10話【SS・髪】天夜・占奈＆桜葉
教室のざわめきの中、桜葉さんが占奈さんの髪をとかしている。周囲の生徒たちの笑い声や話し声が混じり合い、教室はいつもの賑やかさに包まれている。占奈さんの隣の席にいる僕は、机に肘をついてその様子を横目で見ながら耳をそばだてていた。
「占ちゃんの髪、本当に綺麗だよねー。いいシャンプー使ってるの？」
桜葉さんが感嘆の声を上げながら、占奈さんの髪をそっと指で梳く。占奈さんは恥ずかしそうに微笑む。
「お母さんと同じもの使ってるだけだよー」
占奈さんが少し照れながら答えると、桜葉さんはさらに興味津々に髪を触り続ける。
「やー本当にうらやましー」
桜葉さんは、占奈さんとよく話をしていて、たまにこうやって髪の毛を結びにくる。彼女はバレー部に入っていて、髪が長いと邪魔で伸ばせないって前に言ってたのを横耳で聞いた記憶がある。
桜葉さんは器用に占奈さんの髪をまとめ、三つ編みを作っていく。まず片側を丁寧に結び終えると、反対側に手を移し、同じように慎重に編み込んでいく。その様子に僕は見惚れながらも、心の中でドキドキしていた。
「占ちゃんって普段どうして髪しばらないの？」
「わたし、不器用だから上手くできなくて。お母さんにやってもらってもね、ほぐれたときに直せないから」
「占ちゃん。頭も良くて可愛いくて、占いで、さらに不器用だなんて属性盛りすぎだぞー」
桜葉さんは占奈さんの頬を後ろから軽く押す。占奈さんは笑いながら少し身を引くが、その表情は楽しそうだ。
「やめてー、桜ちゃん！」
占奈さんの顔を見てみたいが、僕は横目でしか見ることができない。直接見たら、何かバレてしまいそうで恥ずかしい。
桜葉さんは占奈さんの髪を整えながら、顔に髪を近づけ、ふとその香りを嗅いだ。
「うわー、本当にいい匂い！占ちゃんって感じー」
占奈さんは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「桜ちゃん！恥ずかしいよ！」
僕はその光景を見ながら、心の中で密かに「僕も匂い嗅ぎたい」と妄想してしまう。頭の中で占奈さんの髪の香りを想像し、ますますドキドキしてしまった。
「はい、ツインテール三つ編みできたよー」
桜葉さんは最後の仕上げとして、髪の先をリボンで結ぶ。その動きがとても手馴れていて、見ているだけで感心する。
「わー、ありがとー桜ちゃん！」
占奈さんは手鏡を覗いている。鏡に映る自分の姿を見て、満足そうに微笑んでいる。
「えー、すごい！桜ちゃん、髪結ぶの上手！」
桜葉さんは自慢げな顔をしている。
「それにしても占ちゃん、素材が良すぎるよ。男子なんてイチコロだよ」
その言葉に占奈さんは照れ笑いを浮かべていた。
「ねえ、天夜くん！」
突然、占奈さんが僕に声をかけてきた。
「は、はい！」
びっくりして反射的に振り返ると、占奈さんがツインテールの先を手で掴みながら、満面の笑みで僕に向かっている。
「わたし、可愛い？」
その言葉に僕の心臓は一気に高鳴る。近くで見る占奈さんの姿は、一層鮮やかに目に焼きつく。まるで世界一の美女と言っても過言ではないくらい、彼女のツインテールは似合いすぎているし、可愛すぎる。
「か、可愛すぎます……」
恥ずかしさを堪えながら口にする。僕の言葉を聞いた瞬間、占奈さんの顔が真っ赤になり、小声で
「ありがとう……」
と呟いた。
「わわわわわわ……」
その様子を見ていた桜葉さんは、一番顔を真っ赤にしながら口元を手で押さえ、僕たちのやりとりに興奮していた。
