9/129
二月は紫水晶(五)
倉橋探偵は少し不思議に思った。某夫人が倉橋に依頼したのはアメジストのブローチだけだったからだ。近いところにフローライトのイヤリングやアレキサンドライトのブレスレットがあるのに、よりによってなぜ紫水晶の装身具だけを依頼されたのか。答えがすぐには見つからなかった。
「参考までに伺いたいのですが」
倉橋探偵はいかにも付け加えるように紫苑に尋ねた。
「お祖母様からの遺品、お母様はなにを譲り受けたのですか?」
紫苑はすぐには答えず、爽やかにも怪しくも見える緑色の発泡水をストローで五秒間のみつづけた。しかもその間、倉橋探偵を上目遣いで見つめた。