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落魄聖女の逃避行録  作者: 小鷺田涼太郎
第四章 下賤にして野蛮だがへっぽこではねえ!
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第十九話

 前回同様、ゴーレムは橋のたもとに岩のようにうずくまっていた。

 アリーネがティルザの剣に何か魔法を掛けた。鉛色の刀身が色を変じて、かすかな青味を帯びた。ティルザはそれを腰の位置で横に構えて、橋を一気に渡っていった。

 ゴーレムが立ち上がり、巨大な身体を拡げた。ティルザは大胆にも、そのふところ近くまで飛び込んでいった。そして、頭を低くすると同時に、横に構えた剣を思いきり振り抜いた。

 ゴーレムの拳がティルザの頭上で空を切り、ゴーレムはその動きの余勢のままに地響きを立てて横倒しになった。倒れたゴーレムの傍にその左足首が本体から離れて残っていた。

 後はほとんど、ティルザの新しい剣の試し斬りのようなものだった。まともに立てないゴーレムの手足を段々と切り落としていく。最後に、頭と胴体だけになったゴーレムの首を落として、事は終わった。

「倒し方が残酷過ぎ。あんた本当に野蛮ね」アリーネが橋を渡ってきて言った。

「仕方ないだろ。よく切れるこの剣でも、流石にあの分厚い胴体を深く斬るのは難しかったんだから」ティルザが不服を表して言った。

「でも、もっと早く首を落とす機会が、いくらでもあったでしょ」

「……」

 呪術使いの老人の家は、屋根に短い煙突の一つ付いた並みの広さの平屋建てだった。漆喰の壁はずいぶんと汚れ、窓は後ろから板で塞がれ、中は覗けない。ティルザは特に考えもなく玄関扉の前に立ち、なんとなく、そこに付いたドラゴンを象った金具の鉄輪を鳴らしてみた。

「何してるの。誰も居るはずないでしょ、死んだ老人を除いては。依頼の用はもう済んだんだから、さっさと報酬をいただきに帰るわよ」

「わかってる」

 ティルザが踵を返し、アリーネの後について橋を渡り始めた時だった。背後で、ドアの開く音がした。まさかと思い、振り返ると、大きく開いた玄関の枠内に、顔中伸び放題に白い髭を生やした禿頭の老人が立っていた。

「お前ら、何者だ?」老人が言った。

「呪術使いか?」ティルザが驚いて訊いた。

「問いに問いで返すな、無礼者」

「あなたの息子の依頼を受けて、ゴーレムを倒しに来たのよ」アリーネが戻ってきて言った。

「騒がしかったのはそのせいか。しかし、よく倒せたな」たるんだ瞼をかぶった老人の細い目が、散乱したゴーレムの部分部分を見渡した。「で、なんのためにそんなことをした?」

「遺産を回収する為よ。皆、あなたのこと、とっくに死んだものだと」

「ああ、そういうことか。このとおり、儂は生きておる。ちょっと集中して仕事をするために、外界との接触を一時的に断っていただけじゃ。ところで、ちょっとその剣、見せてみろ」皺だらけの老人の手が、ティルザの方に伸びた。

「……」

「いいじゃない。見せたげなさいよ。別に害意は無さそうだし」アリーネがティルザに言った。

 老人は、受け取った剣を鞘から出して、その側面に右の手のひらをぴたりと当てた。

「魔力がまだ残っている。夾雑物のほとんどない洗練された魔力だ。密度も高い。なるほど、これなら、どんなへっぽこ剣士でも、ゴーレムぐらい倒せるだろう」

「あたしはへっぽこじゃねえ!」ティルザは怒って、剣を取り返した。

「この魔法を掛けたのはお前だな。改めて訊くが、貴様、何者だ? ただの賞金稼ぎではあるまい」老人がアリーネに言った。

「継母から追い出された哀れな家出娘」

「……まあいい。ちょっと上がっていけ。お前に渡したい物がある」

 奥の一室に通された。入った途端、籠った異臭が襲ってきた。饐えた何かを焦がしたような、とにかくひどい臭いだった。

「臭い。換気しなさいよ」アリーネが無遠慮に言った。

「すぐ慣れる。気にするな」老人が、特に気分を害したふうもなく、言った。

 陽の光は完全に遮断され、真鍮製のランプが一つ、広い机の上でオレンジ色の光を細かく揺らしていた。壁の二方を本棚が占め、それでも足りずにあちこちに本の山が出来ている。そして、他の一方の壁には様々な草木や鉱石や臓物の入った薬瓶が何段にもなって棚の上に並び、もう一方にはむき出しの排気筒を直接天井まで伸ばした石窯が設置されていた。

「で、何をくれるの?」アリーネが、落ちつく気は無いらしく、立ったまま訊いた。

「うむ……これじゃ」老人が、頭に複雑な形の鉄の鈍器を付けた木の棒を、机の傍の床から拾い上げて言った。

「それは?」

「儂の持てるかぎりの知識と技術を傾けて丹精したメイスじゃ。武器として使えることはもちろん、三倍以上の魔法増幅効果を備えている。これに勝るメイスは、大陸広しといえども、そうはあるまい。ここ数年、こいつの生成にずっと掛かっておった。ちょうど完成したこのタイミングにお前が現れたのも、きっと運命だろう。儂の老い先も長くはない。このメイスに相応しい能力をお前は持っている。儂の形見と思って、遠慮なく、これを受け取るがよい。さあ」

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