第91話 ふかふかでもふもふでふわふわ
「わあー!!タマキ様!これ可愛すぎますー!!」
神殿の出口で待っていたロリ様が、もふもふの尻尾を生やしたタマちゃんを見ると目を輝かせながら駆け寄ってきた。
「これどうしたんですか!?増えてます!もふもふです!触っても良いですか!?」
揺れる9本の尻尾に合わせて頭を動かしながら興味津々の様子。
「良いですよ。あ、でも優しく触ってくださいね。生えたばかりなので、どうも感覚が微妙で……」
「ありがとうございます!!」
そんなタマちゃんの希望も虚しく、ロリ様は9本の尻尾を勢いよくまとめて抱きかかえた。
「フニャー!!」
「うわあ!!ふかふかでもふもふでふわふわですぅ!!」
うっとりとした顔で尻尾に頬ずりしているロリ様。ふかふかでもふもふでふわふわに夢中になっているその耳にはタマちゃんの悲鳴は届いていないようだ。
いつか誰かにはこうされる未来があったはずだから、今のうちに慣れておくんだ。
慣れたら次は俺の番ね?
「タイセイ殿。タマキ殿は何に転職されたのでしょうか?猫獣人の方がこのような姿かたちになるものを私は知らないのですが……」
バックスさんが不思議に思うのも無理はないだろう。
長年ここで様々な職業を見てきた神官のメリーさんが知らないんだから、『九尾の猫又』なんて職業はこの世界の誰も見たことも聞いたこともないはず。
「『九尾の猫又』という職業らしいですよ」
「九尾の猫又……やはり聞いたことがありませんな。猫、は分かりますが、猫又とは何のことなのでしょうな?」
泥田坊は分かるのに猫又は知らないんだね。
「神官さんも見たことがないということだったんで、これはユニークジョブなんじゃないですかね」
「なんと!ダーレ神殿の神官様も知らない職でしたか!」
目をまん丸にして驚きの声を上げるバックスさん。
でも俺にとって気になっているのは、その職業でも見た目でもなく――
【称号】
蘇りし勇者の血脈
この部分。
蘇りし……勇者の血脈……。
額面通りに受け取るのだとしたら、タマちゃんはかつての勇者の血をひく末裔ということになる。
でも、時間の経過と共に勇者の血をひく者なんてどんどん増えていくもんだ。
タマちゃんがそうなら、その両親や兄弟、従兄弟にハトコ。直系かどうかを気にしなければいくらでも勇者の血脈に名を連ねることが出来るはず。タマちゃんもそのうちの1人でしかない。
それなのに何故タマちゃん?
ロリ様にしてもだけど、まるでこの時代の勇者としての俺と出会うことが分かっていたかのような……。
全部最初から決まっていた?
タマちゃんとは本当に偶然出会ったにすぎない。
それすらも女神様にしてみては予定調和だったということか?
悪神を倒すだけの力を付ける為に俺に同行させていた……。
でもそれなら、もっと最初から能力の高い人でも良かったんじゃないの?
猫獣人の血を1%しかひいていない、耳以外はほとんど人間と変わらないタマちゃんじゃなく――
ああ、もしかしたら……。
「タイセイ殿、タイセイ殿」
バックスさんの声で思考の宇宙に旅立っていた俺の意識が呼び戻される。
「え?あ、はい。なんですか?」
「そろそろ行きましょう。日も陰って参りましたので、今日の宿を取らねばなりません」
「そう、ですね。馬車の移動が続いていたので、宿を取るという事を忘れていました」
完全にいつものように野宿するつもりでいたけど、何でせっかく街に着いたのに野宿しなきゃならないんだ。
久しぶりのベッドだー!!
久しぶりの風呂だー!!
「あの……ロリ姫様。そろそろ放してもらえませんか?」
「嫌ですぅ。このまま宿まで行くんですぅ」
ロリ様はうっとりと至福の表情で尻尾を抱きかかえたままで、刺激に耐え続けていたタマちゃんは少し涙目になっていた。
……そんなに触り心地良いんだ。
宿屋に着いたら触らせてもらおうっと。
「久しぶりの屋根のある寝床ですねー!!」
食事が終わって部屋に戻ってくると、勢いよくベッドへとダイブするタマちゃん。
ドン!という固く鈍い音。
スプリングなんて入ってない木のベッドがギシッと音を立てて軋む。
タマちゃん痛くないの?
ダーレ神殿があるせいか、宿屋はどこも満室だったんだけど、街の外れにあったこの宿で運よく2部屋取ることができた。
俺とタマちゃん。隣の部屋はロリ様とバックスさん。
最後までロリ様がタマちゃんとの同室を訴えていたのだけど、バックスさんの警護の都合と、タマちゃんの無言の訴えによって却下された。
「タイセイ様!独り占めは駄目ですよ!」
さっき部屋の前で別れる寸前のロリ様の言葉。
そんなにタマちゃんの尻尾を抱いて寝たいのか?
「おっふとん、おっふとんー」
微妙にテンポのおかしな歌を歌いながらうつ伏せでごろごろと布団の上で転がるタマちゃん。
その背中では9本の尻尾が、これまた嬉しそうに揺れていた。
……あれ、ズボンどうなってんだ?
「目立つよね……」
宿を探して街中を歩いていた時、周りの人たちの視線は全部タマちゃんの尻尾に集中していた。
亜人の多い街とはいえ、さすがに9本も尻尾のある種族はいない。
当然、そんな職業の人もいない。
王女であるロリ様が同行している今は、あまり目立つのは得策とはいえない。
自分からついてきているとはいえど、余計なトラブルで一国の姫様に万が一のことがあったらマズイもんな。
何とかあの尻尾を隠す方法はないかな?
「ねえタマちゃん。その尻尾なんだけど、服の中にしまうことって出来る?」
身体に巻き付けるともこもこな体形になるかもしれないけど、それはそれで防寒対策にもなりそうじゃない?
今は別に寒くないけどさ。
「出来なくはないですけど……どうしてです?」
「その、さすがにそれは目立つというか……」
「ええー!せっかくの尻尾増えたんですから、みんなに見てもらいたいのにー!」
せっかく増えたって何だ?
「いや、見てもらいたくないから言ってるんだけど?」
「ええー。そんなに私の尻尾を他の人に見られなくないんですかぁ?」
ニヤニヤした顔で俺を覗き込んでくるタマちゃん。
間違ってはないけど、合ってもないぞ。
別に尻尾はそういう対象で見るものではないと思う。
「仕方ないですねえ」
やれやれ困ったもんだとでも言いたげな表情でそう言った瞬間、タマちゃんの尻尾は1本を残して消えてしまった。
「ええぇぇぇぇぇぇ!?」
「ふふん。どうです?凄いでしょ?この尻尾出し入れ可能なんですよ」
「出し入れ可能って……」
え?体の中に入っちゃったの?
あのもふもふ8本全部?!
「本当は全部しまえるんですけど、せっかくのもふもふなんで1本は残しておきますね。これで私の猫獣人ハーフ度合いもアップしましたー!!それに――」
タマちゃんは呆然としていた俺の顔を再び覗き込んで――
「これでタイセイさんに置いて行かれなくて済みますね」
こちらがドキッとするような妖艶な笑みを浮かべてそう言った。
『蘇りし勇者の血脈』
ちゃんとその意味を理解してるのね。




