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月を詠む  作者: 都合
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会話

「寝られないのか」


左側から聞こえてきたのは、少し掠れた心地の良い声。いきなり話しかけられたことに驚いて、より背筋が伸びてしまう。無理もない、だって、隣にいるのはツクヨミ様で、馬車の中には2人きりなのだから。


「い、いえ」


嘘である。昨日も、一昨日もきちんと眠れてはいない。しかし、ここで「はい、眠れていません」というのも失礼に値する。豪華な自室に、考えられた食事。感謝はあれど文句など何一つない。


「獏という妖を知っているか?」


「悪夢と食べるといわれている妖のことでしょうか?」


驚いた。まさか会話がまだ続くなんて。ちらり、と横目でツクヨミ様の様子を伺う。彼は、小さくため息をついた後、私の顔を覗き込んできた。


「そうだ。私はその獏で、獏は人間の夢の気配に敏感だ」


私の顔を見たツクヨミ様は、怪訝そうな顔をして、こちらに手を伸ばす。「人間の夢の気配に敏感」ということは、私が寝ていないことはお見通しなのだろう。伸びてきた手は、私の目の下を優しくなぞる。今日の朝、鏡を見た時に目立っていたそれ。思わず目を逸らしてしまう。


「不安か」


きっと、きっと。この方に嘘は通用しないだろう。敏感なのは「人間の夢」だけではない気がした。そして、存外、私の思っていたような人物ではないのかもしれない。とにかく、嘘を言っても仕方がない。見破られるのがおちだ。


「…はい」


私の返答を聞いて、目の下をなぞっていた手が離れる。それはそのまま、私の頭へ。


「何を言っても気休めにはならないだろう。だが、悪いようにはしない」


その言葉に顔を上げるが、ツクヨミ様は窓の外を見ており表情は見えなかった。多分、私は思い切り誤解をしている、と思う。多分、分からないけれど。だから、初対面のあの言葉にもきっと意味がある。そう考える私の頭を大きな手が撫でる。




優しく、頭を撫でられる。大きな掌、その熱がじわり、額を通して伝わってくる。それがとても心地よくて。あぁ、このままずっと。これは、あの日見た夢に、すごくすごく。




似ている。

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