7話・後編:占奈さんの占い結果【枕】
ベッドからテーブルに移動すると、僕が席につくのを見計らって占奈さんが隣に座ってきた。その瞬間、心臓が一気に跳ね上がる。
「こっちの方が問題見やすいから」
占奈さんが微笑む。
占奈さんの香りがふわりと漂い、思わず息を呑む。占奈さんの肩が僕の肩に触れると、その接触だけで心臓がさらに早くなった。
「じゃあ、最初はこの問題からね」
優しい指示が心を安らげる。占奈さんの声はとても柔らかくて、聞いているだけで安心できる。
「ここ、ちょっと違うよ」
「ここはね、こうやって……」
占奈さんの解説が続く。その優しさと真剣さに、僕の心はますます惹かれていく。
「わかった?」
「すごくわかりやすい!」
「良かったぁ」
占奈さんが微笑む。その笑顔を見ると、僕の胸がドキドキして、少しの間、時間が止まったように感じた。勉強に集中しなければと思うのに、占奈さんの笑顔が頭から離れないまるで魔法のように僕を引き込んでいく。
「じゃあ、次の問題にいってみようか」
指示に従い、次の問題に取りかかる。心臓の鼓動が速くなるのを感じながらも、集中しようと努める。占奈さんの声が背中を押してくれる。
「ここが間違ってるよ、天夜くん。ほら、こうやって……」
解説が続く。占奈さんの指先がノートを滑る様子に見惚れてしまう。
「やった、解けた!」
一つの問題が解き終わるたびに、占奈さんが拍手をしてくれる。
「すごいね、天夜くん!」
その言葉が、僕の胸に響く。占奈さんの言葉一つ一つが、僕に自信を与えてくれる。
「ありがとう、占奈さん」
勉強に集中できたのは、占奈さんのおかげだ。占奈さんの解説は本当にわかりやすく、今まで苦手だった問題もすんなり解けるようになった。占奈さんの隣で感じる温かさが、僕に安心感を与えてくれる。
勉強を始めて2時間、あっという間に時間が経ってしまった。
「疲れた〜」
占奈さんが伸びをしながら言った。
「おやつ食べよ、天夜くん」
占奈さんが提案する。僕たちは一息つくことにし、占奈さんのお母さんが用意してくれたお菓子に手を伸ばす。
「私ね、このお菓子が好きなの。天夜くんも食べてみて」
占奈さんが袋からお菓子を出し、僕の顔の目の前にお菓子を差し出してくる。
僕はその行動に戸惑って固まってしまう。心臓がドキドキして、どうしていいかわからない。
「口あけて」
一気に顔が熱くなる。占奈さんの指示に従い、僕は恥ずかしさを感じながら口を開ける。彼女が差し出したお菓子を食べると、その甘さが口の中に広がった。
(これって、すごく恥ずかしい……でも、嬉しい)
心の中でそう思いながら、占奈さんの顔を見上げる。
「お、美味しいね」
「でしょ~私ね、このお菓子がす、好きなの」
占奈さんが恥ずかしそうに微笑んだ。
「天夜くん、私も天夜くんの好きなお菓子を食べてみたい」
占奈さんが少し照れながら言った。彼女の頬がほんのり赤く染まり、その姿がたまらなく愛おしい。
僕が袋からお菓子を取り出し、差し出すと、占奈さんは不思議そうに見つめる。
「たべさせて?」
占奈さんは少し躊躇した後、ゆっくりと口を開けた。占奈さんの唇がぷるんとしていて、小さな歯が可愛らしい。
その言葉に僕は驚き、一気に恥ずかしさが込み上げてきた。でも、口を開けたままの占奈さんを放っておくわけにはいかない。覚悟を決めて、占奈さんの口に向けてチョコレートを差し出す。
その唇に僕の差し出したチョコレートが触れる瞬間、心臓は爆発しそうだった。心臓がドキドキと激しく鼓動し、手が震えそうになるのを必死に抑える。
占奈さんがチョコレートをゆっくりと口に含むと、彼女の顔が一気に赤く染まり、目を輝かせながら微笑んだ。
「お、美味しいね、ありがとう」
占奈さんの嬉しそうな笑顔に、僕も自然に微笑み返すことができた。
占奈さんは一瞬黙り込み、頬を赤く染めたまま視線を逸らす。彼女の動揺が伝わってきて、僕も少し緊張してしまった。
二人で恥ずかしさを隠すように、お菓子を一つずつ自分の口に運びながら話を続けているうちに、お菓子の袋はすっかり空っぽになっていた。
「頭使っておやついっぱい食べたから、疲れちゃった」
占奈さんがそう言ってベッドに腰を下ろし、そのまま枕に顔を埋めて横になる。ベッドに横たわる占奈さんの姿を見ると、恥ずかしくなって目をそらしてしまう。
「天夜くんとこうやって話せるようになって、楽しいな」
「う、うん、僕も毎日楽しいよ」
占奈さんの後ろからもぞもぞと動く音が聞こえる。ベッドのスプリングが軽くきしむ音や、布が擦れる音が耳に届く。
振り返ってみてみたい。でも、恥ずかしすぎて耐えられる気がしなくて、耳を研ぎ澄まし音を聞く。占奈さんが足をバタバタさせている様子が目に浮かぶ。少しの間、もぞもぞと動き続けた後、その音が静かになった。
無音になったので、恐る恐る振り返ると、占奈さんはすでに寝息を立てていた。部屋の中が静まり返り、僕の心臓の鼓動だけが響いている。
(こ、この状況どうしたら!)
僕は動くことができず、占奈さんの顔をただ見つめる。
長いまつ毛、通った鼻、艶のある唇。本当に可愛いな。占奈さんの寝顔を見ていると、心がとろけるような甘さに包まれる。占奈さんの顔全体が美しさと愛らしさで溢れていて、その光景に僕の心は完全に奪われてしまう。
(占奈さんの寝顔、こんなに近くで見られるなんて……)
占奈さんの寝顔は、まるで天使のようだった。占奈さんの長いまつ毛が静かに動き、寝息がリズミカルに響いている。その姿に僕は思わず微笑んでしまう。こんなに近くで占奈さんを見つめることができるなんて、まるで夢のようだ。
心臓の鼓動が速くなり、胸の中で熱い何かが広がる。
僕の中で、占奈さんへの想いがどんどん強くなっていく。この瞬間がずっと続けばいいのにと、心の底から願った。
ふと、占奈さんが寝ぼけた様子で手を掴んできた。占奈さんの手が僕の手に触れると、その温かさが伝わってくる。
「なんかごつごつしてる。磨きたりない……」
占奈さんは水晶玉と勘違いしているようで、僕の手をさすり始めた。その手の動きに、僕の心臓はますますドキドキする。
「ちょ、う、占奈さん!?」
占奈さんは聞こえていないのか、続けて手をさすり続ける。
「おまじない……」
占奈さんの唇が僕の右手に近付く。
占奈さんの唇の感触が僕の手に残り、その瞬間、頭が真っ白になった。唇の柔らかさ、温かさ、そしてほんのりとした湿り気が僕の手に伝わり、その感触が指先から体中に広がっていく。
(う、占奈さんが僕の手にキスを……!?)
心の中で叫びそうになる。占奈さんの唇が触れた瞬間の感触が鮮明に残り、僕の心臓は爆発しそうなほどに高鳴った。占奈さんは再び寝息を立て始め、僕はいてもたってもいられなくなり、再び勉強を始めることにした。
心臓の鼓動がまだ収まらない中、僕はノートに向かってペンを走らせる。しかし、頭の中は占奈さんのことでいっぱいだった。
唇の感触がまだ手に残っていて、その温かさが心に広がる。
● ○ ● ○ ●
しばらくして、占奈さんが目を覚ました。
「え、うそ!ごめんなさい!私、寝ちゃってた!」
占奈さんは慌ててベッドから降りてきた。
「ごめんね、天夜くん。せっかく来てくれたのに……枕のせいで、なんかいつもより寝心地がよくて……」
占奈さんは少し落ち込んだ様子でうつむく。
「せっかくの天夜くんとの時間が減っちゃった……」
その言葉に、僕の胸が痛くなる。
「ううん、とっても楽しかったよ」
「でも……占いも外れたった……」
占奈さんが悲しそうに呟く。占奈さんの瞳には涙が浮かんでいるように見えた。そんな占奈さんの姿を見ていると、僕も胸が締め付けられるような気持ちになる。
「占奈さん、そんなことないよ。僕にとって、今日の時間はすごく特別だったから」
僕は優しく言葉をかけ、占奈さんの手をそっと握る。
「本当に?」
占奈さんの声は震えている。僕は占奈さんの手を少し強く握り返し、力強く頷く。
「うん。占奈さんがいてくれるだけで、僕は幸せだよ」
その言葉に、占奈さんは少しだけ笑顔を取り戻し、目を潤ませながらも微笑んでくれた。
「ありがとう、天夜くん。また……お勉強会してくれる?」
「ぜひ!何があっても来させていただきます!」
僕の言葉に占奈さんは再び微笑む。その笑顔が、僕にとって何よりのご褒美だった。
「ふふ、天夜くん。ありがとう」
占奈さんの笑顔を見て、僕は心から嬉しくなった。
「占い、当たってるよ!占奈さん!」