9話【SS・手相】天夜・占奈&萩村
授業が終わり、教室に戻ると、萩村が興奮気味に話し始めた。
「昨日テレビで手相やっててさ、俺、金持ちになれる手相があるみたいなんだわ!」
萩村が自慢げに言う。その言葉に僕も興味を持ち、少し身を乗り出す。
「本当に?それってどんな手相なの?」
「この線だよ、見てみろよ」
萩村が手のひらを見せてくる。確かに複雑な線が交差しているが、どれが金持ちになれる手相なのか、僕にはわからない。
「天夜、お前は手相見たことあるか?」
「いや、見たことないな」
「じゃあ、占奈さんに聞いてみようぜ」
「え!?ちょっと、萩村、待って!」
萩村は僕の制止を無視して、占奈さんの方に向かって歩いていく。僕は慌てて彼を追いかけた。
「おーい、占奈さん。手相とか見れる?」
「あ、萩村くん。手相?やったことないけど……」
占奈さんが僕の方をちらりと見て、少し笑顔を見せながら尋ねる。
「挑戦してみていい?」
占奈さんの目が期待に満ちていて、僕の心臓が一瞬ドキッとする。
「もちろん!」
萩村が手を差し出すと、占奈さんは顔を近づけてじーっと見る。
「うーん……」
占奈さんが真剣に萩村の手相を見つめる。僕はその姿を見ながら、心の中で少しざわつくものを感じた。
「昨日テレビで見たやつだと、お金持ちになれるらしいんだけど」
萩村が自慢げに言う。占奈さんが興味深そうに顔を近づける。
「えー分からない。どれ??」
「この線が……」
二人が仲良さそうに話しているのを見て、僕は少し嫉妬心が芽生える。占奈さんの笑顔や真剣な表情が、萩村に向けられていることが、胸の奥でチクチクと痛む。
(僕だって、占奈さんにそんな風に見てほしい)
自分の気持ちを抑えきれず、僕は一瞬目を逸らす。しかし、心の中ではどうしようもない焦燥感が広がっていく。
「おい、天夜」
萩村の声で我に返る。
「天夜くんの手も見たい」
占奈さんが僕にそう言うと、心の中で何かが弾けた。手を差し出すと、占奈さんは僕の手を掴み、じーっと見てくる。その瞬間、心臓がドキドキと高鳴るのを感じた。
(手汗、大丈夫かな……)
占奈さんが僕の手を見つめる。その視線が暖かく、そして優しく、僕の全てを包み込んでくれるようだ。
(占奈さんに見てもらえるなんて……)
心の中で思わず嬉しさが込み上げてくる。占奈さんの目が、僕の手相をじっくりと見ているその光景に、思わず顔が熱くなるのを感じた。占奈さんにこんなにも近くで見つめられることが、何よりも嬉しかった。
「あ!」
占奈さんが勢いよく顔をあげる。
「私と同じ形の線あるよ!!」
満面の笑みで嬉しそうに言う占奈さん。その表情を見た瞬間、僕の胸は一気に温かくなる。
「ほらー! 見てー」
占奈さんが手のひらを見せてくる。小さくて可愛い手が僕の視線を捕らえて離さない。僕も自分の手を見せると、占奈さんが反対の手で僕の手を優しく触る。
「ここ!」
占奈さんが指さす場所を見ると、本当に同じ線があった。僕も占奈さんの手を反対の手で触りながら、その線を確認する。
「あ、ほんとだね」
お互いに相手の手を見つめ合いながら、その手のぬくもりを感じる瞬間がたまらなく愛おしい。心臓がさらにドキドキと音を立てるのを感じた。
「これって何の手相なの?」
「えっと、ごめん、分からない」
目を細めて笑う占奈さん。その笑顔が心に沁み渡る。彼女の無邪気さと愛らしさが、僕の心を完全に包み込んでくれる。
「あれ、それって昨日テレビで見たような、たしか、す……」
「は!萩村くん!」
占奈さんは焦った表情で萩村の声を遮った。萩村はその様子に気づいて、「やれやれ」といった感じで肩をすくめる。
「あー手相見てくれてありがとう、占奈さん」
萩村は自席に戻っていった。
占奈さんは少し顔を赤くしている。その様子を見て、僕の心臓がまたドキドキし始める。
「つ、次の授業もう始まっちゃうよ」
占奈さんが慌てて言う。僕は時計を見ると、5分しかないことに気づく。
僕は次の授業の準備をしながら、占奈さんと同じ手相の線を指でなぞる。占奈さんと同じ手相があることが、なんだか特別なことのように感じられて、胸が温かくなる。
○ ● ○ ● ○
授業が終わり、占奈さんの目を見計らって、萩村に聞いてみた。
「萩村、あの手相ってなんだったの?」
萩村はニヤつきながら答える。
「ムカつくから絶対教えねー」