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落魄聖女の逃避行録  作者: 小鷺田涼太郎
第三章 聖女失禁
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第十一話

 旧街道から外れて、けもの道より少しマシな程度の細道をエルフの青年に付いて歩いた。やがて、雑木が無秩序に繁った小山が見えてきて、その麓を裏へと回ったところにエルフの村はあった。村には、どれも同じような木造りの小さな家が三十軒ほど並んでいて、そのあいだを水の綺麗な細流がさらさらと走っていた。

「あの水、飲めるか?」ティルザが急いてコスティに訊いた。コスティはエルフの青年の名である。

「飲めないことはないですが、別に湧き水の井戸があります。そちらの方へ」

 釣瓶を上げる時間ももどかしく感じた。ティルザが釣瓶に直接口を付けて水を飲もうとして、アリーネに怒られた。二人はそれぞれの水筒に移した水を一息に飲み干した。ティルザもアリーネも、こんなに美味い水を飲んだのは初めてだと感じた。

 その様子を家の陰から目だけを出して、子供のエルフが見ていた。アリーネが気づいて声を掛けようとすると、途端に頭を引っ込め、隠れてしまった。ほどなくして、また視線を感じた。振り向くと、子供の人数が三人に増えていた。どうやら彼らには、人間が珍しいらしい。

 やがて、家に荷物を置きに行ったコスティが戻ってきて、二人に言った。

「アンナさんの服を御用意しました。私の家で着替えてください」

 アンナというのは、道中、彼に訊かれて咄嗟に名乗ったアリーネの偽名である。

 ところで、この時ティルザは既に半裸ではなく、胸元に紐の付いた白い上着をかぶり、濃い草色をした長ズボンを穿いていた。それらの服は、コスティが自分で使うつもりで街から仕入れてきた物で、あの後すぐに、背負った荷物からわざわざ取り出して、貸してくれたのだ。どちらも男物であったが、女としては大きいティルザにはサイズはだいたい合っていた。腰回りだけはずいぶん余裕があったが、紐で縛れば、別にずり落ちることもなかった。

 そして、ここまでティルザの服を借りて着ていたアリーネには、コスティの妹の服が与えられた。彼の妹も美人だった。スタイルが良く、すらりとしている。彼女の服をアリーネに着せてみると、果たして袖も裾も少し長かったが、すぐに直して、上げて、合わせてくれた。

「まあ、よくお似合いです」コスティの妹が実感を込めて言った。

 七分丈の白いブラウスに薄桃色のフレアスカート。ついでに髪もいじって、横から編み込み、後ろに垂らした。実際それらの装いはアリーネによく似合って、まるで淡い色で着色された陶器人形のようだった。

「これ、本当に貰っていいの? 着古しと聞いていたけど、まだ全然新しいみたい」

「ええ、構いません。ずいぶん前に兄が買ってきてくれた物ですけど、着てみたら、私には全然似合わなくて」

「お金、払うわ。彼女の分とも合わせて。流石にただでは貰えないもの」

「いいんですよ、そんなの。それより本当はそちらのかたにも――あの、もしよろしければお名前を――そう、ティルザ様――ティルザ様にも何かふさわしいお洋服を、また別に差し上げられたらと思うのですが、残念ながら、どれもサイズが……ああ、でも、こんなことを言ったら失礼にあたるかもしれないけど、いま着てる男物の服も、とてもよくお似合いです。凛々しくあられて、すごく素敵……」

 そのとき、玄関の外に誰か訪ねてきた。コスティが応対に出た。

「長老がお客さんを昼飯に呼びたいと言ってる」

「長老が? 何のために?」

「さあ、ただ話でもしたいんじゃないか。知らんけど。久しぶりの人間だし」

「ちょっと待って」

 コスティが振り向いて、アリーネとティルザに訊いた。

「お聞きのとおりです。どうしましょう?」

「断る理由も無いし、行くわ」アリーネが答えた。

「無理しなくていいですよ」

「別に全然かまわないわよ」

「……そうですか」

 積極的には勧めかねる、といった様子がコスティに見て取れた。すぐに連れていくと伝え、使いを帰したあとで、二人に言った。

「もし長老に何か不快なことを言われても気にしないでください」

「気難しい人なの?」アリーネが訊いた。

「そんなこともないんですが、ただ長老は人間全般に対し、あまり良い印象を持っていないんです」

「何かあったのか?」ティルザが訊いた。

「……色々と。なにせ彼、千二百歳を越えているらしいので」

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