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火の正しい使い方

皆はしっているだろうか。

火はどんなに激しく燃え上がろうとも音がしないことに。


漫画のように、轟音とともに周りを全て消し飛ばしてしまえれば。

そうすれば多少なれど自分の劣等感は消え失せたのだろうか。







業風の吹き荒れる風の音と周囲の草木がパチパチと燃える音だけが

周囲を包んでいた。


都合家一軒分程度だろうか。

指定された範囲内に爆炎を発生させたが

そのための触媒に利用した指輪は凄まじい熱さをもって俺を苦しめた。


「アチチチチッッッ!指が焼けるっ!」


その瞬間、無理やり手を掴まれて指をバケツの中に突っ込まれた。

中にはキンキンに冷えた水が入っており、指輪はジュッ!っという音を立てて

急速に冷えていった。


「いや冷たっ!」

「贅沢言うな、指と指輪を癒着させて呪の装備として一生はめておくつもりか?」


爺さんはそのまま俺にバケツを渡し、あたり一面を眺めている。


キンキンに冷えた冷水は、手にはめた指輪の熱を溶かしていく。

俺は冷えてきた指輪を抜くと、その指輪を眺める。

その指輪には火の威力を増加する文様が描かれている。


「やっぱり駄目だわ、流石に手の近くにずっと火元があるのは普通に熱すぎてしんどい」


そういい俺は白髪交じりの金髪の爺さんを見ていった。


「わしは最初から言ったはずだぞ、無理だろうと」


言い返す黄色みのかかった爺さんの目は鋭い。

老いてますます盛んとでも言わんばかりである。


こちらの目を見たまま爺さんは近場の切り株に腰を下ろすと

手に持っていた杖を主張するかのようにこちらに見せていった。


「どうしても大出力を維持したいならやはり杖じゃろうな」


杖……自分でも何度も行き着いた結論ではある。

しかし杖だと駄目である問題と

杖では解消しない問題があった。



杖ではだめな理由は簡潔である。

現代において杖などついているのはこの偏屈なおっさんと

足腰の悪いじいさんぐらいなもので

俺の年代で杖を使ってるものなどいないのだ。


要するに「ダサい」のだ。

ダサいだけならまだいい、日常的に持ち運ぶのにも不便だ。


そして杖では解消しない問題として耐久力の問題がある。

俺の使う魔法は炎だ。

瞬間的に炎を出す制御ができないわけではない。

だが炎は爆発ではない。あくまで炎なのである。

大抵の場合一瞬だけ出せば期待の結果が出るわけではない。

ともなれば持続性が大事となる。


そもそも論としてもはや魔法用の杖が廃れている時代であるのもあるが

それなりの魔法用の杖ともなればなかなかの高級品である上

火に対する耐性の高い杖などという需要はほぼないのである。

つまり物がない。


ともすれば材質で考慮することも考えたが木製は論外だ。

数秒もすると先端は黒焦げた。

かといって金属製も問題だ。

燃える心配はない。だが杖自体が高温を持ってしまう。

持っていられないのである。



そんな調子で考え込む俺に対して爺さんは言う。


「お前は一体何になりたいのだ」

相変わらず顔に刻まれたシワの数々をまるで感じさせない鋭い目線で

爺さんは俺に問いかけてくる。


「別に何かになりたいわけじゃない、ただこれしか……」

……。

「俺にはただこれしか無いだけです」


身体能力は極めて平凡、頭もあまりめぐりがいいほうではない。

ただ2つだけ人より優れていることがあった。


ーー一つは何故か俺は別の世界の記憶を持っていることだった。

その世界はこの世界より遥かに文明が進化しており

機械などといった工学が進んでいたことである。

しかし残念ながら俺がどこのどういったものだったのか詳しい記憶は殆ど無い。

ただ物心ついた頃からこの世界とは違う常識が自分にはあったのだ。


ーー2つに俺はこの世界で唯一得意とするのがこの火炎魔法であるということである。

この世界では得意とする魔法の系統は身体的特徴に出る。

まるでそれを象徴するかのように俺の瞳は赤く、髪の毛も赤黒い。


一見するとこの2つはチグハグで全く役に立たないかのようだがそうではない。

この世界の魔法はひどく不自由だ。

細かく言えばきりが無いが、俺のことに限って言えば

「燃えないと思い込んでいるものは絶対に燃えない」

「本当に燃えないものも当然ながら絶対燃えない」


ちなみに何故一つ目が重要かといえばこの世界の住人は「空気」は燃えないと思っている。

炎が宙を舞う事は理解していてもそれはあくまでも発生源が起こしているものと理解している。

燃焼のメカニズムは俺も詳しくわかってるわけではないが燃えるためには「酸素」とやらが

必要だということを理解している俺は、この世界の住人にはできない

一見すると「無」から火を生成することができるのだ。


この事はさぞすごいこととしてアピールできるのではないか。

子供心に思ったことがあるのだが現実は厳しい。


そもそもこの世界は魔法と科学が共存している世界である。

よって工学的にできることは軽んじられる世界であり

どちらかといえば水や風、雷などの特性は工学との親和性が高く

評価が高いのだが火に関しては使用用途が狭く

むしろ火災などのリスクが高く火の才覚を持つものはただの人。

もっと言えばむやみに火を使おうとするものなどただの危険人物なのである。


無から炎を生み出した俺を忌み子のようにみた母親の顔はいまだに忘れない。

両親と離れて暮らしている今でもその事は脳裏に焼き付いている。




「俺はただ俺という人間が必死に生きてることを証明したいだけです!」


そういうと爺さんは小馬鹿にするかのように笑うと

私に近づいてきて……まるで怒りをぶつけるかのように片手で頬を潰すかのように

首を鷲掴みにしてきた。


恐ろしく強い力だ……外観から60は過ぎてると思われる爺さんの力とは思えない。

苦しい……最初はやめてくれと軽く手を叩いていたが

爺さんはますます力を込めてくるので、思わず俺は全力で爺さんの手を思いっきり叩いて

払い除けた。


全力で手を叩いてしまった。しかし爺さんは痛そうな素振りすら見せなかった。


「ガキが生意気なことをいいおって……いいか、必死に生きるということはそういうことだ」


相変わらず鋭い眼光を覗かせながら爺さんは続ける。


「生き長らえるためにはそうやって全力を出す。少なくともわしが行きていた時代はそうだった」


人類史上最後の『大遠征』を生き延び、その後30年にわたる平和を維持するべく

この『鎌倉』に広大な魔法工学による魔法障壁を作り上げた最大の功労者。

東五郎その人がいう言葉の重さを感じずにはいられない。


「お前の事情についてはわかっている。ならばお前は証明せねばならない」


とても爺さんとは思えない、心の中まで射抜くような眼は回答を黙って待っていた。


「わかりました、何かしらの魔道具を運用したいとは考えてます。

 しかし実際問題として杖は杖で耐久面での問題がどうしても……」


「わかっておる、ついてこい」


そういうとキビキビと爺さんは動き出し、まるで無視してるかのように

さっさとどんどん歩いていってしまう。


俺はおいていかれないように、渡されたバケツを担ぎながら追いかけていくのであった。





先程いた場所から30分は歩いただろうか。

一見外見は木造のボロい一軒家だが、全体に何やら魔導具による工作が施されている。

爺さんはドアノブに手を当てて1秒ほど経ってからドアノブを回しドアを開けた。

ドアノブに鍵はついていないようだった。


俺は黙ってついていき、ドアを閉じようとドアノブを掴むと

凄まじいしびれのようなものが手から全身に流れてびっくりした。

軽く痛みまで感じるほどであったが時間とともに感覚はおさまっていった。


「あぁすまん、それにはちょっと防犯用の細工がしてあってな

 一応解除はしたが解除したてでまだ少し電気が残っておったか」


……全く感電死でもするかとおもったが、爺さんは何食わぬ顔で更に部屋の床を

持っていた杖で不規則に何度もつついていた。


まるで何かのリズム化のような感覚。

すると「ガチャ……」という音とともに急にそこに扉が現れ

それをよっこらせと爺さんは開けると、そこは地下への通路がつながっていた。




地下に行くとそこはまるでロッカールームかのようにひたすらロッカーが並んでいた。

表のボロ家からは想像がつかないほど幅は広くはないが長く続いている。


地下室であるその部屋にはおそらく魔道具であろう半永久式の電球がズラッと並んでいる。

スタスタと歩いていく爺さんに俺は黙ってついていくと

あるロッカーの前に止まった。


それぞれのロッカーには何やら漢字で色々書いてあるのだが

爺さんの書いた文字なのかわからないが達筆すぎて逆に読めない。


爺さんは家を開けたときと同じように1秒ほどおいてからロッカーを開けた。

するとロッカーの中には数本の杖?らしきものが入っていた。

その中の一本を突然放おって俺によこした。


「何この杖……どうなってんだよこれ」


少なくとも常識的な杖の構造ではない。

杖の先端はおそらく何らかの金属でできているがあまりに形状が異質だ。

杖の先端にはおおよそ10cmほどであろうか、ある程度の厚みのある金属板が

放射状を描くように等間隔に取り付けられており、そこから下は木製の長い柄がついている

といった感じだ。


「わしが若い頃、お主と同じ炎使いの者がおってな。そのものが愛用していた」


別の世界の知識の中でヒートシンクという言葉が頭に思い浮かんだ。

……この杖、放熱板が付いてるってわけか。

この杖の使い手は炎の性質をよく理解している。


金属板の厚みなどは折れたり歪んだりしない程度には厚みがあり頑強である。

力を持って押し込んだりしてみても歪んだりはしない。


「それをやる。 お前と同じようにそいつは炎を自在に操ってた。

 もし使いこなせなかったら返せよ」

「わかりました、使いこなせるように練習してみます」

「ふん……まぁせいぜい頑張れ」


そういうとさっさと爺さんはドアを締めてでていこうとするので慌ててついて行った。


その後は一階に戻ったため、じっくりと杖を観察しようかと思ったのだが

今日はもう気分じゃないから帰れ、といわれ半ば強引に突き出されてしまった。




……仕方ない、今日はもう帰るか。


そう思う反面、足は先程の広場に向いていた。

道中、歩きながらも杖の形状をつぶさに観察していた。


先端の金属部分には魔導工学が施してあり

炎に対して指向性をもたせるようにしてある。

簡単に言うと逆流して手元が燃える心配がないということである。

ただ俺は炎を扱うこと以外への適性が著しく低い

この工夫はあまり意味をなさないかもしれない。


また木材の持ち手部分は真っ黒になっているのだが

炭化して黒くなっているわけではない。

むしろ長年使用されたうえで、手垢で黒くなっているのだ。

元の使用者が如何に鍛錬に励んだか、大して年も行ってない俺でも分かるほどである。

木製部分にも特殊な文様が刻まれており、どうやら木材中の水分が常時出ては取り込むという

激しい『呼吸』をしているような状態であることがわかった。

これについても同様であり、基本機能以上の能力を俺が発揮するのは難しい。

それでもついていないよりはマシな機能である。


どおりでなのだが……この杖はただでさえ長いのに重い。激しく重い。

そもそも杖自体の長さが軽く2m弱はあるのだが、重量にして1kg程度はあるだろうか。

当然ながら先端部分が特に重い。

だが柄の部分である木製部分も水分を多く含んでいるせいかかなり重く感じる。


俺はこれを「文字通り」杖にして目的地まで歩いた。

既に日暮か近づきつつある。

空は夕焼け空なりつつある、明日は雨だろうか。




先ほど試しに炎を展開した場所。

寸分たがわぬ場所に立った俺は杖を構えた。


イメージするのは空気が燃える姿。

それを杖の先端に集中するのである。

この長い杖を両手で消防車のホースを構えるかのようにまっすぐ正面に構える。

そして杖から力を通すかのようにイメージして火を付けると……



バフゥン!!!


強烈な唸り声のような強風の音とともに凄まじい爆炎が杖の先端から吐き出されている。

しかし炎とともに熱風も杖の先端方向に放出されていくためこちらには熱くないわけではないが

熱風がほとばしるていどに感じる。


両手は瞬間的に握りしめた。

元々重量があるため握りしめていたが強烈な熱風のせいで杖が激しく暴れそうになる。

変に動かせばあたり一面を焼け野原にしてしまいそうだ。


先程の5倍は広範囲に炎をばらまいている。


改めてぐっと握りしめたまま俺は更に全体を燃やそうとイメージを膨らませていくと

とうとう自分の体が浮くような、足に踏ん張りが効かなくなってきた。


流石にまずいと思い、慌てて止めると、ピタリと炎は止まった。

杖の先端の金属部分は湯気が立ったかのように揺らいでおり、

金属との接合部分の木材部からはジュワーという音がしている。




この日、俺はとうとう自分の魔法を思い通りに使いこなす術を手に入れたのである。


この世界の「大切な物」と引き換えにである。






ーー今朝の一番のニュースです。昨日巨大な魔法反応と共に魔法障壁の一部部分が

損壊する事件が発生しました。国はこの自体を受け……





非常にまずいことになった。

どうやら昨日の夕方俺が「やらかした」出来事は

この国の周りを幾重にもわたって防衛している魔法障壁に影響を与え

その一部機能が停止している……らしい。



幸いなことにこの世界ではビデオカメラなどというものは存在しない。

誰が何をしたかはバレていない……と思う。

ただこの昨今ではそもそも膨大な魔法を行使するようなことは

特定の施設以外を除くとほとんど考えられないことなのだ。


心当たりがある自分としては胃が痛いわけである。


学校には既に速報用に使用されるラジオで皆の話題はこれに持ちきりである。

いつも学校にはそれなりの時間で通学している俺だが

今日は早朝に役所からもこの放送が行われたせいか

いつもより早く通学しているものが多く、ざわついていた。


俺は何食わぬ顔をしつつ席に座り、なるべく平静を保とうとしていた。

正直いつ自分の仕業と紛糾されるか内心ビクついている。

……いやよくよく考えれば確かに俺は巨大な魔法の行使を行ったが

それがそのことと結びついているとまだ決まったわけではない。


「よ、おはようさん、……辛気臭い顔してんなぁ」


などと日和った考えをしていた所に突然声をかけられた。


「……お前は元気そうだな、勘助」

「そりゃー退屈で仕方ないこの学園生活においてなかなかないビックニュースだしな」


そういう彼の眼はこころなしか輝いて見えた。

お調子者の彼らしい反応である。

「知っているかい健一、魔法障壁の外の世界のことを」


魔法障壁……人類の英知と魔法の産物である、所謂結界である。

その範囲は最大で関東圏を覆うほどであるが

出力と効果範囲は当然ながら反比例する。


俺のドコとも知らない世界では日本はどこにいっても平和で

せいぜい危ないものは動物で言えばクマとかヘビとかその程度のものらしいんだが

この世界は残念ながらそんなに安全なものではない。


どこぞのゲームの世界よろしくよわそーなスライムからはじまって果にはドラゴンまでが

闊歩するのが俺達の住んでいる世界だ。

弱そーといったがスライムは物理攻撃が殆ど効かない厄介な生物で

おまけに生息範囲が広く、飛びつかれたりすると強力な溶解性をもった液体の体で

こちらの体まで溶かされるおぞましい生物だ。

ましてやドラゴンなど絶対にお会いしたくない類のものだが

流石にドラゴンはめったにお目にかかることはない。

というか俺達の世代では本に絵が書いてあるか、投映魔法によって映し出されたものぐらいだろう。


「知ってるっちゃー知ってるけど俺達にとっちゃ別世界もいいところだろ?」

「まぁ別世界といえば別世界だな……」


勘助はニヤニヤしながら言った。

「興味ないか?」

「興味がないかと言われれば……特別あるってほどでもないけどなぁ?ってお前まさか」


魔法障壁とは読んで字のごとく「壁」である


基本的に外に出ることはなく、また出る必要がないため

我々は外に出ることはできないのである。

その御蔭で外部からの脅威から排除された生活を送っているわけなのだが……。


魔法障壁に問題が生じている今、ある意味そこは通過できる状態にあるといえる。


「そりゃこのビックウェーブ、乗るしかないっしょ!」

「お前なぁ……下手すりゃ死ぬぞ?」

「何言ってるんだ、男子たるもの、一度は冒険に出るべきーー」


バシャー!

「お前らうるさいぞ、静かにしろー! 今から出欠を取るぞ」


俺はさっさと解散しろと言わんばかりに勘助にしっしと片手で合図をすると

あいつはニヤケ顔で全く諦めてない様子で去っていった。


先生は教団の上に立つと話し始めた。

「既に今朝の役所からの通達でも知れ渡ってる通り魔法障壁に問題が発生した。

 現在、国の調査団が周辺の調査を行っているようだ。

 大きな危険はないだろうと推測されているが、万が一ということもある。

 決して近づくことのないように!」


そういうと先生はいつものように授業を始めた。

まるでいつもの日常の繰り返し。

そう、いつもの日々が繰り返される。




ーーお昼休み。

俺は適当におにぎりを弁当箱から取り出して頬張ろうとすると

近くにある椅子をガラガラと音を立てながら引っ張ってきて俺の目の前に座る勘助。


「魔法障壁のところなら俺はいかないぞ」

「なんだよ……臆病者かぁ?」


嫌な言い方をする。

勘助は俺に対して友好的だが見下してくる所がある。

たっぱは俺のほうが少し高いがこいつは運動神経抜群で

地味に頭もいい。おまけに魔道戦闘訓練では男子で一番だ。

ちなみに魔法を使った訓練はないので俺自身は下から数えたほうが早い。


「臆病とかそういう問題じゃないだろ、バレたらどうするんだよ」


すると勘助は耳元に近づいてきていった。


「バレなきゃいいんだよ……な?お前も興味あるだろ?」

といいながら学食の焼きそばパンを取り出した。


「話に乗ってくれるならこれをタダで譲ってやらないこともないぞ?」


くっ……焼きそばパン。

背伸びして親元を離れてバイトだけで食いつないでる俺にはあまりに大きい。

昼食は基本的に塩むすびしかない俺にはあまりにデカい……。


「そんな誘いには乗らねぇぞ!」


といいつつ俺は焼きそばパンを掴んでしまっていた。


「じゃ、やっぱいくということで」


勘助のニヤケズラがムカつく。

がそれ以上に自身の貧しさが憎い。




とそんなところに2オクターブほど違う声色が混ざった。


「あなた達……面白そうな話ししてる……」


そこには先程まで姿形すらなかった少女が立っていた。


「お、虹村、お前も気になるのか?!」


お、じゃねぇよ。

お前女子まで巻き込むつもりじゃねえだろうな。


しかし虹村はどうやらこの話に興味津々らしい。


「魔法障壁の外……私も興味があるわ」

「やっぱそうだよなぁ、一緒に行こうぜぇ」


おいおいマジかよ……。


「待て待て、流石に女子まで連れてくのはやべーだろ、何考えてるんだ」


とここでどうせ勘助の言い訳が来ると思っていたが以外にも反発してきたのは

虹村だった。


「緋山くん……魔道戦闘何級?」


魔導戦闘とは平たく言うとモンスターとの戦闘知識およびその戦闘技能の

検定であり、初段以上は有段者の指導対戦を経て段位を受ける必要がある。


……魔法以外からっきしの俺は当然ながらお察しである。

「1級だよ文句あるかよ」

「まぁ健一だしな、ちなみに俺は最近2段になった」


正直2段はすごい。俺達の年齢ではほぼ最速ペースでとらないと2段にはなれない。

「私も……2段……。来年……3段受ける予定……」

「3段てまじかよ……俺達の中で一番強いやん」


冗談抜きで今の年齢で3段候補は化物である。

「まぁでも……緋山くん……私より火の魔法上手……きっと大丈夫」

「緋山が? こいつ火起こすぐらいしかできないぞ?

 最も俺は魔法はからっきし駄目だけどなーはははー」


まぁ正直お世辞なんだろう。

なにせこの虹村カンナ、この学校で知らぬものがいないほどである。

5大元素すべてを使える虹村家のご令嬢であり

その特異体質からくる白、水色、ピンクの入り混じった髪型に

虹色の瞳を持つ彼女はドコにいても目立つ存在である。


ただ掴みどころのないこの彼女……

本当に連れて行って大丈夫なのだろうか?

しかしふたりとももう行く気満々だし逆にほっぽらかしにするほうが危ないのかもしれない。

なにせ戦力は素晴らしいが常識が皆無である。


俺は仕方なく保護者のような気分で彼らについていくことにしたのであった。





時間は流れて放課後。

それぞれ色々準備をしてからということで

一応皆それぞれ準備をして学校に再集合ということになった。


それぞれ二人は伸縮式の短槍を装備していた。

これは構造上はさほど強くないのだが多層構造にして実際に使うときは

長く伸ばして槍として使える魔導戦闘における基本武具である。

強度も折りたたみとはいえそれなりに高く、それぞれがもつ魔法の素質である

魔力源を流し込めばその属性の付与された攻撃ができる優れモノだ。


そして俺はといえば……爺さんに譲ってもらった杖を持ってきたわけなのだが。


「お前まじかよ、いくらなんでもそんな鈍器振り回すつもりかよ」


勘助にはあまりの形状の異質さから鈍器に見えたらしい。

実際鈍器として殴ってもそれなりの威力は担保されそうではあるが……。


「……黒田くん……多分それ杖……」

「杖ぇ? この形状で?」


半笑いでバカにしている勘助と虹村で反応は対象的である。


「形状はよくわからない……でも文様に……魔法の指向性を示すものが記載されてる……」

「まぁ力もないこいつが鈍器で戦おうと考えてないだけで良しとしておくわ」


相変わらず失礼なやつである。


「しかしこれから現地までどうやって向かうよ?

 軽く20kmぐらいはあるか? 仮に交通機関を使ったとしても

 途中で足止めくらいそうだし」


すると虹村は校門の外を指さしていった。


「自宅から……車……借りてきた」


たしかにワゴン車のような車が一台止まっている。

車とかまじかよ、正直バス以外に乗るのは初めてだぞ。

当たり前だがこの世界で乗り物は希少である。


早速三人で車の傍まで行くと中には運転手が乗っている。

当たり前か、俺達では車は運転できない。

いいのかなと躊躇したが、虹村は我かんせずといった具合に

ドアを開けてワゴン車の助手席に乗った。


「みんなは……後ろの席……」


黙って俺と勘助は後ろのドアを開けて乗り込んだ。

運転席には背広を着た壮年の男性が座っている。


「魔法障壁の問題の所まで……」


虹村は喫茶店にでも行くかのような気軽さで言っているが

こちらからも運転手の困惑が伝わってくる。

しかしどうにも口答えも赦されない関係性のようだ。

ただただ無言を回答とするように沈黙を保つ運転手に対して


「……行けるところまででいい……あとは歩くから」


そう言われると覚悟を決めたかのように運転手は車を発進させるのであった。





そいして大体1時間ぐらい立っただろうか。

時刻は3時をすぎたあたりである。


「日が落ちるまでには戻ります……もしそれでも戻らなかったら……」

「いえいえお嬢様、戻るまでこちらに」

「いえ……その場合全員が遭難する可能性があります……一度家に戻ってください」

「了解いたしました、どうかご無事で」


日が落ちるまでか……最近は日が落ちるのも早くなった。

6時ぐらいまでにはもどってこないとだな。

ぜんまい式の時計を確認すると車の中から杖を取り出した。


そこからは徒歩である。

とはいってもだいぶ車で近くまで来ていたため関所となってる場所までは

簡単にたどり着いた。


結構な範囲に穴が空いているようだ。

大体100mあたりに一人単位で衛兵が立っていた。


「……これは流石に通り抜けは無理だな」

「うーん流石に人が多いなぁ」

「……どうにかこの人たちをどけましょう」


明らかに一人だけ心臓に毛が生えてるのかってぐらい図太いやつがいる。

これが天上天下唯我独尊というやつなのだろうか。

俺はもう割と満足したから帰ろうぜという気分なのだが……。


虹村はどこからか探してきたのかわからない、大きさは人間よりデカいサイズだろうか

まるで車ぐらいのサイズの石を手の上で浮かべていた。

それをまるでひょいっと持ち上げると障壁の遥か彼方に放り投げたのだ!


凄まじい勢いですっとんでいった岩はどこかで着地したのか、障壁の奥から凄まじい轟音がした。

あまりの轟音にあたりの衛兵たちはざわつき始めた。

そしてしばらくするとあたりの衛兵たちは急に何処かに移動し始めたのだ。


「持ち場を離れてどっか言っちまったな」

「……多分、音から想定して……巨大生物の襲撃に備えて集合……」


そういいつつ虹村は躊躇なく障壁の側へはしっていく。


「おい健一……虹村ってこんなに怖いもの知らずのやつだったのか?」

「さぁ……俺もほとんど喋ったことないからなぁ……」


実際虹村は外見が目立つやつではあるがそれ故に高嶺の花というわけでもないが

女子ですら近寄りがたいオーラがあるやつなので

正直こんなに喋るやつだとも思ってなかったほどだ。


「まぁでもここで女一人いかせてなんかありゃえらいことになっちまうわけだし」

「……はぁ、いくしかねぇかぁ」


俺は杖をぎゅっと握りしめて一気に虹村に追いつこうと駆け出した。

遅れずと勘助も駆け出していた。





かなりの勢いで突き進む虹村に必死で食らいつく勘助と

徐々に遅れていく俺の構図になってしまった。

体力の無さももちろんあるが、杖が重いのだ。


走り始めて5分過ぎただろうか。


「……檜山君……速度……」

遅れてるのはわかってるんだがずっと全力疾走はかなり辛い。

「……ごめんもう無理……頼むから止まってくれ……」

すると虹村はピタッと止まりこちらに戻ってきた。

勘助もなんだかんだで肩で息をしていた。


「……多分……このぐらい離れてれば……バレない……けど」

彼女は空を見上げた。

もうだいぶ日が暮れてきていたのである。

割と車から降りてあっという間だと思っていたのだが

思った以上に日暮が早い。

時計に目をやると四時過ぎを差していた。

検問突破で様子をうかがうだけで相当時間を費やしていたようだ。


「虹村済まない、帰りのことを考えるとこれ以上進むのは難しいかも……」

情けないことに体力に関しては全く自信がない。

これ以上進んでしまうと帰宅が難しくなってしまうのは明白だった。

「わかった……ここらへんで休憩がてら散策して……しばらくしたら戻りましょう」

「えらいなんか手慣れてるな……健一ほどじゃないにしても俺もクタクタだわ」


一方の虹村はといえば汗一つかかずに制服姿でひょこひょこ歩いている。

本当に同じ人間かと疑いたくなる。


そんなふうに彼女を眺めてると、突如彼女が猛スピードでこちらに戻ってきて言った。

「立って! 一緒に走って!」

走る?!

また走るのかよおおおお!となりつつも彼女にすごい力で引っ張られて

俺も勘助も一緒になってすぐ近くの大きな岩場の影まで引きずられるようにはしった。

彼女はそこで息を潜めるように隠れるので自分たちもそれに習ってしゃがみ込んだ


「……はぁ……はぁ……今度は一体何だよ」

「……デカいの……でた」


一気に場に緊張感がはしった。

俺と勘助は岩越しに様子を見るとそこには体長三メートルもありそうな巨大なクマが

何かを嗅ぎ回るかのようにしてウロウロしていた。


「うわ何だあれ……ヒグマとかいうやつか?」

勘助が言う。

俺も熊を野生で見るのは初めてだったがとてもデカい。

しかし。


「……違う、『アレ』じゃない」

彼女がそういった一瞬の出来事だった。


次の瞬間クマはドコかに消え去り。





そこにはクマのサイズを遥かに超えた大蛇が下をだして様子をうかがっていた。


俺は思わず声を上げそうになって自分で口を抑えた。

流石に杖を握る両手に冷や汗が滲んだ。

心臓の鼓動が聞こえるぐらいバクバクしている。


隣を見ると勘助も額から汗が流れ出ていた。

しかし勘助は俺より些か冷静だったのかその手には短槍が握られている。


虹村は?

ふと除けば彼女に至っては既に短槍を伸ばし、臨戦態勢に移っていた。

しかしその顔には先程までのボーっとした面持ちがない。

それだけヤバいっていうことだろう。


「みんなそのまま動かないで。ヘビ、そんなに目が良くない。

 におい敏感だけど、うまく行けばこのままいなくなるかも」


声のトーンから余裕がないのを感じる。

しかし虹村の言い分ではうまく行けばこのままおさらばしてくれるかもしれないってことだ。


緊張感で手汗はビッショリだ。

頼むこのままどっかいってくれ……


デカいヘビなだけあって少し這うだけで地面が削れるようなゴリゴリっと言った音がする。

……一体どれだけ時間立っただろうか。

もう一時間たっただろうか。

1秒がこれほど長く感じることはないというやつだ。


俺はふと時計を見ようとしたときだった。

汗で手がびしょびしょだった俺はその瞬間、杖を落としてしまった。


ガンッ!

重量感のある杖は転がるのではなく地面に突き刺さるように落ちた。

それは大蛇の注意をひくのに十分すぎた。


瞬間、大蛇は大口を開けて俺の方に襲いかかり、勘助は瞬間飛び出して大蛇の口に

槍をつっかえ棒のようにして挟み込んでいた。


「勘助!?」

「おう、心配すんなまだ生きてる!」


そういいながらも蛇の口の中に突っ込んでいった当たり前の代償を彼は支払っていた。

左肩の部分に大蛇の牙が刺さっている。


瞬間、1テンポ遅れて虹村が大蛇の上から口、両目、腹と続けざまに槍で三連撃を決めていた。

大蛇は暴れ狂い、その衝撃で勘助は吹き飛ばされた。


「緋山君、追撃を!」

その声に我に返った俺は慌てて杖を構え直すと大蛇に向かって火炎魔法をぶっ放してやることにした。

あまり範囲が広くなってはいけない、二人まで巻き込んでしまう。

よく照準をつけてイメージするのは直線上の炎。


「くらいやがれっ!」


一気に魔力が流れるイメージを杖に流し込むと杖からは凄まじい勢いの炎が吹き出て

大蛇が一気に炎に包まれた。

しかし三メートルのクマを丸呑みにするほどの大蛇である。

口に勘助の槍も刺さったままに大蛇は暴れまわり、そしてこちらに突撃してくる!!!




そんな大蛇の突進を横サイドから光り輝く槍が大蛇を貫いた。

虹村の渾身の魔力を込めた一撃である。

やがて凄まじいヘビの匂いと焼け焦げた肉の匂いを残して大蛇はようやく動きを止めたのである。


俺は事態が収拾したのを見届け、魔法を止めるとすぐに勘助のもとに走り寄った。

「大丈夫か?!」

「……ぁあ……なんとかな……」


強がっているのは明白だった。

顔色が悪い。ヘビの牙にやられたのである、毒の可能性も考慮しなければならないか。

すると虹村がやってきて勘助の様子を見ている。

「あの大蛇……毒は持ってないからそれは大丈夫だけど……ちょっと傷が深い」


この場から動きようがないことだけは確かだった。

しかしなんとか勘助を連れて病院につれていかねばならないのは明白だった。

「……私、なんとか彼を運ぶ……」

「うーん、運ぶよりも警備員の人を呼びに行ったほうが早いかもね」

「……そうかもしれないけど……警備員の人たち……ここまできてくれるかしら」


たしかに些かではあるものの俺達はだいぶ深い所まで来てしまっている。

二重遭難は避けたいところではあるが……

「それでも勘助を動かすのもあまりいい状態とはいいづらい」

傷口の状態が深くえぐれており、動かすのもどうかと思われた。


「それはそう……私ももう獲物はヘビに投げちゃったしなにもないから……

 私が走って呼んでくる……それまで待って……」


そういうと虹村は颯爽と入口の方に走っていった。


……はぁ。まだ予断を許す訳では無いが緊張感が一気に抜け落ちて俺はため息を付いた。

天を仰げばもうすっかり太陽も落ちようとしている。

こりゃ虹村も俺も勘助も滅茶苦茶怒られるだろうな……などと思ってたときだ。


ズズズズズズ……




もう二度と聞きたくない地面を擦る音。

俺はとっさに杖を手に取った……嫌な予感は的中するものである。


そこには先程倒した大蛇とは別のもう一体の大蛇がいたのである。


万事休すとはこのことか。

完全にもう一体の大蛇は俺達のことを標的として見定めている。


炎の魔法には多くの欠点がある。

当然強力な炎の本流にはある程度の風力と激しいやけどの痛みを与えることが出来るが

暴れ狂う相手に対してそれを押さえ込む力はないのだ。


対人間ならば距離を取ってしまえばさほど大きな問題にもならないだろう。

しかし人間などポテトチップスほどのサイズにも

感じないほどのサイズの大蛇となれば話は別である。


それでもやるしかない。

ただ食われてやるぐらいならば抗う。

戦える選択肢があるだけマシなのだ。

先程は身を挺して守ってくれた勘助と虹村がいた。

今回はいない。


覚悟を決めて大蛇に向かって杖を向ける。

運が良ければ生き残れるかもしれない。

駄目だったらすまんな勘助。


ゆっくりと大蛇に向かい杖を向け

まるでいつでも仕留められると言わんばかりの大蛇の口の中に放り投げるかのように

火を浴びせかけた!


杖からはまるで火の竜巻が吹き荒れるかのように業火が吹き荒れ大蛇を包んだ!

火達磨になった大蛇は突然の出来事に大暴れしはじめる。

頼む……そのまま消し炭になってくれ!

俺は精神を集中し、前方にひたすら火炎を浴びせ続けた。

杖からはまるで火炎放射器のように火が吹き出している。

以前ためし打ちした10倍は放出しているが巨大な大蛇は

それでようやく全身が火に包まれるかというほどである。

過剰な魔力行使は精神力を著しく削り取り、めまいがするほどである。


しかし……大蛇は動きを止めることはなく。

いよいよ最後の一撃を加えようとこちらに突進してきた!

これまでか……。





……大蛇の突進は激しい稲光と共に停止した。

それを見届けた時点で俺の精神力は振り切れてしまった。

簡単に言えば気絶してしまったということ……。










気がつけば病室のベッドの上であった。


色んな人が挨拶に来た。

我が親はその中に含まれなかったが。


学校の先生にはエライ怒られた。

まぁ当たり前といえば当たり前だ。

誘ったのは勘助なんだがなぁ。

まぁ勘助は正直起きてるのもしんどい状態だったので変わりに

説教を受けるみたいになってしまった。


そのあとに虹村が挨拶に来た。

アレだけ獅子奮迅の活躍をしておいて当人は無傷で

平然としてるのは流石である。

守りきれなかったことの謝罪などをボソボソと言って帰っていった。

高そうな店の果物などをおいてくあたりは流石にお嬢様といった感じである。


そして病院の先生。

勘助の傷は深いものの切り裂ける形だったため、治りも早いだろうとのことである。

えぐれていたらもうちょっと長引いていたと。

一方私は一日寝ていた程度であること。

過労と魔法の行使のしすぎで倒れただけだから点滴こそされてるが

今日中に退院していいとのことである。

我ながら情けないものだ。




そして最後のお客さんは爺さんだった。


「命拾いしたな、少しはその杖も役に立って何よりだ」

なんてことを言ってきた。

「俺はなんもしてないですよ……」

実際、俺は足止めしてもらわなければ何もできなかった。

虹村や勘助がいなければ今頃は大蛇の腹の中だったろう。

「人にはそれぞれ役割がある」

慰めだろうか。らしくない言葉である。

「世の中には何者にもなれずに生涯を終えるものもいる。

 ……その杖の持ち主も何者かになりたくてあがいて、何も成し遂げられずに死んでったわ」


……。


「それをお前が意味を与えた。お前を生かしたという意味をな。

 その点に関してワシはお前に感謝する」


……感謝するなどと言っておきながらこの爺さんはふてぶてしい表情のままだった。


「爺さんこの杖……」

ご丁寧にこのクソ重たいまるで鈍器のような杖は律儀にベッドの横に立てかけてあった。


「お前にやると言った。 その判断は間違ってなかったと思いたい」


そういったっきり爺さんは勝手に出ていってしまった。

これだから年寄りは困る。

なにか曰く付きの一品のような気もしなくもないが……。

しっくり来るのは事実であった。

もっとしっかり使えるようにならないとな……などと思いもう一眠りするのであった。










後日別室にて


見るからに高級そうな机に椅子が並び、壮年の男性たちが並び座っている。

そのうちの背広姿の男性が言う。

「魔法障壁消失におけるリスクの高さは今回の一見でも皆さん理解されたと思われますが

 消失解消に尽力し、消失解消後にはより堅固なシステムの構築をですね……」

「否!、それではならぬ」

その中には健一がよく知る老人の姿があった。


しかし負けずと話を続けていた男は続ける。

「東先生、そうは仰っても現実的に他の方策を取るのは困難です。

 魔法障壁が形成されて30年という月日がたった今に至って

 我々の生活圏を生命の危険を脅かしてまで

 拡張しようという人間がどれほどいるというのですか」

「その前提条件が間違っておるというておるのじゃ。

 そも私は魔法障壁を制作した際に明言したはずじゃ。

 あくまでもこれは『保険』であって完璧なものではない。

 例えばより強力なドラゴンなどが湧いてでてくればひとたまりもない」


この老人の一声に室内はざわつき紛糾する。

「先生はあくまでご謙遜なされているだけでは?」

「実際に魔法障壁が制作されて30年、危険な生物の侵入を許したことはないじゃないか」


そんな声に若干の苛立ち混じりの声で老人は応戦する。

「実際に? 実際にだと? 今回の魔法障壁の一部空洞化で実際に被害が出ておるじゃないか。

 この世の中に絶対などないのじゃ。

 故にワシは断固としてさらなる魔法障壁の強化の意味も込め

 魔法障壁外への遠征を提唱するものである!」

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