6話:占奈さんの占い結果【カエル】
最近、占奈さんとの距離がさらに近くなった気がする。
朝の挨拶から始まり、占いをしてもらったり、授業中や合間にも少し話したりしている。もしかしたら、このまま恋人関係になれたりして……そんな期待が心に芽生えていた。
ふと、一日のことを思い返していたら、お昼に占奈さんといることがないなと思い出す。お昼休み、毎回いなくなる占奈さんは、何をしているんだろう。気になって聞いてみた。
「占奈さん、お昼休みって何してるの?」
彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに恥ずかしそうに目を逸らし、頬を赤く染めた。
「えっと、あの……ひ、秘密!」
そして、そそくさと席を外してしまった。彼女の姿が見えなくなると、僕は呆然と立ち尽くしてしまった。
水晶玉を抱えて焦って教室から出ていく彼女の後ろ姿が、なんとも愛おしく見えた。
「あれ、朝の占いは?お預け?」
〇 ● 〇 ● 〇
お昼休みになって、僕は占奈さんの後を少し付けてみることにした。
占奈さんが何をしているのか気になって仕方がなかった。内心、気持ち悪いかなと思いながらも、好奇心に負けてしまった。
占奈さんは靴を履いて外に出る。どこに行くんだろう。校舎の花壇を曲がり、進んでいく。
「ごめんね、おまたせ」
占奈さんの声が聞こえてくる。
(占奈さん、もしかして密会!?別の男と一緒なのかも……)
焦った僕は、つい飛び出してしまった。
「あ、天夜くん!?ど、どうしてここに?」
そこには、明るいオレンジ色の髪をしたもう一人の女子と、その間に置かれた水晶玉があった。占奈さんは驚いた顔をして僕を見たが、すぐに笑顔を浮かべた。
「あ、あのね、天夜くん。水晶玉にね、太陽の力を込めてたの」
水晶玉に太陽の力?理解が追い付かないまま、隣の女子が大きな声で間に入ってきた。
「あー!君が例の天夜くんかー!真理ちゃんから話はよく聞いてるよー。今日もね、天夜くんのた……」
「や、やめて、凛音ちゃん!しー!」
占奈さんが顔を赤くしながら全力で止める。
少し落ち着いた占奈さんが紹介してくれた。
「私の占い友達の凛音ちゃん。隣のクラスだよ。私より占いが上手で、昼休みにいろいろ教えてもらってたの。」
「はじめましてー、天夜くん。私は、水晶玉じゃなくてタロットを使うんだけどね。よろしくねー!」
彼女はタロットカードの束を軽く揺らしながら、僕に見せてくれた。その仕草がとても自然で、占いが彼女にとって特別なものだと感じさせた。
「ほら、真理ちゃん。ちょうどいいじゃん。朝、天夜くんに占いできなかったって悲しんでたんだから、今占ってあげなよ。」
占奈さんは凛音さんのことを顔を赤くしながらぽかぽか叩く。その姿がとても可愛らしい。
僕に対する気遣いが、心の中にじんわりと広がる。
「じゃ、じゃあ、天夜くん、占ってあげるね。」
占奈さんは再び水晶玉に手をかざし、真剣な表情で見つめ始めた。その姿に僕は心臓がドキドキと高鳴る。
「見えてきたよー! カエル!ゲコッ! いいことあるよ~」
カエルの鳴き真似をする占奈さん。その可愛さに、僕は思わず微笑んでしまった。
「カエル?それってどういうこと?」
占奈さんは「なんだろうね」と首を傾げ、詳しい説明はしてくれなかった。僕は少し戸惑いながらも、占奈さんと凛音さんと一緒に教室に戻ることにした。
占奈さんと凛音さんが並んで歩き始めた。僕はその後を少し距離を置いてついていく。
「ところで、天夜くん、真理ちゃんのこと、どう思ってるの?」
突然の凛音さんの質問に、僕は思わず足を止めた。
「え、えっと……」
「ちょっと、凛音ちゃん!もー!もー!」
占奈さんが恥ずかしそうに顔を赤くしながら凛音ちゃんを軽く叩く。
「ふふ、ごめんごめん。真理ちゃん可愛いすぎ」
占奈さんはさらに顔を赤くし、うつむいてしまった。
「じゃあ、またね、天夜くん。」
凛音さんが笑顔で手を振り、教室のドアの前で別れることになった。
僕も手を振り返し、教室に入る。占奈さんはまだ少し顔を赤くしたまま、僕に軽く微笑んだ。
「秘密の特訓してるのバレちゃった」
〇 ● 〇 ● 〇
午後の授業が終わり、帰りのホームルームも終わる。夕方の光が教室の窓から差し込み、教室内を温かく照らしている。生徒たちは帰り支度をしていて、楽しげな声が飛び交っていた。
「一緒に帰ろう、占奈さん。」
占奈さんは微笑んで頷き、僕たちは並んで校門に向かって歩き始めた。凛音は陸上部の練習があるらしい。校門までは同じ道を歩くことができるから、僕たちはこの時間を楽しみにしていた。
彼女の笑顔に癒されながら、僕たちは靴箱に到着した。そして、その瞬間、僕は驚く光景を目にした。占奈さんの靴にカエルが乗っていたのだ。
彼女は思わず飛び上がり、僕に抱きついてきた。
「う、う、占奈さん!?」
「か、か、カエル!」
占奈さんは恐怖で声が震え、そのまま僕にしがみついた。彼女の温かい体温と柔らかな髪の感触が伝わってくる。左腕ごと占奈さんに抱きつかれ、意外と力が強いことに驚く。占奈さんは目を瞑っていて、必死に僕にしがみついている。
占奈さんの体から伝わる温もりと甘い香りに、頭がクラクラする。彼女の胸の感触が背中越しに伝わり、体温が一気に上がる。
「だ、大丈夫だよ、占奈さん。お、俺がなんとかするから!」
僕は右手でカエルをつかみ、靴箱から逃がした。彼女が必死にしがみついている左腕がまだ震えているのを感じた。
「ありがとう、天夜くん……本当に助かった……」
彼女の声が耳元で響き、その温かさと甘さが僕の心を震わせた。彼女の顔が近づき、彼女の目が閉じているのを見て、僕の心臓はまるで爆発しそうだった。
彼女の体温と息遣いが感じられるこの瞬間、僕の心は完全に彼女に奪われていた。占奈さんが僕にしがみつく感触が、忘れられない思い出として心に刻まれた。
「占奈さんの占いが当たりすぎている!」
次回、占奈さんの部屋で二人っきりのお勉強会!