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月を詠む  作者: 都合
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異質な朝

久しぶりに、ぐっすり眠れた。


外出をした疲れなのか、馬車の中で言われた言葉の安心感からなのか。はたまたどちらもなのか。久しぶりにぐっすり眠れた。

考えることは数あれど、それでも頭の中はすっきりしていて。その反面、これでもかというほどの寝癖がついていた。

そういえば、ここにきてから日課をこなしていない。栄養状態も良くないのだろう。


「ブラシだけで直るかな…」


いつもよりも時間をかけてブラシをして、なんとか寝癖を直す。普段着に着替えて、ツツジが来るのを待った。


しかし、いつもの時間を過ぎてもツツジは来ない。お世話係と言っていたが、こない日もあるのだろうか。そう疑問に思いつつ、今日は予定があるわけではない。もしかしたら休みかもしれないと思い、部屋でゆっくりすることにした。


夜の里の朝は静かで、他の時間よりも水の流れる音がよく聞こえる。風に当たろうと思い、窓を開けると微かに妖達の怒号のような声が聞こえてきた。窓から身を乗り出し、耳を澄ませる。風に乗って話の内容が聞こえてくる。


「……昨日…出た…」

「姿が……では…か!」

「ここ…入る……見…」

「……ら人間……える……!」


人間。「人間」と発した言葉が聞こえた。私の話をしている?もしかして、この声は屋敷からではないか。ツツジが部屋に来ないのは、声の主の対応をしているとしたら。もし、私のせいで責められているのだとしたら。


そう考えると、居ても立っても居られない。私は部屋を飛び出して、声が聞こえる場所がないか探す。離れから母屋へ、階段を駆け下りて、長い廊下を進む。屋敷内は朝だというのに薄暗く、誰かがいる気配がしない。声も姿も聞こえない。私の予想が外れれば良いと思いながら、屋敷を進むと声が聞こえてきた。近くにいる。そのまま声がする方に向かう。そこは玄関で、妖数人の姿とツツジの後ろ姿が見えた。


「ツツジ」


私が声をかけると、その場にいた全員が私の方を向く。


「花嫁様!?」


ツツジは驚いて金切り声の近しい声を上げる。「花嫁様」の言葉に反応して、空気が凍るような感覚。あぁ、これは。敵意、だ。


敵意を認識した瞬間、私の足は地面を離れて浮く。怒号を放っていた妖達の内の一人に、襟ぐりを持たれ、そのまま持ち上げられている。首元が狭くなり、そこに自分の体重がかかり、息がしづらくなる。抵抗を試みるが、相手は妖。体躯が大きく、私の抵抗はびくともしない。


「お前がここに来たせいだ!!」


そのまま怒号を浴びせられる。窓でかすかに聞こえていたものとは遥かに違う声量と勢い。たったこれだけで、私の体は一気に恐怖に染まる。歯の根はかみ合わず、小さくカタカタと音を立て、四肢は冷え震えが止まらない。


一瞬、ふわりと体が浮く。どこにも繋がれていないような、そんな感じ。次に衝撃、背中からどたん、と大きな音を立てて床に跳ね返る。そして、もう一度、衝撃。肺を圧迫されて強制的に空気を出されるような感覚。苦しい。痛い。


「この里に何をするつもりだ!」


「お前なんか花嫁でもなんでもない!!悪鬼め!!!」


「業の手下め!!出ていけ!!!」


他の妖も取り巻きのように罵倒してくる。痛みと苦しみで、転がった体を起こすことができない。ツツジは私を庇う様に、前に立って「おやめください!」「誤解なのです!」と懇願している。だが、すぐに体躯の大きな妖に払いのけられる。それでも、私の前にツツジは戻って庇う。


その小さな後姿を抱きしめるように引き寄せる。このままではツツジが殴られてしまうのではないか。彼らの怒りは私に向けられている。ならば、私のできることは。まだ体は痛む、何とか腕で支えて上半身を少しだけ起こした。


「里に悪さをしに、きたわけでは、ありません…」


呼吸をするたびに、背中に痛みが走る。一言話すだけでも一苦労だった。そして、反論したのが悪手だった。体躯の大きな妖は、腰に携えていた棍棒のような武器を振り上げる。殴られる。避けることはできないかった。痛む体を無理やり動かし、ツツジに覆いかぶさる。襲ってくるであろう計り知れない痛みに備えて、固く目を瞑る。力を入れすぎて、目じりから涙が出てきた。






「何をしている」






空気が凍る。なんて、そんな生易しいものではなかった。殺気。その場にいた全員、その一言で固まってしまった様で、来ると思っていた痛みは来なかった。目を開けると、私を囲んでいる妖達の足の間から、ツクヨミ様の姿が見えた。


「ツ、ツクヨミ様、これは…ええと」


体躯の大きい妖は、振り上げた武器をごまかすようにゆっくり下げる。こちらに近づいてくるツクヨミ様を避けるように下がる。ツクヨミ様は私の前でしゃがみ込み、私をゆっくりと抱き上げる。少し動かされただけでも、背中が痛む。小さくうめき声が出てしまい、痛みを逃がすために、ツクヨミ様の襟元をきつく掴んでしがみついてしまう。私を隠すように羽織の中に包まれ、ツクヨミ様の表情は見えなかった。


「キキョウ、捕らえておけ」


ツクヨミ様の言葉に反応して、数人が動き出す音がする。「ツクヨミ様!違うんです!」「目を覚ましてください!」などそれぞれ口に出す。ツクヨミ様の手が、羽織の上から私の耳を塞ぐ。妖達の声を聞こえないようにしてくれたのか、それは分からないけれど。その優しさに少しだけ甘えるように、ツクヨミ様の胸に頭を預けた。

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