でて慰める。ツツジが責任を感じることなんてないのだ。私が出しゃばってしまったせいなのだから。
「さぁて、そろそろ私も花嫁様とお話ししたいわ~」
そうだ。ツツジと共に部屋に入ってきた妖がいた。ツツジの勢いにその存在を忘れていた。声のする方に視線を向けると、そこには美しい女性の妖が立っていた。正面から見ると肩で切りそろえられたような髪型に見えるが、動くたびに襟足の長い髪が腰まであるのが見える。
黄色を基調とした着物は、シンプルながらよく見ると細かい刺繍が施されている。レース編みのショールが彼女の美しさをより引き立たせている。彼女は、部屋の電気をつけて、ベッドの近くにあるチェアに座る。
「初めまして、花嫁さん。私はアマテラス、陽の里の里長よ」
にこり、と優しく微笑む。その姿はまるで女神のようで、思わず惚けてしまうほどだった。
「金剛ミツです」
小さく頭を下げると、アマテラス様は「あまり動かないで」と優しく頭を撫でてくる。
「すっごく痛かったでしょう?骨が折れて、内臓が傷ついていたのよ」
骨が折れて。そう言われると確かに、それ相応の痛みではあった。アマテラス様が知っている、かつ痛みが和らいでいるということは、治療をしてくれたのではないだろうか。
「あの、もしかして治療を?」
おそるおそる問うと、アマテラス様はにっこりして答える。
「そうよ、人間には詳しいの。痛みはどうかしら?」
もしかして人間と妖では体のつくりが違うのだろうか。にしても、この治癒力は異常ではないだろうか。この痛み、とても骨と内臓を損傷したとは思えない。
「大丈夫です」
色々と疑問に思うことはあるが、考えても答えにたどり着けないだろうと早々に諦め、思考を停止する。痛みはほぼ消えている、それでいいではないか。そう思いながら、胸元のツツジを撫でまわす。
「良かったわ。ツクヨミが血相変えて来たものだから、何事かと思っちゃった」
アマテラス様は、口元に手をあてて「うふふ」とにこやかに笑っている。どうやら、アマテラス様を呼んだのはツクヨミ様らしい。血相を変えて。
「ツクヨミ様が?」
私はぽかんとしてしまう。確かにツクヨミ様は優しい方なので、私をあのままにはしなかっただろう。しかし、それは血相を変えるほどのことではないだろう。私の表情を見たアマテラス様は、また微笑んで内緒話をするように顔を近づけてくる。
「あの子、私がここに来て治療している間もすっごく心配していたのよ。後ろをうろうろして、『どうなんだ』『治るのか』『まだなのか』って、うるさいったらありゃしない」
ふふふ、と思い出し笑いをするアマテラス様。ツクヨミ様が?本当に?どうしても信じられず、アマテラス様に詳しく話を聞こうとしたら、ドアがノックされた音が鳴る。私の代わりにアマテラス様が返事をし、ツクヨミ様が入ってきた。
「体調は?」
普段と変わらない、冷静な話し方。一度目に起きた時も、焦っている様子などなかったように思える。本当にこの方が血相を変えたのだろうか…?にわかには信じがたい。
「大丈夫です」
「痛みは?」
「ほとんどありません」
「動かせるか?」
矢継ぎ早に質問をされる。私は驚いてしまって、答えに躓いてしまう。その様子を見ていたアマテラス様は声を上げて笑った。
「もう、ツクヨミったら。そんなに質問攻めしなくても、私が治療したのだから大丈夫。ミツちゃんが困っちゃうでしょ」
アマテラス様の言葉に、ツクヨミ様は苦虫を嚙み潰したような顔をする。アマテラス様はその顔を見て、更に声を上げて笑った。
スサノオ様の時もそうだったが、ツクヨミ様は都合の悪いことを言われると、圧で何も言わせないような対応をする。そして、2人共笑うので、これ以上からかわれないための対策なのだろうか。
ひとしきり笑ったアマテラス様は、私の胸元にいるツツジを抱き上げる。
「じゃあ、お邪魔虫は退散しましょうね~」
軽やかな足取りでアマテラス様とツツジは部屋を去っていった。つまり、ツクヨミ様と2人きりの状態になる。




