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月を詠む  作者: 都合
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スサノオ様

「来たな!ツクヨミ」


案内された客間に入ると、胡坐をかいてお猪口を片手に手を上げる男性が居た。彼の頭には大きな角が生えており、長い髪を後ろでゆるく三つ編みにしてまとめている。赤を基調とした派手な装い、堂々たる風格。ツクヨミ様のことを「ツクヨミ」と呼び捨てにしていたので、この方が暁の里の里長、スサノオ様なのだろう。


「相変わらず酒か?」


ツクヨミ様は鼻で笑いながら、大きな座卓を挟んでスサノオ様の向かいに座る。私は、どうしたらいいか分からず、ツクヨミ様の斜め後ろに座ろうとした。


「なんだ、お前は花嫁だろう?従者でもあるまい!ツクヨミの隣に座ればいいじゃないか」


豪快な物言いに、驚いて体がびくりと反応してしまう。失礼に値しないか不安になったが、スサノオ様を見てみるとにかりと大きく笑っている。言われた通り、ツクヨミ様の隣に座る。


「俺はスサノオ!この里を治める偉い鬼だ。花嫁、名をなんと申す」


お辞儀をするために、座卓から離れる。


「金剛ミツと申します」


頭を下げようと、手を合わせる。


「そんなかしこまらずとも良い!楽にしろ」


また、声量の大きさに驚いて体が強張ってしまう。スサノオ様は細かいことを気にしない、おおらかな性格なのだろう。小さくお礼を言って元の位置に戻る。


「可憐な花嫁だな、良かったな!ツクヨミ」


がははと豪快に笑いながら、お猪口を口元に運ぶ。たん、と子気味良い音を鳴らして座卓に置く。一気に飲んでしまったらしく、追加のお酒を注いでいる。


「あぁ」


一言、ツクヨミ様は肯定の返事をした。てっきり、否定されると思っていた。驚いた、ツクヨミ様にとってこの婚礼に良い意味なんてないと思っていた。


「しかし、あの時のお前さんときたら、今思い出しでも笑えてくるな!」


あの時とは、婚礼の時の話だろうか。なんのことか分からず、横に居るツクヨミ様の顔を見る。そこには、眉間に皺を寄せて怪訝そうな顔をしているツクヨミ様がいた。スサノオ様はその表情を見ても尚、笑っているだけだった。


「いいじゃないか!なぁ、花嫁」


急に話題を振られた上に、反応しづらい話題。私は愛想笑いしかできなかった。


「よせ、困っている」


そんな私を庇うようにツクヨミ様は言う。それを見たスサノオ様は、またがははと笑い「良い、良い」と満足そうにしている。


婚礼の挨拶と聞いていたので、もっと畏まった場だと思っていた。しかし、2人の雰囲気を見ると知り合いに会いに来たかのようなものだった。私は少しだけ緊張がほぐれる。それもつかの間、笑顔を絶やさなかたスサノオ様が、急に真剣な表情になる。


「でだ、最近の奴らはなにかおかしいと思わんか?」


ぴしりと空気が変わる。瞬く間に私は緊張状態に引き戻される。


「形を得てきている。出現も頻繁にするようになった」


話の内容的に業のことだろう。「おかしい」ということは、以前とは変わってきているのだろうか。幸いにも、私はまだ業に出会ったことがないので、それらがどのような姿かたちをしているか知らないのだ。


「まだ不完全だからいいものの、完全に形を得たらどうなるか。その前に手を打たねば」


スサノオ様は深いため息をつきながら話す。妖にとっても、業は厄介な存在らしい。


「分かっている。もう少し、確固たる証拠が欲しい」


「構わん、こちらは時が来るのを待つのみよ」


話にひと段落ついたのか、スサノオ様は先ほどと同じように、にかりと笑った。その後は、ツクヨミ様とスサノオ様は他愛の無い話をして、スサノオ様は時々私にも話題を振ってくださった。時計を持っていなかったので正確な時間は分からなかったが、1時間は話していたのではないかと思う。






「気を付けて帰れよ!」


屋敷の前には、お出迎えの時と同様に妖達が列をなしてお見送りをしてくれた。スサノオ様とヒイラギ様は門まで来て、ツクヨミ様と何か話しているようだった。私は案内人に促されて先に馬車に乗る。ツクヨミ様もすぐに乗り込んできて、馬車は走り出した。




聞こえてしまった。






「お前さんには悪いが、最悪の場合、根源を絶たせてもらうぞ」






聞こえてしまった。去り際にスサノオ様がツクヨミ様に放った言葉。


この言葉の意味を私はすぐに知ることになる。

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