第86話 タマキとマタタビとソレカラ
「それで今後はどうするんですの?」
ロリ様が俺とタマちゃんを交互に見ながらそう言った。
伝説の兵器を丁寧に受け取り拒否した後、俺たちは再び謁見の間に戻った。
王様たちは俺たちが戻ってくるのを待っていてくれたのだが、第二王子は椅子に座ったまま熟睡していた。
よく分かんない話聞かされた上にずっと待たされて退屈だったんだろうね。
「そうですね。とりあえずもう1つの『始まりの3国』のソレカラに行ってみようかと思います」
「――え!?」
「ん?タマちゃん?」
「そうか、タマキは猫獣人と人間のハーフなのだな。それならばソレカラには土地勘があろう」
王様はうんうんとしたり顔で頷いているけど、俺にはどう繋がるのか分からない。
「タマちゃんはソレカラの事に詳しいの?」
「えっと……あの、そうですね……。はい……」
どうにも歯切れが悪い。
「タイセイ様。ソレカラ王国にある『マタタビ』という地方が獣人たちの中でも特に猫獣人たちの多く暮らす地をなっております。ですので、タマキ様もそこのお生まれではないかと」
「へえ。猫獣人の里みたいなもんなんだ。あ、でもタマちゃんみたいに地方へ出てる人もいるんだから、一概に全員がそうってわけじゃないよね」
「えっと……それが……」
「猫獣人は《人では無く家に懐く》という帰巣本能がございまして。マタタビを出た者も、最終的には戻ってくるらしいのです」
「もうそれはただの猫なんよ」
「にゃ、にゃあ……」
「そんな声で鳴いたことないでしょ。じゃあタマちゃんが昔いた村っていうのはソレカラにあるんだ?」
「一応……。はい……」
ああ、これはあれだな。
よくありがちなやつ。
「タマちゃんは村に帰りたくないというか、ソレカラに行って知り合いに会いたくないんだね?」
「――!?どうしてそれを!!タイセイさんは名探偵ですか?!」
あ、そうです。
【称号】「名探偵」もってます。
いやいや、それだけ嫌がってたら誰でもそう思うって。
「タマキ様は村に戻りたくないのですか?」
これはタマちゃんの過去が明かされるイベントだな。
ちゃんとロリ様もテンプレで訊いてくれてる。
「……はい」
多分タマちゃんは猫獣人のハーフとして生まれたのに、その血を1%しか受け継いでいなかったことで、村の中で迫害のようなものを受けていたんだろう。
そして村を飛び出して冒険者になって生きようとした。
「……タイセイさんが言ったように、私は知り合いに会いたくないんです」
もし会ってしまったら、当時の事を思い出してしまうから。
強くなった今でも、幼い頃のトラウマは簡単に消えるものじゃないんだろうな。
「飛んじゃったんで……」
ん?飛んだ?猫が飛んだ?
「借りてたお金返さないまま村から逃げちゃったんです……」
「王家の皆さま!!今すぐにソレカラに向かって出発しますので、これにて失礼いたします!!行くよタマちゃん!!」
「え!?あ、ちょ!ちょっと待って!猫みたいに襟首を掴まないでください!!いやーーー!!帰りたくなーい!!」
借りたものはちゃんと返す。
俺はタマちゃんを引きずりながら、かばんの中に入っていたタマちゃんの全財産の入った布袋を抜き取って自分の鞄へと押し込んだ。
「タイセイさん!それ私のお金―!!」
「違う!これは貸した人のお金だ!!」
王城の入り口で俺たちを見送ってくれるために出てきてくれたロリ様。
そしてその隣にはバックスさんが貴族っぽい恰好で並んでいる。
「本当にバックスさんて貴族だったんですね」
「はははっ!そうですな。このような恰好でタイセイ殿の前に出るのは初めてですからな。一応伯爵家の次男で、家の方は兄が継いでおります。私は一代限りの騎士爵を爵授されて、ロリ姫様の近衛を務めさせていただいております」
「うう……私の……」
「商人の恰好よりも似合ってますよ。あ、鎧を着てロリ様を護っていた姿も良かったですけど」
「タイセイ殿にそう言っていただけるのでしたら、私としても頑張ったかいがあったというものですな」
「お金が……」
タマちゃん、いい加減諦めてね。
借金は俺が責任をもって村の人にちゃんと返すから。
「では、そろそろ参りましょうか」
「あ、そうですね」
ここからだと、馬車でも一か月近い距離にあるという「ソレカラ王国」。
俺たちは王様の好意によって馬車を借してもらえることになった。
――「王家御用達のンバ車でも構わんぞ?」
――「お断りいたします!!」
あのファンキーな御者の運転はもう懲り懲りだ。
今回は壮年のベテラン御者さんがソレカラ王国までの運転をしてくれる。
馬車といっても貴族の乗るような豪華なものではなく、長旅に耐えられるだけの荷物を積み込むことの出来る荷台の大きめの馬車。
乗り合いの旅馬車を少しだけ立派にした感じの馬車だ。
それでも俺とタマちゃんの2人が乗る分には大きすぎるけども。
「じゃあ行ってきますね。また戻ってくることがあれば旅の土産話でもさせてもらいますよ」
俺はロリ様とバックスさんに別れの挨拶をする。
もしかしたら、いや、多分戻ってくることは無いと思う。
あのダンジョンで分かった俺がこの世界に喚ばれた本当の理由。イベント的にはそれを知ることがこの国でも目的だったんだろう。ならもうこの国でやることは何も無いはずだ。
あの兵器を手に入れることもその一つだったかもしれないけど、そこは気にしないでおく。
笑顔で見送ってくれている2人に背を向け、幌の付いた荷台の後ろから乗り込む。
すでに大きめの荷物は御者さんが積んでくれていたので、両脇に設定されている座席に座って手荷物を隣のスペースに置くだけだった。
広すぎるかもと思っていた荷台の中は思っていたよりもちょうど良いくらいの広さで、俺、タマちゃん、ロリ様、バックスさんが座ってちょうど落ち着く感じだった。
そして俺はロリ様とバックスさんを脇に抱えて馬車を降りる。
「何で乗ってくるんですか!!」
ナチュラルに混ざるなよ。
じゃあ出発してくださいって言いかけたじゃないか。
「何でって、それは私たちもタイセイ様にお供する為ですわ」
「我々はパーティではないですか」
「それはあのダンジョンの時だけです!ロリ様だってついてくるのが駄目だってことくらい分かっているでしょう?」
「ええ!?」
「それは最初から全部分かっている人の驚き方です」
「駄目なんですか!?」
タマちゃんのそれは本当に分かっていない人の驚き方です。




