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落魄聖女の逃避行録  作者: 小鷺田涼太郎
第六章 命名、ラングダムール
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第三十三話

 ジェラートゥスの使者達が斬り捨てられたその翌々日、街の教会でアリーネの教皇就任式が執り行われた。急なことであり、その教会自体なんら特別な所のない世間並なものであったため、とてものこと、その儀式の本来あるべき規模と格式を満たしているとは言い難かったが、とにかく、これで彼女は「公式」に即位を果たしたわけである。ジェラートゥスの僭称を明らかにするにおいて、必要な儀典であった。

 儀典後、街の中央広場において、新教皇のお披露目式が行われた。街の人間のほとんど全てが出て来たに違いなく、二百メートル四方の広場にはそれこそ立錐の余地もない。アリーネが壇上に登ると、その容子を見定めるべく観衆は一瞬静まり返り、その直後、地をどよもして、凄まじい歓呼が上がった。

 この歓迎ぶりは、アリーネ本人には全く意外であった。彼女は実際に前教皇の息女であり、そのことに違いはないが、特に証拠があるわけではなく、彼らからすると、まさにどこの馬の骨とも知れない小娘であるに過ぎないのに。

 つまるところ、彼らが教皇に求めるのは、良心や慈悲深さといったものであり、血統だの正当だのといったことは、実はどうでもいいのだろう。新「教皇」の悪評は既にここにも聞こえていて、取り換えられるものなら取り換えたいと誰もが思っていたに違いない。その代わりはなんぴとであれ、あれよりはマシだろう。

 そんな心境でいるところに、真の教皇として、またとない美少女が現れたのである。これには人々も理屈を超えて、勝手な期待を抱かざるをえない。戴冠までして立派に着飾ったアリーネは、ただ美しいのみならず、凛とした気高さをも感じさせた。

「――いずれも人徳高き代々の教皇に対し、恥ずかしからぬよう、これからも研鑽を怠らず、精進に努めます。私はまだ年若く、足りないことばかりで――」

 アリーネの就任演説が始まり、続いている。ティルザはこれを演壇のすぐ下で、警備兵に交じって聞いていた。今までの苦労が報われた瞬間であり、流石に感慨深い。ただこれで、自分と彼女のあいだには否応なしに身分という高い壁が出来てしまったわけで、今後は本人達がどう思おうと、これまでのように気安く交流するわけにはいくまい。そのことを思うと、やはり寂しい。

 ティルザは、滔々と演説を続ける壇上のアリーネに、改めて視線を据えた。取り澄ましたその顔を、彼女はなぜか不意に憎たらしく感じた。

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