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月を詠む  作者: 都合
11/61

暁の里

「着いたぞ」


薄いヴェールを被ったような声が耳に届く。微睡から目を覚ます。そして、自分の状況に驚愕する。私の身体は左側に寄っている。そう、つまり、私はツクヨミ様に寄りかかって、寝ていたのだ。


「ご、ごめんなさい!」


申し訳なさと、怒っているのではないかと不安になり、勢いよく離れる。どうしよう、怒っているかもしれない。たらり、と冷や汗が流れる。ツクヨミ様は表情を変えず、布を差し出してくる。


「別に怒っていない」


差し出された布を受け取って広げると、夜の里に到着したときに着けた面だった。これ以上ツクヨミ様をお待たせするわけにはいかないと思い、素早く着ける。もちろん、落ちないかのチェックも欠かさない。これを着けるということは、素顔を見られては不都合があるのだろう。


私の用意ができたのを確認したツクヨミ様は、御者に合図を出す。すぐに馬車の扉が開き、ツクヨミ様は降りていく。私もそれに続き、差し出された御者、もとい案内人の手を取る。おそらく彼は御者のような役割を担っているのだろう。




暁の里は、ほおずきの実が多くなる緑豊かな里だった。夜の里と違い、帝都と同じような街の作りで、建物が横に広がっている様子が見て取れる。ほおずき似た実がふわりふわりと、ほのかに光りながら浮いている。


目の前に現れたのは、大きな門。そこから屋敷を囲うように高い塀が続いている。まるで、江戸時代のお城のようだ。私はツクヨミ様の後ろに立ち、門がゆっくりと開く様子を見ていた。門が開きた先には、広々とした庭園が広がっており、屋敷の続く中央の道の両端には、使用人と思われる妖がずらりと並んでいる。がこん、とひと際大きな音を立てて門が開き切ると、その音を合図に並んでいる妖が一斉に頭を下げる。かなりの人数がいるのに、衣擦れの音など一切しない。その光景に圧倒されてしまう。


ツクヨミ様はその間を堂々と進んでいく。その歩く姿は雅やかで、共に歩くのが恐れ多い。とはいえ、ここで立ち止まっているわけにもいかず、私は早歩きでついていく。屋敷の玄関では、背中に黒い羽根の生えた妖がおり、ツクヨミ様と私に深々と一礼する。


「お待ちしておりました。ツクヨミ様、花嫁様」


ツクヨミ様は微動だにしなかったが、私はそうもいかず頭を下げて会釈をする。


「ヒイラギ、調子はどうだ?」


「はい、おかげさまで」


どうやら、この2人は知り合いだったらしい。ヒイラギと呼ばれた妖は、私の方を向いて笑顔になる。


「初めまして、花嫁様。私はスサノオ様の近侍をしているヒイラギと申します」


まさか、私個人に挨拶されるなど思っていなかったので、慌てて礼をする。


「初めまして、金剛ミツです」


私が挨拶を返すと、ヒイラギ様は「参りましょうか」と、私たちを屋敷の中に案内した。

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