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第84話 勇者と世界の運命

 数日ぶりに見た外界の空は青く澄み渡り、眩しいほどの太陽の光が目に痛かった。


 隣で日光浴をするように大の字で寝転がって気持ちよさそうなタマちゃんとは対照的に、俺の心は重い気持ちで溢れていた。


 突然告げられた勇者という役目。

 もしも最初にこの世界に来た時にそう言われていたのだったら、俺は素直に歓喜していたかもしれない。

 でも、そうじゃなかった。俺はただの巻き込まれ召喚だと思って、大事な役目を本当の勇者だと言われていた3人に丸投げし、部外者のような気持ちでこの世界を無邪気に楽しんでいた。

 そりゃあ死にかけたことだって何度かあった。それでも魔王討伐から免れたという思いが全くなかったというわけではない。

 委員長たちが魔王を討伐して、そして元の世界に帰る時まで気楽にやろうと考えてやってきたんだから。


「タイセイ様……」


 そんな考えが表情に現れていたんだろう。全てを知っているロリ様が心配そうな顔で俺に声をかけてきた。


「うん。大丈夫だから。……嘘、ちょっと不安な気持ちはあるよ」


 12歳の女の子に弱音を吐くなんてみっともないなとは思うけど、今の俺の気持ちを理解してくれるのはロリ様しかいないだろう。


「正直、世界を喰らう神と戦えと言われてもピンとこないし、そんなことが俺に出来るとは思えない……」


 ヴリトラの封印が解ける日は近い。

 アルマーノ様はそう言った。

 すでにある封印をやり直すことは出来ない。

 再びヴリトラがこの世界に顕現した時に倒すしかないのだという。

 お約束通り、神は人間の世界に深く関与することは出来ず、勇者に力を授けて祈るのみらしい。

 神に祈られるって何だよ……。


「タイセイ様お一人ではございません。私もこの身の全てを賭けて、貴方と運命を共にいたします」


 すでに自らの運命を受け入れているロリ様の方が俺よりもよっぽど大人に見える。


「ありがとう……」


 最初にヴリトラを倒し、そして封印した勇者は3人。

 しかし今回神によって召喚された勇者は俺1人。

 俺を召喚するタイミングでタブンナが鈴木さんたちを召喚してしまった為、これ以上異世界からこちらの世界に召喚してしまうと、世界のバランスが崩れてしまい、ヴリトラの封印が解ける前に消滅してしまうのだという。

 マルマールが俺にその事を告げなかった理由は分からない。

 でも、もし聞いていたとしたら、城でステータスを見た時にややこしいことになっていたかもしれない。

 無職認定された俺が、いくら自分が勇者ですなんて言っても信じてもらえなかっただろうから。


 そして俺は勝手気ままに冒険者生活を送り、それなりにチートな能力だということを自覚した。

 それが勇者に与えられた力だと知らずに。


 すでに戦う決意を決めているロリ様。

 彼女はヴリトラの封印が解かれるその日の為に、始祖ともいえる勇者から代々永い年月に渡って蓄え続けた力を受け継ぐ者。

 勇者の子孫であり、過去よりの運命に導かれ、この世界を未来へと導く者。

 他の世界から来た俺なんかより、この幼い少女はよっぽど過酷な運命を背負っている。

 いや、背負わされている。


「でも、ロリ様が危険なことしないで良いように頑張るから。俺が全部終わらせる。だから心配しないで」


 だからこそ、ロリ様が少しでも安心して生きていけるように俺がやらなければならない。

 ロリ様の手を借りなくても、俺一人でもヴリトラを倒せるくらいに強くならなければならない。

 もちろんそんなことにタマちゃんを巻き込むつもりはない。本当に俺一人の力で全てを終わらせなければ……。


 あ、鈴木さんたちが強くなってたら手伝ってもらう予定にはしてるけどね。

 同じ世界の人には遠慮はしないよ?


 この聡明な少女は俺の言葉が強がりだと分かっているんだろう。

 それでも、何も言わずにいてくれた。

 きっと無茶をしてでも力になろうなんて思ってるんだろうな。バックスさんが止めてくれるように後で強く頼んでおかなきゃ。




「じゃあ帰ろうか?久しぶりにちゃんとしたものを食べたいや」


「あ!私はお魚が良いです!新鮮なやつをたくさん!」


「私も妻の作った料理が恋しいですな。たった数日しか口にしていないというのに」


「それだけ大変な数日だったんですよ。バックスさんの活躍をお子さんにも話してあげてください。きっと喜びますから」


「そうですな。うちの子はそういう英雄譚が好きですから。しかしそれで冒険者になるとか言い出したら困りますけど……」


「英雄譚とは大きく出ましたね。ただの冒険者の話でしょう?ああ、バックスさんは騎士でしたね。騎士が姫を護るって話だったら英雄譚と言えるかもしれないですね」


 幼い姫を騎士が凶悪な魔物たちから護るのは物語としてもよくある話だしね。


「いえいえ違いますよ」


 そう言うとバックスさんは俺に顔を近づけて――


「勇者様が世界の運命を賭けて戦う物語です」


 そう耳元で囁いた。


 びっくりしてバックスさんの顔を見ると、小さく片目を瞑ってウインクしていた。


 この人は本当に最後まで読めない人だな。


「タイセイさん!早く帰りましょうよ!魚が逃げちゃいますから!」


「タマキ様。そんなに急がなくても魚は逃げませんよ?」


「だって魚は足が速いっていうじゃないですか!もし逃げてたら捕まえなきゃですよ!」


 その時はもう腐ってるから捕まえたら廃棄しようね。


「じゃあタマちゃんの魚が逃げる前に帰りましょうか」


 そしてこれからのことを考えなきゃいけない。

 やることは分かっている。

 問題は間に合うかどうか。

 ヴリトラの封印が解けるまでに、全てを達成することが出来るかどうか。


 その全ての中には、当然タマちゃんとの別れも入っている。


 きっとその日は遠くないだろう。


「タイセイさん!早く早く!お魚お魚!」


 その時まで、少しでもあの笑顔を覚えていられるように、俺は少しでも彼女の傍にいようと思った。




第5章 駆け抜けて地下迷宮  ―完―




『【称号】「勇者」を獲得しました

 【称号】「アルマーノの加護」を獲得しました

 2つの神の加護を獲得したことにより【称号】「ダービージョッキー」が進化します

 【称号】「ダービージョッキー」は【称号】「マンマールの加護」「アルマーノの加護」の効果によって【称号】「優神ゆうしんいただき」に進化しました


 物語を続けますか?YEN/NO』

 



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