11話【SS・蜂】天夜・占奈&凛音
天気が良い日は決まってお昼休みに校舎裏の花壇に行く。僕もあの日以来、占奈さんに誘われついて行くようになった。
「やっほー、天夜くん!」
凜音さんが元気に手を振ってくる。占奈さんが凜音さんの視線を遮るように僕の前に入ってくる。
「凜音ちゃん、お待たせー」
占奈さんが少し焦りながらも明るく言う。
花壇の日陰に3人集まってお弁当を食べる。日差しが心地よく、木陰でのんびりと過ごす時間が僕にとっての癒しの時間だ。花壇には色とりどりの花が咲き乱れ、蝶が飛び交っている。
その後、水晶玉に太陽の光をあてて、占いの効果を高める。そして、占奈さんと凜音さんで占いの話をしながら特訓をしている。僕は、その光景をただ眺めているだけ。毎日のルーティンになっていたが、占奈さんと居る時間が増えたのでとても幸せだ。
「きゃー!」
突然、占奈さんの叫び声が聞こえる。
「占奈さん!?」
勢いよく振り返ると、大きな蜂が水晶玉の上に止まっていた。
「オオスズメバチだ!」
凜音さんが好奇心旺盛に声を出す。
「す、水晶玉がぁ……」
占奈さんのか細い声が漏れる。
「私にまかせなー」
凜音さんは近くにあった木の棒を持ってきて、水晶玉に投げつけようとする。
「凜音ちゃん!やめて!水晶玉が!傷物になっちゃう!!」
占奈さんが目に見えるようにテンパって凜音さんを抑える。
「し、仕方ない……」
占奈さんがそう呟いたと思った矢先、水晶玉に向かって走り出した。
「え!?占奈さん、危ないよ!」
僕は咄嗟に占奈さんに向かって走り出す。勢い余って真横からぶつかる瞬間、僕は占奈さんの腕を掴み引き寄せた。
「きゃっ!」
占奈さんの軽い身体が僕にぶつかり、僕は占奈さんを守るように地面に倒れ込む。背中に強い衝撃が走り、お腹に占奈さんのおしりが乗っかる感覚があった。
「うっ……」
占奈さん、大丈夫?
「天夜くん、ごめん、わたしテンパっちゃって」
占奈さんの顔は真っ赤で、涙目になっている。背中の痛みよりもお腹に感じるこの、重みと柔らかさに集中する。
(この感じ、悪くない……)
「あ、天夜くん、大丈夫?」
占奈さんの心配する声が聞こえてくる。
すると、凜音さんの足音が近づく。
「ばいばい蜂さん」
凜音さんは水晶玉に近づき、慎重に指で蜂を弾き飛ばす。その動作は意外に素早く、確実だった。
「え、かっこいい」
占奈さんが僕のお腹の上で喜ぶ。
「もう、あんたたちほんと……真理ちゃん、避けてあげな」
凜音さんの声で占奈さんは僕に座ったままだと気づき、勢いよく立ち上がる。
「天夜くん、本当にごめん!!お、重かったでしょ」
僕は起き上がり砂をはらいながら答える。
「そんなことないよ!占奈さん、怪我ない?」
「私は大丈夫。天夜くんは?」
「僕も大丈夫だよ」
「はぁ……はいはい、おしまい」
凜音さんはため息をつきながら呟いた。