表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

【短編】本日のメインディッシュは、元婚約者とゆるふわ聖女の阿鼻叫喚でございます

作者: サバゴロ

 ずっと私は、短気な元婚約者の言いなりだった。

 旅行を断ると「キャンセルは、宿にも船にも迷惑。金だけ払え」ですって。

 体調不良を伝えても、私の心配なんて一切ない。

 なのに、家のために婿入りしてくださるのだから尽くすべきだと、本気で思い込んでた。


 元婚約者の帰港を待つ港に、聖騎士がいた。

 顔で聖騎士にも聖女の婚約者にも選ばれたって噂なだけあって、凄い美貌───


 突然、聖騎士が目を見開いて驚く!

 視線の先を追って、私も目を疑う!

 聖女が私の元婚約者と、いちゃいちゃ船を降りてきたから。

 さらに驚く!


「聖女様の身体はふわふわで柔らかいんだ」

「やだぁ。もう。きゃっ」


 元婚約者も聖女も、浮気を悪びれもしない!

 私のお金で、元婚約者は聖女と南国バカンスを満喫したのに。

 普通は、慌てふためいたりするんじゃないの?

 謝罪するんじゃないの?

 わぁ。聖女って、頭と身体がゆるゆる────


 怒り、悲しみ、呆れ、悔しさ、惨めさ。

 感情が渦巻き、混乱する。

 親への申し訳なさもある。

 どうしよう。これから私はどうすれば。


「大丈夫ですか? お送りしましょう」


 心配そうに聖騎士は、茫然自失の私を支えてくれた。


「馬車は置いていけ」


 元婚約者は、自分を心配して私に吐き捨てた。

 この瞬間、やっと私は、己の不甲斐なさを自覚する。


 復讐はここから始まった────




 ─────── 晩餐会 ───────


 本日は、四組のカップルの晩餐。

 私の席は、信頼する聖騎士の隣。

 そして正面には、私を捨てた元婚約者。


「みなさぁん。仲良くしてくださいねぇ」


 元婚約者の隣にゆるふわ聖女が座り、微笑みを振りまく。

 よく略奪した私の前で笑えるわ、なんてぼやくのはまだ我慢。

 ええ。仲良くしましょう。本日の主役ですもの。


「聖女様の胸の谷間のルビーは贈り物? 私も持ってるのよ」 

「うふふ。王子殿下が『大好きだよ』ってくださったのぉ」


 王子妃殿下の問いかけに、微笑みを返す聖女。

 なんて清々しい! 礼儀も罪悪感も全くない!


「ぶふぉッ」


 王子が、水を豪快に噴き出してしまう。


 人が多すぎて、ややこしい?

 この晩餐は、聖女の浮気相手を集めたの。女性同伴で。

 整理すると。


 浮気常習犯で隠し子までいる王子と、王子妃殿下。

 ワンチャンあればホイホイついてく教授と、婚約者シラーヌ。

 短気でゲスの極みの私の元婚約者と、ゆるふわ聖女。

 聖女に浮気されまくった聖騎士と、私。


 そんな八人の晩餐。期待が膨らんじゃうわ。

 前菜のホタテとエビのマリネでコース、スタート!


「キャハ。かわいいぃ」


 聖女が両手をパチパチ叩いて喜ぶ。

 鮮やかな盛り付けとはいえ、まあ普通。

 いったい何がかわいいのか、私にはさっぱり。


「聖女様の結婚式はいつ頃ですか?」

 教授と挙式目前のシラーヌが、幸せ満開の微笑みで問いかけた。


「まだ婚約したばっかりでぇ、式の日程は未定なんですぅ」

 聖女が拗ねたように「すぅ」のとこで、口を尖らせる。

 恥ずかしくて私にはできない顔芸。さすがだわ。


「シラーヌは婚約者の浮気を知りたい派?」

「もちろん。でも謙虚で真面目な教授には縁遠い話だけど」


 私はここで爆弾投下!


「あら。さっき聖女様と教授はキスしてたわよ?」


「なんのこと? ねえ。なんのこと!?」


 掴みかからんばかりの形相で、シラーヌは隣の教授に尋ねる。

 教授は震えるほど動揺して、フォークを落としちゃう。

 そんなに小心者なら、なぜ浮気しちゃうのかしら?

 もういっちょ投下!


「聖女様はここにいる男性、四人全員と関係があるのよ?」

 

 私の言葉で、どよめきが起こる!

 うん。心地いいっ!


「こンのォ───ッ、悪女め! 聖女様を貶める気かッ!?」

「あら。疑うなら、聖女様に確認なさって」


 元婚約者は相変わらず短気。王族の御前ですのに。もう。

 ま、今日の私は悪役だから、悪女で正解ですけどね。


「聖女様。嘘ですよね?」

「だってぇ、みんな私を愛してるんだものぉ」

「へ?」


 悪びれない聖女に、元婚約者は言葉を失う。


「聖騎士は未練たらたら。さっき教授はサクランボの唇を食べたいって、ささやいたし。殿下は机の下で足を絡めてくるし?」


 みんなで、バッとテーブルクロスの下を覗く!

 慌てて王子は足を引っ込めた!

 うわぁ──。キモチワルイ。 


「聖女様に罪悪感はないのですか? 私達に謝罪は?」


 シラーヌは目を丸くする。

 わかるわ。

 まさかここまで堂々と自白するなんて、私も想定外。


「謝罪? 私から誘ってないのに? それに恋は罪?」


 聖女はきょとんと首をかしげる。


「なぜ聖女が堂々としてるか、私はわかるわ。落とした異性の数が勲章なの。相手の涙さえ。遊び人を気取る王子殿下と同じよ」

「へッ?」


 王子妃殿下の言葉で、王子の声は裏返り、縦笛並みに高い。


「反省も後悔もないから、殿下は繰り返すのよね?」

「いやッ? 大好きなのは、ふわふわな胸だけだよ?」

「フフ。それが言い訳になると思ってるのが凄いわぁ。聖女の一生を背負う覚悟がある方が、まだましよ。ね?」


「し、知らなかったんだ……」

 元婚約者はうなだれる。


「あら。自分としたゆるふわ聖女よ? 他の男ともするに決まってるじゃない。貞操観念が壊れてるの。中毒よ。一生直らないわ」

「ぐぬっ……」


 運ばれてきたスープは、よく冷えたヴィシソワーズ。

 額に汗が滲む元婚約者には、最適のメニュー。

 うん。甘みもあっておいしい!



「シラーヌ。婚約破棄を考えてます?」

「ええ。もう汚くて気持ち悪くて、教授に触れられませんし」

「関係各所にご迷惑をかけますから、お勧めはしません。長年進めた両家の共同事業も、経済支援も全てご破算でしたのよ?」

「大変だったんですね……」

「いえいえ。私は被害者ですから。加害者は、支援金の返済、事業者への違約金を支払わないと、屋敷を失いますけど──」


「黙れ───ッ! 払うと言ってるだろォッ!」

 短慮な元婚約者は、私の体験談を怒鳴り声で遮った。


「だからさっき借金を頼みに来たのか。貸さないよ」

 富だけはある王子が呆れる。


「僕の金貨一万枚も返せ」

「教授? お金を貸したの? なんて世間知らずで愚かなの!? 浮気までして、結婚なんて絶対しちゃいけない人間だわっ!」


 悲しむシラーヌを無視し、焦った教授はさらに元婚約者を責める。


「早く金返せ!!」

「教授。落ち着いてくれ。聖女様の親が持参金を払うから」

「ちょっとッ! 持参金を借金返済に使ったら、どう生きていけばいいの!?」


 あらあら。形勢逆転。今度は聖女がびっくり仰天。

 まあ、結婚にお金は要りますものね。


「金をとって治療すればいいだろ」

「は!? 『どーもー。金貨一枚でーす』なんて言う聖女いないでしょ? 教会が絶対許さないっ!」


 メイン一つ目の魚料理は、熱々の赤いブイヤベース。

 真っ赤になるほど後悔する元婚約者に、お似合いだわ。

 フフ。美味。



「助けてッ! やっぱり大切なのは聖騎士だわッ!!」


 聖女はガタンと立ち上がり、聖騎士の背後に回り込み、飛びつこうと手を伸ばす。

 が、聖騎士は素早くよける。

 聖女はよろけ、そのままブイヤベースに手を突っ込む。

 聖騎士との婚約中に浮気したのに、よく助けを求められるものだわ。

 なぜ聖女は、今も愛されてると思うのかしら?

 今の恋人の私の気持ちを、考えないのかしら?


「こンのォ───、あばずれがァ──────ッ!!」


 元婚約者が目を血走らせて聖女に怒鳴った!

 なんて心地いい響き! 至高のテノール!


「あばずれだからこそ、結婚前に楽しめたんだろ?」

「聖騎士? なんて酷いことを言うの?」

「俺を助けてくれたことないよね? 何もかもしてもらって当然で。未練どころか、ずっと嫌でたまらなかった」

「嘘よね?」


 聖女はきょとんと驚く。

 もうきょとん顔はお腹いっぱい。


「ゆるふわ聖女と遊んでも、結婚までするやつはいないと諦めてたけどさ。『だってぇ。好きになっちゃったんだもん』と婚約破棄された時は小躍りしたね」

「大切にすると誓ったじゃないッ!!」

「誓いを破りまくったのはだれだ? 俺は、支え合い、お互いに大切にして生きてくれる人を見つけたんだ。もう俺の人生に関わらないでくれ」

「無理よッ! だって聖女の聖騎士なんだからぁ───ッ!」

「あ。辞めるから。俺、婿入りするんだ」

「へっ?」


 だから、きょとん顔はもういいってば。

 下に見られ、裏切られ続けた聖騎士を守るのは私よ。

 だれ一人、自分を守る気がないと理解すると、聖女はそそくさ逃げ出した。

 まぁ、ブイヤベースで手が汚れたしね。


 メイン二品目は肉料理。

 こんがり炙った皮が食欲をそそる、若鳥のポアレ。

 全身に鳥肌の元婚約者と聖女こそ楽しんで欲しい。

 うん。皮はパリッと香ばしく、お肉はジューシー!

 味わってると、元婚約者がちらちら私を盗み見る。


「あら。まだいたの?」

「聖女にそそのかされたんだ。俺は悪くない。俺たち上手くやってきたろ? 楽しい想い出もいっぱいあるだろ?」

「よくもまぁ。ゆるふわ聖女とどうなろうと、どうでもいいわ。だって私には、強くて、誠実で、優しい聖騎士がいるもの」

「ぐぬぬ……」

「ほら。聖女を追わないと。ほっとくと他の男性の子を身ごもっちゃうかもよ。急いで」


 しぶしぶ立ち上がり、元婚約者は聖女を追い駆けた。

 そして、並んだデザートはクレームブリュレ。


「フフ。ホントお似合い。罪悪感皆無で、自分本位で」


 グサッ!!

 マナーがよいはずの王子妃殿下が、クレームブリュレの表面のキャラメルに、苛立ちをぶつけるように思いっきりスプーンを刺す。



「教授。婚約解消でよろしいわね? あんな女に下に見られるなんて屈辱、もう御免だわ」


 キリッと顔を引き締めたシラーヌは、教授に確認。


「たった一度の過ちじゃないか。許してくれ。シラーヌ」

「嘘つきなさいな。慣れてなきゃ、サクランボの唇なんて言わないし、私のエスコート中に他の女とキスしないわよ」

「ぐぬっ」

「もう式の案内は送ったんだから、謝罪して回ってね。少しは世間に揉まれた方が、大人になれるわよ」

「……はい」

「認めたわね? 証人もいる、もう婚約解消は覆せないわよ?」

「はい……」

「ほら。とっととお行きなさい!」



 王子妃殿下は、まだザクザク憎しみを込めキャラメルを割る。

 飴色のかけらが粉になりそう。

 その様子を隣で浮気王子は心配そうに見つめる。


「すまなかった。二度と浮気をしないから」

「していいわ。その代わり浮気する度、鉱山を三つ頂戴」

「ああ。かまわない」

「では書面に残し、陛下のサインを頂きましょう。ダイヤモンドとルビーと金。もう鉱山は決めてるの。お先に失礼するわね」


 王子夫妻は仲良く去っていった。

 王子妃殿下には、どんどん鉱山を奪って欲しい。



「大丈夫だった? 君が傷つく顔はもう見たくないんだ」


 美しい聖騎士が私をじっと見つめる。

 クレームブリュレは、ほろ苦くて甘い。大好きなの。


「あらあら。すごい溺愛っぷりね」

「あんな聖女から解放してくれたんだよ? そりゃ愛しいよ」

「まあね──。少しも自分が悪いと思ってなかったもんね」


 シラーヌは、思い返し呆れた。

 そう、聖騎士を解放したのは私。


 港で、私は切り替えて、前を向いた!

 元婚約者が聖女とアバンチュールで終わらず、しっかり婚約するよう唆した。


「聖女様の配偶者は王族と並ぶ地位となる」

「神殿の頂点に立つのは聖女様」

「一日の寄付金で高級馬車が買える」

「聖女様の実家は大富豪。質素倹約で貯めこんでる」


 嘘八百の聖女の魅力を、召し使いまで総動員で元婚約者に吹き込んだ。

 そりゃ、我が家も憤慨してるもの。


「なんて魅力的なんだ!」


 思慮が浅い元婚約者はすっかり信じちゃって。

 有頂天で我が家に有利な条件で婚約破棄したわ!

 だから「愛されないのは、魅力がないお前が悪い」と婚約破棄されても、平気!

 むしろ作戦の称賛に聞こえちゃう。



「今、幸せ?」

 シラーヌは私に尋ねた。


「ええ。とても」

「私も早く幸せ見つけよっと。婚約解消の協力ありがとう!」


 実は、この晩餐を企画したのはシラーヌ。


「教授は、ワンチャンあればホイホイついてっちゃう地味男。けど頭が回る。言い逃れさせずに、確実に婚約解消するため、協力してください」

「王子は浮気の常習犯。隠し子までいる。離婚後に困らないように、私も財源を奪えるだけ奪いたいわ」

 と、王子妃殿下も賛同。


「私も、元婚約者とゆるふわ聖女の阿鼻叫喚を見たいです」

 もちろん私も賛成で、嫌味な悪役を演じた。




「シラーヌの何も知らない令嬢のふりは、見事だったわ」

「大成功ね。女はね、計画的で賢いの。浮気はわかるのよ」


 苦いエスプレッソを、シラーヌは一口で飲み干した───




 ─────── 結婚式 ───────


 今日は、聖騎士と私の結婚式。


「おめでとう! 幸せそうね」

「王子妃殿下も」

「フフ。今は鉱山を九つ所有してるの。離婚調停は来月かな」

「九つ!?」

「喜んで王子を誘惑する子は多いもの。簡単だったわ」


 王子妃殿下は、にっこにこ。


「新しい婚約者よ。王子妃殿下の弟なの」

「まぁ。お幸せに。教授は?」

「女生徒の保護者からクレームが多くてね、職を失ったわ。破談理由を『サクランボの唇』まで正確に私が説明してまわったから」


 シラーヌも、にっこにこ。


 聖女はね、教会から外出禁止。

 元婚約者は牢獄にいる───


 聖女の治癒で秘密裏に大金を稼いで、国中が大騒ぎになっちゃって。

「俺たちはやりなおせる。助けてください」

「甘えてしまっただけなんだ。助けて欲しい」

「大切なのはたった一人だった。助けて」

 なんて手紙が、元婚約者から届いたけど、もう二度と会う気はない。


 フフ。ざまぁ。 

お読み頂きありがとうございました!

もし面白いと思って頂けましたら

下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願い致します。

面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直なご感想を頂けると、めちゃめちゃ喜びます!

ブックマークして頂けると励みになります!

どうぞ、よろしくお願い致します!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
面白かったです。 何だかんだ聖女含めて女性陣みんな逞しい。 個人的に『シラーヌは地球外生命体でも発見したかのように驚愕する』のところが気になったかな。 え、地球?みたいな… 
 うん、凄い。何が凄いって、こんな修羅場で食べる飯を『美味い!』と言い切れる所まで悟ってしまった主人公の開き直りっぷりが凄い(^▽^;)。  多分、私には無理。他人事だと分かっていても不味く感じる。 …
うわぁ(ドン引き) うへぇ(ドン引き) ↑が掛け値なしの褒め言葉になってしまう稀有なコメディ、ごちそうさまでした♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ